月と星
学園のパーティー、
話に花を咲かせたり、婚約者や恋人とダンスを踊ったり、多くの人が楽しんでいる。
そんな中で
ただ一人で壁の花となっている銀色の髪をした少女の前に、
4人の青年と髪の赤い1人の少女が歩いてくる。
髪の赤い少女は先頭を立つ青年にエスコートをされている。
銀髪の少女は、5人に気付き、最上級の礼をする。
「ステラ・エルドワード、今夜をもって貴様との婚約は破棄する!そして、貴様を学園から追放をする!!」
会場中に響き渡る大声で金髪の青年はそう告げた。
会場の視線が全てその6人へとあつまっている。
すると、ステラと呼ばれた少女は、礼を正し、金髪の青年へと顔を向けた。
金髪の青年の名前は、レオン・ルート・ソル
このソル王国の第二王子である。
その横に立って、レオンの腕を組んでいる
赤髪の少女は、勝ち誇ったような笑みを浮かべて、大きい声でこう言った。
「公爵家の名前と、レオン様の婚約者であるということを利用している貴女に、王妃となる資格はありません!この国のためのことを思う心は貴女にはないのですか?」
「流石だ!リリス!君こそ、この国の国母たるべきである!………ステラ、貴様は、俺が愛するリリスに対して、卑劣極まりないいじめを行っていたそうではないか?それは許されることではないぞ!!リリスは、未来の王妃となる女性だ!そんなリリスをいじめた貴様は、この国から追放する!」
リリスと呼ばれた赤髪の少女の言葉を聞いたレオンは、満足そうに頷き、すぐにそう言った。
ステラは、ただ無表情のまま、聞いているだけであった。
「おい!聞いているのか!?」
ドンッ
レオンがそう言って、ステラの肩を突くと、その弾みでステラは、後ろに倒れてしまった。
ざわっ!
「な!女性に手をあげるなんて………」
「ステラ嬢と婚約破棄などふざけているのか?」
「いじめなんてステラ様がするはずありませんわ!」
周りの貴族たちは、ひそひそと話しているが、その声は、王子とリリスの2人には聞こえていない。
「「ステラ!!」」
すると、2人の少女がステラを呼んで、ステラのところへ駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?ステラ。」
鶯色のふわふわとした髪の少女がステラの肩を支えて、立ち上がらせた。
「殿下方これは一体どういうことなのかしら?」
紺色の髪を高い位置で一つに纏めているもう1人の少女が5人の方を見て、そう尋ねた。
その少女は、レオンの隣にいるリリスを見て、眉間の皺を寄せた。
「ステラとの婚約を破棄すると言ったのだ!ステラは、リリスに対して卑劣ないじめを行っていた。そのことにより、学園からの退学ならびに、国外追放とすると話していたのだ。………まさかとは思うが、我が従姉妹殿は、ステラの味方をするというのか?」
レオンは、紺の髪の少女の質問に対してそう答えた。
「………ステラがリリスさんをいじめていたという証拠はあるのですか?」
鶯色の髪の少女が、ステラに寄りそいながら、そう尋ねた。
その声は、落ち着いた声色であったが、その目は、怒りでいっぱいであった。
「いじめられていたというリリスがそう言っているんだ!間違いがないだろう!」
レオンは、リリスの腰に手を回し、力強くそう答えた。
その言葉を聞いた、周りの貴族は、呆れた様子であった。
「ステラがリリスさんを虐めたですって?そんなことありえないのよ!第二王子の婚約者であることを利用してるなんてふざけたこと言って!」
マリンは、怒りを露わにしてそう言った。
「マリン、落ち着いて?………とりあえず、場所を変えませんこと?このような場でお話しすることではないことは、流石に殿下にもお分かりになられますよね?…ねぇ?ジェイド様、ちょうど良いお部屋を用意してくださる?」
エリスは、小さくため息をつき、マリンを宥めながらそう言った。
笑顔を浮かべたが、その瞳は笑っていなかった。
「用意は済んでいるよ。エリス。」
ジェイドは、落ち着いた様子でそう言いながら、すぐに動いた。
「さぁ、姉様参りましょう。」
ルイスはそう言いながら、エリスに手を差し出した。
「ありがとう、ルイス。でも結構よ。私は、ステラをエスコートしますから。………貴方は、マリンをエスコートしてあげて?あの子の婚約者様は、そのような気遣いができないような状態でしょうから。」
エリスは、微笑みながらそう言った。
「その通りですね。………マリン姉様、よろしければ僕の手を。」
ルイスは、エリスに断れられるとすぐにマリンの方へと移動をして、手を差し出した。
「お気遣い感謝するわ。でも、婚約者がいるのに、他の男性の手を取るわけにはいかないもの。………ルイスは、殿下とリリスさんを部屋までご案内したら?あそこで固まっているわよ。」
マリンは、レオンとリリス、そしてもう一人の少年の方を睨みつけた後、ステラのそばに行って、3人で歩き出した。
「………殿下、参りましょう。」
ルイスは、殿下に動くように促して、3人の後へとついて行った。
城の来賓室に集まった8人は、各々席に座り、神妙な面持ちでいた。
窓のある方に、ステラ、エリス、マリンが3人並んで座っており、エリスのそばにジェイドとルイスが付いている。
その反対側に、レオン、リリス、水色の髪の青年が並んで座っていた。
レオンとリリスの間には、ほぼ隙間がない。
「説明して頂きましょうか?殿下方?」
沈黙を破ったのは、マリンであった。
先程よりかは、冷静ながらも怒りを声に滲ませて向かいの3人に聞いた。
「バルバート!」
バルバートと呼ばれた水色の髪の青年は立ち上がり、話し始めた。
マリンはその青年を睨みつけた。
「…数ヶ月前から、ステラ嬢にいじめられているとリリスさんが生徒会に相談をしてきたのです。初めは、ステラ嬢がそのようなことをするかと疑いましたが、我らで調査をするとリリスさんがいうことは本当で……
「そうです!物を隠されたり、暴言を吐かれたり…暴力だって振るわれましたわ!」
バルバートが話をしていると、食い気味にリリスがそう言ってきた。
「………それは、証拠はあるのでしょうか?」
エリスは、冷静かつ丁寧にそう聞いた。
「勿論だ。これを見ろ!」
レオンは、そう言って、書類を3人の前に乱暴に投げ置いた。
「………これは、殿下の護衛騎士や世話係の方々が調べたものよね?これが証拠になると?」
マリンが書類を手に取ってさっと流し読みをした後、エリスに渡しながらそう言った。
「学園に通う生徒の証言もある!ステラがリリスをいじめたという立派な証拠だろう!」
馬鹿にされたと思ったレオンは声を荒げながら、そう言った。
「神殿から遣わされている監視役の方のお話もお聞きになりまして?彼等は、神に仕える方々、虚偽などあり得ませんから。………それとも殿下は聞いていないというのかしら?まぁ、それでも構いませんわ。ジェイド様が既にお聞きになっていらっしゃるでしょうから。」
エリスもまた、書類を流し読みをし机に置きながらそう言った。
すると、エリスの横に立っていたジェイドがすぐに違う書類を出して、ルイスに渡した。
ルイスは、その書類を座っている6人の前に丁寧に置いていった。
「神殿の監視役の方は、そのような事実はないと証言しているようね。つまり、ステラがリリスさんをいじめたなんてことはないのよ!」
マリンは今度はしっかりと書類を読み、そう言った。
バルバートは、少し分が悪そうな顔をした。
「何を!こんなの貴様らが言わせただけだろう!!!そもそも、神殿の監視役なんていないだろう!」
レオンは書類を投げ捨てて、そういった。
「「「「は?」」」」
マリン、エリス、ジェイド、ルイスの4人は驚いた様子だった。
「………レオ?まさか、知らないはずないわよね?」
マリンは、声を震わせながらレオンに向かってそう聞いた。
「なんのことだ!貴様らが勝手に言っているだけだろう!?」
レオンは、大きい声でそう言った。
沈黙が続いた。
4人は呆れて声が出なかった。
"アホだアホだと思っていたが、ここまでか"と。
説明をすると、
この世界の国々には、守護神というものがいる。
守護神に仕える者として、各国に神殿があるのだが、この神殿は国には属していない。
神は民に平等である。という信念で、権力や利益といったものに縛られないようにと、独立した機関である。
そして、王族とそれに近い関係にある貴族には1人ずつ神殿から監視役が派遣されている。
国を代表する者として、相応しい人間であるかどうかを監視しているのだ。
これはもちろん、レオンとステラも例外ではない。
しかも、これは国民が全員知っているはずなのだ。学校に通っていない平民も、国王の息子も。
神に仕える者として、忖度や虚偽など絶対にしてはならないことなのである。
つまり、神殿の監視役が言っていることが真実であり、なによりも優先されることなのである。
よって、ステラはリリスをいじめていない。ということなのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。
いくら、アホでバカで役立たずな第二王子でも、こんなことは知っているはずなのだが、それをこいつは知らないのだ。
そりゃあ、高位貴族の子息令嬢である4人は黙るし、紅茶を淹れにきたメイドは、カップを持ったまま固まるし、お付きの騎士たちは鎧をカタカタ言わせる。
「え!?うちの息子、そこまでアホだった!?」
長く感じる沈黙を破ったのは国王陛下の驚愕の声だった。
「父上!」
レオンは、アホと言われたことに気づいていないのか、立ち上がって、きらきらとした目で自分の父を見ていた。
味方が増えたとでも思っているのか。
マリン、ステラ、エリスは、国王陛下の登場に驚きながらも、立ち上がって、端によけた。
「え?え?教えたはずだよね???てか、教えなくてもなんとなく気づくはずだよね?え?ちょっと〜〜〜王妃と乳母と教育係呼んで〜〜〜」
国王は、口に手を当て、オロオロしながらそう言った。
近くにいた騎士に、人を呼んでくるように頼んでふらふらと歩きながら、ソファに座った。
国王がソファに座った瞬間に、リリスが、国王の横に移動して、身体をくっつけて甘えた声で話し始めた。
「王様ぁ?あの女よりもぜぇったい、私の方が素晴らしい王妃になれますぅ。それにぃあの女ぁ、私のことをいじめてたんですぅ。私ぃほんとうにこわくてぇしくしく」
リリスは泣き真似をしながらそう言った。
しかし、国王は相手にもせず、騎士にこう言った。
「この無礼者、ちょっと牢に連れてって?あ、可哀想だから、貴人用の牢で良いよ〜」
命令をされた騎士は、リリスを連れて行った。
「は?ちょっと!なにすんのよ!やめなさい!私を誰だと思ってんの?未来の王妃よ!連れていくならあの、無口女でしょ!!!」
リリスは暴れていたが、騎士には敵わず、叫びながら連れられて行った。
「………名誉毀損と虚偽申告と不敬罪だな!」
国王は、紅茶を飲みながら、落ち着いた様子でそう言った。
「な!父上!なぜ、リリスを牢へ!?連れていくなら、ステラです!」
レオンは、机を叩きながら、慌てた様子でそう言った。
「黙れ!それ以上言うなら、お前も牢に入れるぞ!」
穏やかな様子だった国王が怒りを声に滲ませてそう言った。
すると、レオンは流石に黙った。
「順番を間違えたな。ステラ嬢、本当にすまなかった。謝って済む問題ではないと思うが、謝らせてくれ。申し訳ない。」
国王は、立ち上がってステラに向かって頭を下げた。
「とんでもないことです。国王陛下のお手を煩わせたこと、誠に申し訳ございません。」
ステラはそう言った。
その様子を見た国王はこう言った。
「…婚約破棄はしよう。」
ステラは、その言葉に対して、また最上級の礼でこう言った。
「謹んでお受け致します。」
その言葉の後、少しの間沈黙が続いたが、ステラの父の言葉がその沈黙を破った。
「国王陛下、ステラを帰らせてもよろしいでしょうか?」
すると、国王は、
「あ、あぁ。勿論だ。ステラ嬢もきっと疲れているだろう。他の者も下がっていい。レオンとバルバートはここに残れ。」
と言った。
「………それでは失礼致します。」
と、ジェイドが言い、礼をすると、それに続いてエリス、ルイスも礼をした。
「失礼致します。」
ステラもまたそう言い、部屋を出た。
「わたしは、ここに残って話を聞くわ。………ステラ、あんなこと言われていたことに気づかなくてごめんなさい。」
部屋を出たところで、マリンがそう言い、ステラを抱きしめた。
10秒ほど抱きしめた後、ステラを離し部屋へと入っていった。
「私たちは、帰りましょうか?馬車の用意をお願いしないと。」
エリスがそう言うと、一緒に部屋を出て来ていたステラの父がこう言った。
「用意している。ステラは、ルーチェと一緒に帰りなさい。馬車の中で待っているから。私はそこまで送ろう。」
そして、5人は歩いて外に出た。
すると、城の入り口にルーチェが立っており、ステラの姿を見つけると駆け寄って来た。
「ステラ!」
すると、ステラを抱き寄せた。
「ルーチェにいさま。苦しいです。」
ステラは少し笑いながらそう言った。
その様子を見て、エリスとステラの父はホッとした。
「あぁ、ごめんごめん。」
ルーチェと呼ばれた青年は、微笑み謝りながら、ステラの体を離したが、手は握ったままだった。
「………ステラ、すまなかった。父は、ステラの苦しみに気付いてあげられなかった。……父はずっとお前の味方だ。後のことは任せろ。今日はゆっくり休むといい。」
ステラの父は、解放されたステラを抱き寄せて、頭を撫でながらこう言った。
「……とうさまは悪くありません。………とうさまも、無理はなさらないでくださいね。とうさまに何かあった方が苦しいです。」
ステラは、微笑みながらそう言った。
「っ!………あぁ、体は大事にするよ。」
ステラの父もまた微笑みながらそう言った。
「じゃあ、戻るよ。ルーチェ、ステラを頼んだよ。」
もう一度ステラの頭を撫でた後、ルーチェの肩に手をぽんと置き、そう言った。
ルーチェは、父の目を見ながら、頷いた。
「俺たちも帰るか。エルドワード公爵、馬車の用意、誠にありがとうございます。」
ジェイドがそう言うと、ステラの父は手を振りながら城の中へと戻っていった。
「じゃあね、ステラ。今日も、ゆっくり休むのよ。本が面白いからって夜更かししては駄目よ。」
エリスはそう言った。これはいつも別れる時に言う言葉だ。
「うん。」
ステラは、頷きながらそう言った。エリスと目を合わせていないところを見ると、夜更かしする予定だったのかもしれない。
「全く。ふふっ。じゃあね。」
そう言ってエリスとルイス、ジェイドは馬車に乗り込んだ。
「…僕たちも帰ろうか?」
ルーチェはステラの手を引き、そう言って馬車に乗った。
ステラたちは家へと帰った。
屋敷へ帰ると、使用人たちはいつも通りであった。
着替えて湯浴みをして、ルーチェと少しお茶をした。
今日の話はほとんどしなかった。家族の話を沢山した。
留学中のもう1人の兄がいっぱい本を送って来たらしい。
ステラ宛のものも沢山あった。
ステラは、今から何冊か読もうとしたが、ルーチェに止められた。
「………今日は満月だね。」
ルーチェはゆっくりとそう話し始めた。
「?そうですね?」
ステラは少し不思議そうにそう答えた。
「あの日から、丁度10年だね。」
ルーチェは、悲しげにそう言った。
「…はい。………殿下と婚約をしてから10年と1日ですね。」
ステラはそう言った。
「………ステラ、君にはこれからきっと良いことが起こる。幸せになれる。だから…今日はお休み。エリス嬢も言っていただろう?夜更かしはいけないよ。」
ルーチェはそう言いながら、ステラのこめかみにキスをした。
お茶を飲み終わり、ルーチェが寝ようというので、自室に戻った。
ステラは寝ようとベッドに入った。
不思議とベッドに入ったらすぐに眠気が襲って来た。
ベッドに入ってから何分ほど経ったか、ステラは誰かに呼ばれているような気がした。
部屋を出て、書室に向かった。
書室に入り、奥に進むと、窓のところに少年が座っていた。
「リュエ」
ステラがそう言うと、少年は振り返りこう言った。
「迎えに来たよ。僕の可愛い星の子よ。」
次の日の朝、ステラを起こそうと部屋に入ったメイドがステラがいないことに気がついた。
家のどこを探してもいない。書室にも、庭の東屋にも。
誤字報告ありがとうございます!
修正致しました!
読んでくださり、ありがとうございます。
分かりづらいと思います。すみません。
これをもう少し広げて、長編を書けたら良いなと思います。
とりあえず、まだ書けないので、短編用に作った話を供養!!!