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08 ブラッド様まで堕とすその手腕、脱帽ですわ

 次の日の午後。


 わたくしの目の前にはクリストファー様に会わせろと、単独で公爵家まで乗り込んできたキャロラインがいた。

 どこかで、うちにクリストファー様がいることを聞きつけたらしい。


 追い返してもいいのだけれど、こんな怖いもの知らずはなかなかいない。聖女としての自信なのか、ただのバカなのかちょっと興味がでたので相手をしてあげることにした。


「絶対におかしいでしょ」


 昨日から思っていたけど、キャロラインは人に対するマナーを伯爵家で教えられていないのか? それとも覚えることができないのか?


「人の家に押しかけてきて、いったい何をおっしゃっているのかしら?」

「クリス様のことよ! こんな腑抜けているなんて、貴女が何か薬でも飲ませたんじゃないの?」


 キャロラインが、同席していたクリストファー様にいきなり抱き着いて吠えた。

 キャロラインの両腕を回されて、がしっと身体をロックされているクリストファー様。

 そんなことをされても特に慌てることもなく、少し身じろぎをしただけだ。

 当たり前だがキャロラインが喜ぶような反応はまったく示さない。


「イタイカラ、ハナシテクレ」


 キャロラインには、すでに興味がないと思わせるために、とりあえずそう言わせてみた。


「なんで? どうしちゃったの?」


 拒否されてるにも関わらず、キャロラインがクリストファー様に自分の身体を、尚もぐいぐい押しつける。

 普段のクリストファー様だったら絶対鼻の下を伸ばしていることだろう。


「ほら、やっぱりこんなのおかしい。クリストファー様じゃないみたい」


 キャロラインの中でも、そんなことをされたらデレデレするのがクリストファー様という認識のようだ。


「クリストファー様は、穢れの研究をすることにしたそうなの」

「穢れって、いきなりなんの話よ」

「王太子としての自覚が芽生えたのではないかしら。貴女はおかしいとおっしゃるけれど、わたくしをはじめとした、王宮の方たちは、やっと真面目に取り組んでくださることを、とても喜んでいるわ」


「なんでなの? こんなに人が変わっちゃってるのに、心配もしないなんて、みんな薄情すぎるよ」


「いいえ、貴女にはどう接していたか知りませんが、これが本来のクリストファー様の姿なんですのよ。勘違いされてるのはキャロラインさんのほうですわ」


 どうせ、ふたりが知り合ってから、それほど時間はたっていないだろう。付き合いが長い分、わたくしの言っていることの方が真実味があると思う。


「ずるい。ずるすぎる。なんでオリビアばかりにイケメンが侍っているのよ。絶対にありえないでしょ」


 この娘、躊躇なく、わたくしのことを呼び捨てにしたわね。圧をかけてもいいかしら?


 なんて嘘。

 ゾンビが一体増えるだけだから、そんなことは間違っても、もうやらない。


「それより、イケメンとは?」


 クリストファー様は、見た目だけは物語に出てくるような王子様だ。

 だけど、わたくしとは間違っても仲睦まじいなんてことはない。


 キャロラインの視線を追うと、それは窓辺に向いていて、そこにはブラッド様の姿が。


「それはブラッド様も含まれているようですわね。先日キャロラインさんが『とても汚らしい』という目でご覧になっていた方なのだけど。覚えてらっしゃらない?」

「うそ、やだ。私そんなつもりなんてなかったわ。人のこと勝手に変なふうに解釈しないでよ」


 急に取り繕おうとするキャロライン。

 身ぎれいにして黒髪を後ろで束ね、顔が見えるようになったブラッド様は昨日とは確かに別人だ。


「ですってよ、ブラッド様。キャロラインさんはわたくしより、お優しいみたいですわね」


 わたくしは間違いなく、昨日はそういう目でブラッド様を見ていた。だって匂いもすごかったんですもの。


 最初にキャロラインと挨拶を交わしてから、ブラッド様は、お気に入りになったと思われる応接室の窓辺に移動して、外を向いていた。


 だけど、こちらに聞き耳を立てているのはわかっている。それなのに、わたくしが話しかけても、巻き込まれたくないのか無視を貫くようだ。


「ブラッド様? ブラッド……?」


 キャロラインはぼそぼそと今度はブラッドの名前を連呼している。

 クリストファー様が無理だからといって、今度はブラッド様を狙っても、この方が興味があるのは死体だけですわよ。それでもよろしければチャレンジしてみたらいかが。


 さすがに声に出しては言わなかったけど、何かを察したのか、一瞬ブラッド様がこちらを振り向いて睨んだ。


「記憶にない人より、今はクリス様のことよ。薬じゃなかったら何か術でもかけてるんじゃないの? だったら私が治してみせるわ」

「治す?」


 治療魔法でも使うつもりなのかしら?


「うそだろ? やめろ!」

「きゃっ!?」

「え!?」


 その間一秒ほど。

 突然、窓際から走りよったブラッド様がキャロラインを抱きしめた。抱きしめられたキャロラインはもちろん、わたくしも目が点になる。


 キャロラインが何をしたのかわからないけど、クリストファー様だけでは飽き足らず、本当にこの短時間に、しかも接触もなく、ブラッド様まで堕としてしまったの?


 この娘わたくしに喧嘩を売るだけのことはある。クリストファー様はもとよりブラッド様までわたくしから奪うつもりなのかしら?


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