第3話 初見です
翌日。
早速だが、俺と猫野はメールアドレスを交換した。
朝起きて、スマホを見たら、一件のメッセージが着ていた。
__第2理科室で作戦会議的なのをやるから、8時に来てね__
この部活朝練あるのかよ......。
早朝からテンションが下がるな。
けど、猫野は本気で俺をリア充にさせようとしている。
その期待に応える責任が俺にはある。
ベットから起き上がった俺は、速攻で顔を洗い、冷蔵庫にある食料を詰め込んだ。
食べている間に制服姿に着替える。
何故こんなに急いでいるかというと、今7時40分だからだ。
どんなに急いでも、学校まで30分はかかる。
8時には到底間に合いそうにない。
だが、諦めて行かないという選択肢をしたら、猫野に顔向けができない。
だから、俺は玄関のドアを思いっきり開け、飛び出して、風をきるような速さで駅へと向かった。(*運動音痴)
***
ガラガラと第2理科室のドアを開けた。
中には当然猫野がいた。
「遅かったわね。でも今日連絡したのだから仕方ないわね」
俺は結局10分程度遅れた。
猫野は読んでいる本を閉じ、俺の方へと向いた。
「とりあえず、今日からの目標は......」
「......それは如何に」
俺と視線を合わして、猫野は言う。
「一ヶ月以内に女友達でも、男友達でも、私に友達と言える生徒を5人以上つくるということよ」
「5人以上!? 」
俺は思わず訊き返してしまった。
だって、俺高校生活で喋ったことある人、両手で数えられる程度しかいないぞ。
しかし、猫野が言っていることに一つ引っかかる点がある。
「でも、猫野言い方だと誰でもいいらしいけど、昨日言っていたことと少し違くないか?」
「どういうことかしら?」
「クラスで一番カーストが高いグループに入れって言ってなかった? これじゃ、ランクが低いグループと仲良くなっていいことってならないか?」
「あら、よく覚えているわね。でも、あなたの現状ではグループを選べる状況にすらなっていないわ」
「......確かにそうだな」
猫野のド正論だ。
今の俺はボッチの象徴だ。
そんな奴がいきなりリア充たちと話しているのは、明らかにおかしいと周りから思われるだろう。
「とりあえずこの目標は、一ヶ月とするわよ」
「一ヶ月か。......そんな簡単にうまくいくか?」
「今私と普通に会話できている時点で、うまくいくと思うけど」
「それは猫野が裏の姿だからだよ」
学校生活では、誰にも対等に話せる、敵を作らないような振る舞いをしている。
「じゃあ、表の姿で会話してあげるわ」
「おお、頼む」
俺がそう言ったら、猫野にスイッチが入ったかのように、表情が明るくなった。
その姿を見てしまい、俺は背筋が凍った。
こんなにも表と裏が違う人がいるとは。
彼女は声優だから、オンとオフの切り替えが早いのだろうか。
「柊君大丈夫?」
猫野は上目遣いで、そう言った。
やべえ、そんなことをやられちまったら、惚れてしまうじゃないか!
「ちょっと興奮した顔、気持ち悪かったわよ」
ふむ、前言撤回だな。
こんな奴に惚れようとしていた俺が馬鹿だった。
声優の猫野一夏はどこに行ってしまったのだろうか。
「そいえば、猫野っていつ声優の仕事をしてるんだ? この学校って割と進学校だから、勉強が忙しくて、仕事は中々できないよな」
「休日が殆どだわ。それと、放課後にスタジオに言って、アフレコをするわよ」
「そんな貴重な放課後を奪ってしまって、申し訳ないな」
猫野一夏にとって、俺なんかにかまっている時間より、声優の仕事の方が断然に大切だと思う。
「それはお互い様でしょ」
「ん? どういうこと?」
「はあ、あなた作家でしょうが。部活なんかをしていたら、執筆が捗んないじゃない」
「ああ、そういうことか。でも俺は執筆時間は毎日決めているから大丈夫だな」
「何時から何時までしているの?」
「大体、10時から12時くらいまでしていると思う」
多少のズレは生じる。
例えば、睡魔に勝てなくて、寝てしまったり、ゲームの誘惑に負けたり、時には、描きたくないと思うときもある。
でも、なんだかんだで、この生活は3年間続けている。
「執筆のスピードかなり早いのね」
「んー、まあまあなのかな?」
3年間で300万文字程度までいっているから、中々早いほうなのだろうか。
個人的には学生にしては、かなりすごいと思う。
でも、俺が今連載しているのは、完結に向けて動き出した。
「いつか俺の作品を、猫野一夏がアフレコしてくれないかな」
「そこに関しては、やりたい気持ちはあるわ。まあ、書籍化することを楽しみにしているわよ」
「そいえば猫野って、神造人間を最新話まで読んでいるのか?」
神造人間というのは、俺が初めて連載した作品でもあり、ネット小説史上一番人気のサイトで、2年連続ランキング一位を達成した作品だ。
「読んでいるわよ。ネット小説だと一番好きだもの」
ありがたいことだな。
それにしても、高嶺の猫野がオタクだということが、あまり実感がわかない。
なにせ彼女は、リア充だからなっ!
......関係ないのか?
「俺の小説を読んでくれてありがとうな」
「別にあなたに感謝を言うつもりはないけれど、作品には感謝するわ」
「おいおい、どんだけ俺のことが嫌いなんだよ」
「......」
沈黙が続いた。
「おい、そこはツッコミ入れてくれ」
「私はフラグを立てるような馬鹿ではないので」
ふむ、そうだな。
これがフラグになりかねないな。
アニメとかだと、鈍感主人公がツンデレヒロインに対して、好意に気づかない、とか、よくある話だな。
だが、何度でも言おう。
ここは3次元だ。
そのようなおこがましい考えはしないようにした方がいい。
「話が逸れてしまったわね。一応今日の課題を言うわ」
ゴクリ。
「女子と男子両方に話しかけることよ」
「えっ......?」
「だから、そのままの意味だわ」
「いや、無理無理」
俺は首をブンブンと横に振る。
そしたら、猫野は顔を取り繕って、華やかな顔になってから、
「できるわよ。零・先・生!」
ズキューン。
効果は抜群のようだ。
これが猫野表の姿なのだ!
......俺は何で一人で興奮しているんだ?
猫野の裏の姿を知ってしまったばかりだろうか。
俺はあたりを見回してみると、彼女の姿はなかった。
「撤収はやっ!」
この教室に俺一人が取り残された。