二 不可解な虐待
青年期に差し掛かる少し前どんなものかはわからないがこの世にはどうやら「楽しい」ことがあるらしい、楽しみとは何かわからないがそう思ったのは村長が夜ごとキラキラと光あふれる町の方へ向かって行き帰ってくるといつも上機嫌が良さそうだったから、ただその様子が少し恐ろしくも感じた、それはそんな陽気な表情をする人間や大声で笑う人間ががこの村にはいなかったからである。
あれはきっと楽しみに違いない、僕も楽しみを感じたい、
村長と自分との間に何の違いがあるというのか、
もし自分のわからない違いがあるにしても1日くらいは楽しんでもいいではないか。
そしてある日村長に向かってどうか自分も一緒に町に連れていって下さいとお願いしてみた、
すると村長は少年をチラリと見て従者に何やらささやいた、従者は少年に「お前の家はどこか?」と尋ねた。
少年が案内すると従者は両親に何やら話しかけていた、
その間両親は床にすりつけんばかりに頭を下げていた、
あまりにペコリペコリとしているので可笑しくなって笑いそうになるのをこらえていた。
従者が去り両親は同時に少年の方を向く、少年の顔から先ほどまでの可笑しさは消えた、
父親は馬乗りになり力いっぱい少年を殴りつけ母親は少年を罵った。
これ以上殴られたら自分は死んでしまうのではないかと思ったところまで覚えているが、失神してしまったらしく目が覚めてからは今までに感じたことのない恐ろしい痛みに襲われた、
あまりの痛みに叫ぼうにも顔が晴れ上がり叫べない、
とにかく何かを訴えようとするとうるさいと怒鳴られたので黙って耐えねばならなかった。
やがて少し腫れが引いた時に自分の状態が少しわかった、
まず自分が生きていること、お腹が空いてたまらないこと、
手足も随分やられていて手の指は何本か折れていること、
こちらは恐らく母親がやったのだろう、もし父親であったならばこんなものではすまないであろうから。
ようやく動けるようになると母親が食べ物をよこし、
それを食べたらすぐに畑にきて手伝うように言われた、
食べるも何も歯は折れているし口の中は傷だらけで随分難儀したが、
この時だけはいつものほとんど味のないスープがありがたかった
スープにパンをつけドロドロにしてから胃に流し込むようにして飲み込む、、
胃にじんわりとしたものが伝わり味は全く感じないのに初めてうまいと感じた。
この時潰れた鼻と曲がった手の指は生涯治らなかった。