11.師匠強し!初手合わせ
賢也が気の修行を始めて3ヶ月が経過した。
「練気も操気もスムーズに出来るようになってきたな」
いつもの山中を走りながら一人呟く。そこで、試しにと脚力を強化し、ジャンプしてみる。3m程ジャンプ出来たため、賢也自身が驚いてしまった。
(これなら!)
もう一度、脚力強化し木に向かってジャンプする。その木を蹴って更にジャンプしようとしたが、木が折れてしまう。漫画等に出てくる三角飛びで木々の間を駆け抜けようと思ったが、上手くいかなかった。
(師匠に聞いてみよう)
その日の特訓を終わらせた賢也は、昼に試そうとした三角飛びを繰り返す方法がないか剣十郎に尋ねてみた。
「師匠、だいぶ気をコントロール出来るようになってきたんで、脚力を強化して、木から木に飛び移りながら進もうとしたんですが、上手くいかなかったんです。何かコツみたいなものはありますか?」
賢也の質問に剣十郎は答えた。
「上手くいかなかったとは、木を砕いたんだな」
「はい。そうです」
「今からテストをする。私の言う場所に気を集中してみろ」
そう言うと、賢也を立たせる。
「いくぞ。右足」
賢也は、すぐに右足に気を集める。
「ふむ。左手、腹、右手、左足、左手!」
言われる通りに次々と気を集中する場所を移動させる。
「次が、最後だ。椅子!」
「え、椅子?」
賢也は戸惑う。椅子にどうやって気を練るのか分からない。
「それが原因だ。お前はまだ自分の触れるものを自身の気を使い強化出来ておらん。蹴り出すための踏み場が耐えれず壊れてしまえば連続で進むことは出来ん」
「どうすれば良いですか?」
「体に気を集中するのと変わらない。手や足、自分の体の触れている部分に気を流すだけだ。これは、次の段階である剣技の修得に必要だ。剣の強度を上げねば折れてしまうからな」
剣十郎に言われた通り、椅子に触れて椅子の周りに気を纏わせるイメージで流してみる。すると、賢也の気が椅子を包み込んだ。
「なるほど。こういう事ですね」
賢也が上手く気を操っているのを見た剣十郎は、
「よし、明日からは剣技の修練も追加するぞ」
「はい!」
待っていましたとばかりに力強く返事をする。自分の部屋に戻った賢也は、明日が楽しみでしょうがなく、なかなか眠りにつけないのであった。
次の日、朝の内にいつもの練気、操気の修行を終わらせる。そして、午後になり、道場に行くと、剣十郎が待っていた。
「剣技を教える前に、お前がどの程度、剣を使えるのか見ておきたい」
そう言うと竹刀を渡され、剣十郎は身構えた。
「始めるぞ!」
剣十郎は、開始の合図と同時に一瞬で間合いを詰める。剣十郎の竹刀には当然の事だが、気で強化されている。当たれば只では済まない。賢也は、剣を受けたら駄目だと一瞬で判断。左に飛ぶ。剣十郎の竹刀が空を斬る。それを見た瞬間に今度は賢也が剣十郎に向かって間合いを詰める。剣十郎と同じように竹刀に気を纏わせ、斬りつけたが、剣十郎は簡単に弾き返す。そのまま斬り返してくる剣十郎の攻撃を後ろに下がって躱す賢也。
「思ったよりやるじゃないか。気もしっかり扱えている。それでは、行くぞ」
賢也の動きに感心した剣十郎は、竹刀と右腕に気を集めだした。しかも、先ほどよりも気の量が大きい。剣十郎はその場で空を斬った。
「剣技、夏の型・飛燕!」
「がはっ!」
賢也の腹に鈍い衝撃が走る。空を斬っただけの剣十郎の攻撃が離れている賢也に当たったのだ。体勢が崩れた隙を逃さず、剣十郎が一気に間合いを詰める。剣十郎は竹刀を後ろに引いていた。その体勢から突きが来ると判断した賢也は、体勢を整えると、突きの軌道に竹刀でガードする。
「剣技、冬の型・氷雨!」
剣十郎は、賢也に突きを放つ。
(よし、予想通り。ガードして、竹刀を弾いたら、反撃だ!)
剣十郎の突きが賢也の竹刀に当たったと思った瞬間、腹と右足に竹刀が当たる。剣十郎は、一瞬で3回の突きを放っていた。
腹と右足に突きを受けた賢也はその場に膝をつく。
「くぅっ」
「もう終わりか?」
「まだ、まだぁ!」
そう言うと、賢也は膝をついたまま横に薙ぐ。
剣十郎は、サッと後ろに下がり躱す。その間に賢也は起き上がる。右足の痛みで、速く動けそうにない。
(カウンターしかない)
剣十郎は、ゆっくり近付いてくる。賢也が動けないことが分かっているからだ。二人の攻撃が届く範囲まで近付いた。剣十郎は、竹刀を上段に構える。賢也は、それに合わせカウンターを当てるつもりで下段に構える。剣十郎の竹刀が振り下ろされる。賢也は痛みを我慢し、最後の力を振り絞り、体をひねり避け、そのまま斬り上げた。が、次の瞬間、賢也の体が宙に浮いていた。顎に痛みを感じる。
「剣技、春の型・朧」
剣十郎の声を聞きながら、賢也は意識を失うのだった。
賢也は気が付くと、剣十郎が傍に立っていた。意識を取り戻した賢也に剣十郎は、
「なかなか良い動きだったな」
「ありがとうございます。でも、流石ですね。ここまで歯が立たないとは。もう少しやれるかと思ってたんですが…」
「私からすれば、剣技を使わせられると思っていなかったからな。お前の力を侮っていた」
剣十郎は、賢也の戦闘センスに感心していた。そして、竹刀を構える。
「では、剣技を教える」
賢也は、体の痛みを我慢しながら立ち上がり、特訓を再開するのだった。
剣十郎さんは、自分の中で設定上60歳を越えた方にしてますが、若者にはまだまだ負けません。
賢也の修行はまだ続きます。
今後も読んでもらえると嬉しいです。