07 やらなくてはいけないことばかりですわ
「オリビア・ローリットのやろうとしていることは、なんとなくわかる。わかるが敢えて聞こう。君はいったい何をやっている?」
「わかるのでしたら、聞く必要がございますの?」
「オリビア・ローリットの思考についていけない時があるからな。念のための確認だ」
「クリストファー様はご自分では話ができないのですもの。返事をしなかったら相手の者が、何か粗相したのかと思いますでしょ。クリストファー様はこれでも王太子なのですから」
「やっぱり、自分が手を抜くためか」
クリストファー様とブラッド様を引き連れて、公爵家へとやって来たわたくしは、まず始めにクリストファー様が肩からぶら下げるカードを作ることにした。
そこには『喉が痛くて声がでないので、返事ができないから、話しかけないでほしい』そう書いてある。
これを胸と背中につけておけば、うちの使用人たちも気にせずにいられるはずだ。もちろん、先にそのことはみんなに伝えておくから、これで対策は万全。
「なあ、王宮に俺の部屋なんか必要だったのか? 俺としてはここで面倒見てもらってもいいんだけどな」
ブラッド様が用意された紅茶を手にしたまま、応接室のバルコニーへと歩いて行き、そこから中庭を眺めながらそんなことをつぶやく。
「公爵家の居心地がいいのはわかりますけど、男性のブラッド様が、お客様として長期滞在されては、わたくしに変な噂が流れてしまう可能性がございますでしょ。これでも王太子の婚約者ですもの。今みたいにクリストファー様がご一緒なら構いませんが、それもあまり長いのはどうかと思いますわ」
「まあ、たしかにそうだな」
「それにブラッド様にはわたくしが王宮から家に帰ったあと、クリストファー様のお世話をお願いしたいの」
突然何かがあった時に、クリストファー様だけでは絶対に困る。そばにいて、抜け殻クリストファー様のことをうまく誤魔化してほしい。
「それが狙いか」
「ここまできたら、ブラッド様とわたくしは共犯者ですもの。今更一抜けなんてできませんわよ」
「言われなくても、そんなことはしない。王太子を生き返らせるまで、俺は抜けるつもりはないからな。オリビア・ローリットに脱走を唆されて、それをのんだ時から覚悟はできてるさ」
「まあ、なんて殊勝なこと。ブラッド様が共犯者でわたくしも安心できますわ」
「そんな無表情で言われても、褒められているように聞こえないんだけどな」
わたくしは十分感激しているのに、ブラッド様には、この気持ちが伝わらなかったようだ。
「では、何から始めましょうか?」
「俺は降霊術を習得することに専念する。オリビア・ローリットは食物を魔力に変換する方法を考えてくれ。それと、もう少しうまく殿下を操れるようにしろ」
「そうでしたわね。難題ですけど頑張ってみますわ」
クリストファー様の蘇生が可能かもしれないとわかったこともあって、王宮と公爵家の往復で、代わり映えのしない日々だったからこそ、クリストファー様の婚約破棄宣言から続く、この少し刺激的な出来事が、わたくしは楽しいと思ってしまった。
王妃教育も途中で、わたくしにはやらなければいけないことがたくさんあるというのに。