100.力也の切り札
力也の目の前にはスライムが静かに立って?いる。それは、以前に戦った黒いスライムとは違い、如何にも毒を持っていそうな紫色の毒々しいスライムだった。
「前のとは違うが、どう見てもこいつも物理攻撃は皆無って感じだな」
物理攻撃オンリーの力也に取って、物理無効に近いスライムでは相性が悪過ぎる。間違いなく、それを狙って黒死竜は、スライムを寄越したんだろう。
「兎に角、まずは小手調べだ」
力也は、スライムとの間合いを詰めると双剣でスライムを十字に斬る。
体が柔らかいスライムは、手応えを感じることも無く、簡単に4分割に斬り裂かれた。だが、斬られたスライムは、何事も無かったように一つに戻り、ぷるんと体が揺れるだけだった。
「やはり、効かないか」
だが、色が色なだけに、斬ったら剣が毒で溶けてしまう等も考えたが、それは無かっただけでも安心した。
元に戻ったスライムは、力也に向かって、紫の液体を吹きかけた。力也は当たらないように液体を躱す。飛ばされた液体が床に当たると床が溶け始めた。
「やはり、酸か。だが、そんな物は当たらない」
力也は再びスライムを十字に斬ると、4分割になったスライムの体の一つを更に十字に斬る。元の8分の1となったスライムだったが、簡単に元の一つに戻ってしまった。
「成程。この程度の大きさでは…」
スライムが体を伸ばして力也に巻き付こうとしてきた。
「…元に戻ってしまうのか」
伸びて来たスライムの体を半分に斬り、距離を一旦取る。斬られたスライムは、離れた距離で二つに割れていたが、それぞれがズルズルと地面を這いずって、再び一つとなった。
「分かれた物は、それぞれで動けるのか。これは、間違いなく前のスライムと同じだな」
前の自分なら、間違いなく疲れた所をやられていただろうが、今は違う。あれがある。だが、あれは数が限られているから、使うのはまだだ。
力也が、自分の持つ切り札について考えていると、スライムの様子が変わってきた。先ずは、毒々しい紫色だった体の色が、硬い金属の塊なのかと思う位の鮮やかなメタリックシルバーに変わる。そして、ペタッと平らになり、円状に変形すると、クルクルと回転を始めた。
「何だ?」
高速に回りだしたスライムは、そのまま宙に浮き、力也目掛けて突進して来た。
「速い!」
力也は、剣で受けると、ギィン!と金属がぶつかった音が鳴り響く。
「馬鹿な。スライムのゼリー状の体でこんな音がする筈がない」
スライムの勢いに押され、少しずつ力也の顔に近付いて来る。
「ちっ。力負けなど…、するかぁ!」
力也は、強化レベルを3に上げると、スライムの軌道を逸した。スライムは、床にぶつかると、床を簡単に切断する。
「回転鋸みたいだ。こいつ、体の色が変わると、能力が変わるのか」
切断された床の断面は、見事なものだった。今のを顔面に食らっていたら、即死していただろう。
スライムは、回転を止め、再び体の色を変化させる。今度はオレンジ色だ。
「次は何だ?」
オレンジ色の能力は思い付かなかったが、スライムは、体の形を変え始める。
「な、人の形だと」
スライムが形作ったのは、幼児位の背丈の人の形。更には右手には、先程と同じメタリックシルバーの剣を模った物を持ち、左手の拳部分は赤い。
「部分的に色を変え、複数の能力を扱うという事なのか」
スライムは、力也の間合いに一瞬で入る。そして、右手に持つ剣を力也の足目掛けて斬りつけてきた。
「スライムのくせに、人みたいな動きをしやがって!」
力也は左手の剣で受け止め、右手の剣で斬り返す。すると、スライムは、左手で剣を受け止めた。いや、受け止めたというより、弾力性のある腕で、跳ね返した。
「これは、ゴムみたいだ」
跳ね返された反動で右腕は勢い良く上に戻された為、肩が脱臼してしまう。
「ぐぅぅっ」
そして、スライムの赤い拳から炎が現れる。その炎は、力也に向けて放たれた。
「ぬぉぉぉ!」
力也は全力で後ろへ跳躍し、炎を躱すと、外れた右肩を自力で嵌め込む。
「この野郎。前のスライムと同じ位強いじゃないか」
つくづくスライムはゲームの最弱キャラに設定されるようなモンスターじゃないぞ。と、力也は心の中で文句を言いつつ、懐に手を伸ばす。そして、一つの筒を取り出した。
「あいつは、赤い部分は炎を出すという事は、あの部分にはこれは効かないだろうな」
筒を見ながら、力也は呟き、双剣を鎌へと変えると、筒を先端に取り付ける。そして、もう一つ懐から同じ筒を取り出した。
「さあ、前回のリベンジだ。お前を倒す」
力也はスライムに向かって駆け出した。それに合わせてスライムも力也に向かって駆け出す。力也の鎌とスライムの剣が激しくぶつかる。力也は勢いを殺すことなく、スライムの横を通り過ぎ、背後へと回ると手元のスイッチを押しながら、鎌を振り抜く。
「まずは半分!消えておけっ!」
鎌の先端に取り付けた筒が破裂すると、中から炎が溢れ出す。
力也の炎を帯びた鎌の一振りは、スライムの剣と体を横一文字に斬り裂き、炎が下半身部分を燃やし始める。
「!!!」
スライムは、声を上げる事はないが、力也の一撃で自分の体が切断された挙げ句、燃やされている事実に驚いているようだった。
そして、燃える体を慌てて赤い炎の体へと変化させ、燃え尽きるのを防ぐ。
「ちっ。半分も燃やせなかったか…」
それでも、4分の1位は消滅したようだ。だが、スライムは体全体を赤く変化させてしまった。もう炎は通用しないだろう。
「予想通り全身を赤くしたか」
力也は、手に持っている筒を再び鎌の先端にすぐに取り付けた。
「これで止めをさせると助かるんだが…」
スライムは体全体から炎を噴出させながら力也に突撃して来た。それをヒラリと躱しながら鎌を振る。
「飛燕!」
至近距離からの飛燕は、炎に包まれたスライムの体を再び半分に斬る。二つに分かれたスライムは、一つに戻ろうと体を寄せた時、力也は鎌の先端に付いている筒をスライムの体の間に押し込み、筒はスライムの体に挟まれた。
「これでどうだ!」
力也はスイッチを押す。筒がは爆発すると今度は炎ではなく氷が現れ、スライムは体の内側から氷漬けとなった。
氷漬けのスライムを力也は鎌の柄で砕くとその欠片を一箇所へ集めた。
「やはり、まだ死んでいないか…」
よく見ると粉々になったスライムは炎によって凍りついた体を溶かし始めていた。
「だが、これも想定内だ!これで終わりだ!」
新しい筒を更に取り出すと、鎌の先端に取り付け、鎌を高く掲げるとスイッチを押した。
鎌の先端から雷がスライムの欠片達に落ちる。
激しい爆発を起こし、全ての欠片は消し炭となった。
「やったぞ。他の奴らは?」
力也が周りを見ると、賢也は
黒死竜と激しい戦いを繰り広げており、参加する隙が無い。セン達を見ると、四人で何やら戦っている。
「千志郎達を手伝うか」
力也は、千志郎の元へと向かうと、千志郎は怪物の舌のような物に腕を絡め取られているのにも拘らず、何か考え事をしているのか呆けたまま立っている。
「何をボサッとしている。千志郎」
力也は、センに巻き付いている物を切断する。よく見れば舌じゃなく蝶の口のようだ。
「力也さん!スライムは?」
「ああ、倒したぞ。お前達は何をしているんだ」
「斬っても斬っても、分かれた体から足が生えて、分裂するんです。力也さん、一緒にこいつを倒そう」
「ああ、やるぞ」
成程。こいつもスライムみたいなものか。だが、やると言ったが、切り札は残り二つ。やれるか?いや、やるしかないんだ。
力也は、懐にある残り二つの筒に触れ、目の前にいる気味の悪い姿をした怪物に鎌を向ける。