9.四候闘剣術との出合い
ハンターとなった賢也は、自分の闘い方を改めて考える。
(ハンターになったのはいいけど、よく考えたらVRでの戦い方じゃ駄目だよな)
ゲームのモンスターはプログラムで動くため、慣れれば動きが読める。だが、今後戦う怪物は、生きている。どんな動きをしてくるか分からない。そんな相手と戦うには、やはり戦いの基礎が必要じゃないのか。
(武器は剣を頼んだからな)
最近のハンター達はほとんどの者が銃を使っている。何故なら、危険な怪物に遠くから攻撃出来るため、自身の生存率が上がるからである。だが、怪物達の動きは素早いため、命中率が非常に悪く、コストパフォーマンスが悪い。更に、より性能が良い銃を買うには、ハンターランクを上げる必要がある。このため、銃を使うハンターは、Fランクから抜け出せないハンターがほとんどだ。
賢也は、VRで剣士をしていたため、やはり剣で戦いたいという気持ちがある。そこで近くの剣道場に行ってみた。
子供達が練習をしている。
「めーん!」
動きを見ながら、怪物相手の動きじゃないなと思う。もっと実戦的なものがいいなと思うと、その場から離れていった。
家に帰った賢也は、ネットで探してみた。
「何か実戦的な剣術って無いかな」
剣術をキーワードで検索してみるが、どれも剣道ばかりで自分の探す実戦的な剣術は見付からなかった。
「無いなぁ」
「何が無いの?」
後ろから綾乃が声をかけてきた。
「あぁ、どこか実戦的な剣術を教えてくれる所が無いかなって探してたんだ。この間みたいに危ない戦い方はまずいだろ。ハンターになるって決めたのに死ぬ戦い方はごめんだからな」
「どんな検索をしたの?」
綾乃はPCの検索ワードを覗き込む。
「これとかどう?」
そう言うと、キーワードに『古流』、『闘う』の文字を入力し、検索し直した。
「ほら、戦国時代とかから続いてるような剣術があるかもしれないじゃない」
検索結果を見ていると一人のブログが見つかった。
タイトルが、『誰か代わりに継いでください』というもので、父親が娘に剣術を継げとしつこく、継ぐ気のない娘が代わりに誰か継いでくれないかという愚痴のブログだったが、剣術の名が四候闘剣術という聞いたこともない剣術だった。
「聞いたこともない剣術だなぁ」
疑問に思いながらも、闘う剣術という名に興味を持ち、次に四候闘剣術で検索してみる。
しかし、検索で出てくるのは、このブログ1件だけだった。
気になった賢也は、ブログの主にメールをしてみる。
「ブログを拝見させて戴きました。四候闘剣術とは、どのような剣術なのでしょうか。もし、実戦用の剣術であるのでしたら、私に教えて頂くことは出来ないでしょうか」
この剣術が実戦向きだといいんだがなと思いながら、他を探し続けるのだった。
次の日、出勤した賢也は上司に報告する。
「すみません。実は私もハンターになりました」
「何?お前いつの間に養成所に行っていたんだ?」
「いえ、実はこの休みに怪物に襲われてしまって、退治しちゃったんですよ。それでハンターになる事になりました」
「この休みに退治された怪物ってあのニュースのか!」
前に退治した怪物のニュースがかなり話題になっていた。一般人が新種の怪物を退治したと。賢也は、名前を出さないで欲しいという要望を出していたため、誰が退治したかは不明だったのだ。
「凄いな。それで仕事は続けるのか?」
一般的な会社に勤めながらハンターの活動をするハンターもいるため、仕事を続けていくのか確認をとる。
「はい。そのつもりです」
「分かった。上には報告しておく。そうか、お前があのニュースの一般人なのか。マイハンターに登録してもいいか?」
「問題はありませんが、まだ武器もありませんし、戦う術もまだまだなので」
「分かった。活動出来るようになったら教えてくれ。登録するからな」
「分かりました」
上司への報告を終えると、自分の席に戻る。すると、上司とのやり取りを見ていた優が話しかけてきた。
「先輩!ハンターになったんですか!」
「うん。自分でもなる気はなかったんだけどな」
「凄い!マイハンター登録させてくださいね。やっとあの嫌な地域ハンターから、さよならが出来ます」
「あはは。まだ活動出来ないけど、いいよ。」
「やったー」
優は上機嫌で席に戻っていった。
そして、仕事が終わり家に帰るとまた剣術について調べようとPCの電源を入れると、メールが届いていた。
送信者は知らない相手だった。
(誰だ?)
メールのタイトルが『連絡ありがとうございます』だったので迷惑メールかと思ったが、開いてみる。すると、あのブログの主からの返事だった。
『四候闘剣術とは、昔から我が家に続く剣術です。知っている人はいないと思います。実戦向きかとの事ですが、父に聞いた所、現代で最強の剣術だと豪語していました。もし、興味があるようでしたら、父に話しを通しますが、いかがでしょうか?』
最強という響きが胡散臭いような気もしたが、実戦的な剣術らしいため、教えて欲しいと返事を打った。
ブログの主からの返事はその日の内に届いた。
『父が興味があるのなら、来ても良いとの事です。良ければ、こちらの住所までお越しください』
「えっ、秋田県だって」
メールにあった住所を調べると秋田県の山奥らしい。
「なぁ、綾乃。秋田県に行って修行してもいいかい?」
「どれくらいなの?何でまた秋田県なわけ?」
「この間調べた剣術の師範が秋田県に住んでるらしいんだ。そして、興味があったら来ても良いって言われたんだ。最強の剣術らしいよ」
「自分で最強って怪しいわよ」
「そこはまぁ置いといて。実戦向きの剣術みたいだから。俺が強くなるのにいいかもしれない」
「うーん。分かったわ。その代わりしっかり強くなって、私達を護ってよ」
「ああ、任せておけって」
そして、メールに返事をしたのだった。
次の日に会社に長期休暇の申請を出すと、その足で秋田県に向かった。
ブログの主に指示された住所に向かうと、山の麓に着いた。
「ここを登るのかな」
山を登っていると、一軒の家が見えてきた。
(あそこか)
家に着くとチャイムが無かったため、戸を叩く。
「すみません。どなたかいらっしゃいませんか?」
返事がない。誰もいないのだろうかと引き返そうとした時、以前、怪物と戦っていた時と似たゾクっとした感覚を覚える。
「何だ!」
「ほぅ。私の殺気を感じ取ったか。ふむ。一応、合格だな」
「えっ。じゃあ、あなたが」
「娘から話しは聞いている。私が四候闘剣術師範の四葉 剣十郎だ。四候闘剣術を習いたいのなら、入りなさい」
そう言うと剣十郎は家の中に入っていった。
(凄い。殺気もそうだけど、その前は完全に気配を消していた。ここは当たりだ!)
賢也は四候闘剣術を習うため家の中に入るのだった。
四候闘剣術を学ぶことにした賢也は、最強への道を歩み出します。
これからも読んで戴ければ、幸いです。