第2話 猫野一夏
「ということで、涼太にも猫野を知ってもらう」
「ちょ、それは言わないでください」
猫野は慌てている様子だ。
「駄目だ。涼太の正体を知ったのだから、猫野の正体を言わなくちゃWIN,WINじゃないだろ」
「別にWINだけで大丈夫ですよ」
猫野は俺に完全の裏の顔を見せてしまったから、開き直っているよな。
「彼女は実は声優なんだ」
「......は?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
声優だと......。
まさか、
「猫野一夏さん......?」
「もう言われてしまったら、相方ないわ。そう、私が猫野一夏よ」
今、声優界で絶大に人気な声優だ。
高校生だということは知っていた。
猫野一夏の凄いところは、顔出しをしないで声だけで認められているところにある。
普通は表に姿を表して、イベントとかの仕事をしている。
けど、彼女はキャラクターを演じること以外に一切しない。
そんな彼女がこんなにも綺麗な人だとは。
性格は嫌いだけど。
「柊君、やるからには本気でやるから覚悟してね」
「あっ、は、はい」
「人と喋るの初めてなのかしら」
俺が明らかに挙動不審だということは、第三者から見ても分かると思う。
猫野からかなりなめられていることも分かる。
「君等には新たな部活動でしてもらおう」
そう言い出すのは五十嵐さんだ。
「私仕事があるから、部活入りたくないですけど」
「お、俺も小説を連載中だから、できれば学校に割く時間を減らしたい」
五十嵐さんは俺達の話を聞いて、一つため息をつき、補足をする。
「部活動と言っても、ボランティア活動をするボランティア部だ。別にボランティア的なことをしなくても一向に構わない。あくまでも二人だけが話せるような空間をあげるだけだ」
それはどうも。
「こんなに話が進んでますけど、俺にきょ、拒否権というのはないのですか?」
「ない」
「拒否権があったら、早く拒否するべきだね」
どうやらないらしい。
こんな俺みたいな人間が青春なんて送れるわけないのに。
「ということでこれから涼太の面倒をよろしくね、猫野さん」
普段呼び捨てで呼んでいるのに、こういうところでさん付けをするあたり、五十嵐さんはやらしい。
「必ずしも柊君がリア充になれるとは限りませんよ」
「全然大丈夫だから。彼女くらい作れれば」
「か、彼女!?」
いくらなんでも目標高すぎじゃないか!?
一生作ることができないランキング2位くらいに入るぞ!(俺の中で)
ちなみに一位は子供だ。(深読みはしないでくれ)
「何そんなに驚いているのかしら」
「あっ、はい。すいません」
猫野の威圧感が半端なくて、謝ることしかできなかった。
「彼女くらい三年に上がるまでに作れるわよ」
嘘だ。
二次元だったらそうなる。
オタク学生が学園のヒロインに囲まれて、鈍感主人公はその好意に気づかない。
みたいのが続いて、一年経ったら、メインヒロインと結ばれる。
だが、三次元はオタクに対しての批難が酷い。
オタクの時点で、大きなディスアドバンテージを抱えている。
高校入学当初はクラスメートと馴染もうと思っていたけれど、周りの話についていけなくて、今に至る。(ボッチだということ)
「でも、まずは男友達を作ることね」
「それならできる可能性は高いかも」
「柊君が思っている友達ではないかもしれないけれど」
「えっ、どういうこと?」
「クラスで中心的な存在の四人組男子ととりあえず仲良くなることね」
「えっ......?」
全く理解が追いつかない。
「だから、橋場君と赤月君と大森君と宮島君のことよ」
俺の思っている四人組と完全一致した。
「理由が聞きたい様子ね」
うんうんと俺は頷く。
「底辺なメンバーと最初に仲良くなってしまうと、中々上のメンバーに這い上がるのが大変なのよ」
猫野はそれにと言って続ける。
「君の場合は居場所が今何処にもないから失敗は何度でも許されるわ」
俺はやっと猫野が思っていることを理解した気がする。
「つまり、底辺なグループの一人が一つ上のランクのグループに行こうとして、失敗したとき、元々いたグループから除外されるということか」
「まあ、そんなところね」
そこで外野が入る。
「君たち相性いいじゃないか」
「全くですね」
「同じく」
「フフフッ。それにしても、来年涼太が彼女連れてきて、ここの喫茶店に来てくれることが楽しみで夜しか眠れないね」
夜に眠れたら十分ですよ。
と、そんなツッコミは面倒くさいからしない。
「それにしても、こんなにいい喫茶店があったなんて知らなかったわ」
上尾市の中でも住宅街が広がっているところにあるため、知る人ぞ知るみたいな感じだ。
「声優の仕事しているのに、何で埼玉県に住んでいの、ですか?」
目の前にいる人が声優だということを思い出してしまい、いきなり敬語を使ってしまった。
「母親が厳しいの。......あなたに家庭内の事情を教える義理はないけれど」
「そ、そうだな。訊いてごめんな」
あまりこういうことは、質問しない方がいいって、ギャルゲーでも学んだ。
「あっ、私から一つ質問したいことがあったの」
猫野は、元々は俺(零)と会って、小説について話す予定だと思っていたから、質問があるくらい当然だろう。
「零先生は何で書籍化しないの?」
予想通りの質問だった。
「小説を書いていることを家族に言っていないから......」
「......えっ」
拍子抜けのようだ。
そう反応するのは当然だろう。
「俺には妹というのがいるんだ」
「それがなにか関係あるの?」
「実は妹はアニメとかラノベとか大好きなんだ。当然ネット小説も読む」
「なるほどね。妹さんを思っているということね」
「まあ、そんな感じだ」
妹は今中学三年と高校受験の最中だから、勉強に集中してほしいという願いだ。
王手レーベルからは何件かオファーはきているが、すべて断っている。
その件と他に書籍化しない理由がある。
まだ完結していないからだ。
もし、ラノベ作家になったとしても突然書けなくなったら大変だしな。
「......だけど、完結したら書籍化してみたいなとは思っている」
「......ふーん、勝手にすれば」
冷たっ!
訊いてきたのはあなたでしょ!
と、言いたいところだが、ここは店の中だ。
あまりにもうるさいと、お客さんからの視線が飛び交ってくるから、目立つ行為は避ける。
「じゃあ、これからは仲良くしていくんだよ」
「無理ですね。私と柊君の関係は、糸のように細いのですから」
「今わね」
五十嵐さんはまるで進展があるかのような言い方をする。
この後は何事もなく、家に帰り、来週にテストがあるから、勉強に取り組んだ。
夜には2000文字程度執筆した。
こうして俺にとっての変化があった一日は終わる。
ベットの中に入り、天井を見上げながら、青春とはどういうことなんだろうと考えていた。
俺なんかにできるのだろうか?
突然不安が押し寄せてくる。
だから、
今後の展開楽しみ!
なんていう期待は、くれぐれもしないように。
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