09 自意識過剰ってこういうことをいうのかしら
「ブラッド……様?」
キャロラインが頬を染めてブラッド様を上目遣いで見つめている。
「いや、突然すまない」
そう言って、ブラッド様はキャロラインから手を離した。
「私は平気ですけど、いったいどうしたんですか?」
キャロラインから一歩離れるブラッド様。すると、キャロラインがぐっと一歩距離を詰めた。それに驚いたブラッド様が再び一歩下がると、キャロラインは二人の間にできた隙間をまたも詰める。
「ブラッド様――わたくしの目の前で何をしてしらっしゃるのかしら」
「誤解するな。オリビア・ローリット! 空気が重い」
「誤解? ブラッド様がキャロラインさんをお好きなのは構いませんけど、時と場所を選んでいただきたいものだわ」
それに、まるでわたくしが嫉妬しているような言い方はやめてほしい。
「そういうんじゃなくて、ちょっと問題が発生したんだ。説明は後でするから、睨むのはやめてくれ」
言い訳はキャロラインがいるこの場では言いにくいらしい。
ブラッド様はわたくしの魔力の圧のことで、とても焦っているようだけど、わたくしはブラッド様を、クリストファー様のような目にあわせるつもりはない。
魔力が少し漏れてしまったのは、ブラッド様の行動に驚いたからだ。
「あぁ、そうか。そうよね。大丈夫よ、ブラッド様。私にはすべてわかっているから」
「はあ? 君はちょっと黙っていてくれないか」
「うん。そうね。ブラッド様がオリビアとどんな関係か知らないけど、ちゃんと話しておかなきゃ、後々面倒だもんね。あー、だけど私はクリストファー様が好きなんだもん。どうしよう」
キャロラインは人差し指を自分の唇に当てて『もてすぎて困っちゃう』なんて言っている。あの姿、きっと殿方からはとても可愛い仕草に見えるのだろう。
「なんなんだよこの娘は!?」
あら、ブラッド様はそうでもないのね。
「何って言われても、クリストファー様がどこからか王宮に連れてきて、婚約するとか戯言を言ってましたから、真に受けてここまで来てしまったのでしょう? 文句を言うならクリストファー様にしてくださる」
「ソウダ、ワタシニ、イエ」
「オリビア・ローリット! こんな時まで君ってやつは……」
「ブラッド様、クリストファー様と私を取り合うのはやめて。ふたりのこと、こらからちゃんと考えるから。それとオリビア! 彼のことを身分を笠に、縛り付けたりとか、酷いことは絶対にしないでよね」
ユーモアをわかってくださらないブラッド様と、ひとりで斜め上の解釈をしているキャロライン。
そもそもわたくしには、今の状況が何が何だかわからないのだけど? だからそろそろ真面目にブラッド様の話を聞く必要があるだろう。
わたくしはブラッド様に秋波を送るキャロラインに視線を向ける。
「キャロラインさん、今日は帰っていただけないかしら。わたくしたちには話し合いが必要そうだわ」
「マダ、ワタシトノ、ハナシモ、ツイテイナイ」
「そうね。別れ話に私が同席していたら、オリビアはいい気持ちはしないわよね。それに逆ギレされたら嫌だし。私は席を外すけど、彼らの気持ちはちゃんとわかってあげてよ」
「あー、はいはい。それじゃあごきげんよう」
私は侍従にキャロラインを押し付けて、この場から追い出した。
「なあ、今までの話からすると、殿下は、あの娘に惚れているんだよな? なんでだ?」
そんなことクリストファー様に聞いて。
と言っても、今のところ返事は、結局わたくしがするのだから、なんて答えたらいいのかわからない。
だからキャロラインについての質問をするのはやめて。