05 そう簡単にはいきませんわね
「君の魔力のせいか、王太子の状態は生きていた時とほとんど変わらないままだな。だから、治癒魔法と降霊術を上手く掛け合わせれば、もしかすると生き返らせることができるかもしれないぞ」
「そんなことができるんですの? でしたらわたくし、とても有り難いですわ」
殺人犯にならなくてすむし、何よりクリストファー様をずっと操っているのが面倒臭い。
「こんなことは初めてだから、可能性があるかもしれないってだけだ。実際、降霊術で降ろした王太子を、この身体に戻すことができるのかさえわからん。すべて手探りでやらなきゃいけないからな」
「その降霊術も、たしか黒魔法でしたわよね。ブラッド様は使えますの?」
「いや、これから修得することになるから、やるとしても時間はかかる」
「生き返るか試すとしても、すぐには無理ですのね。このままでは、クリストファー様が元通りになるまで、わたくしは離れることができないのではなくて?」
「オリビア・ローリットほどの魔力持ちなら、王太子に目いっぱい魔力を注げば、離れても一日くらいはもつと思うぞ」
「それができたとして、クリストファー様はどんな状態になりますの」
「人間は初めてだから確実ではないが、ただボーッとしてるっている感じだろうな。人の呼びかけには微かだが反応はする」
「食事はどうなりますの、屍には必要ありませんわよね」
「ああ、魔力があれば食べ物からの栄養はいらないからな。食事をとったら身体の中に溜まっていくだけだ。あとでまずいことになるだろう」
「それでも、クリストファー様がまったく食事をしないとなると問題になりますわよね。困りましたわ。何かいい方法はないかしら」
「食べたものも、魔力のように燃料にできるといいんだけどな」
「そうですわね。わたくし、ちょっと考えてみますわ」
「う、うーん」
わたくしたちがクリストファー様のことを相談していると、その辺に放置していおいたキャロラインが目を覚ました。
「なんで私こんなところで寝てるのよ」
わたくしに喧嘩を売ったキャロラインに優しくする義務はないので、倒れたまま、床にそのまま転がしてある。
「キャロラインさんは血が足りないのではないかしら」
「貧血のこと? そんなことないと思うんだけど。それより、クリストファー様、婚約破棄の話はついたの? え?」
キャロラインが荒ぶる鷹のポーズをしているクリストファー様を見て固まった。
「クリストファー様ったら、こんな真面目な話し合いの最中に何をふざけているのかしら。ねえ、キャロラインさんもそう思わなくって」
「クリストファー様? いったいどうしたんですか?」
うしろからブラッド様の嫌な視線を感じるのでお遊びもこのくらいにしておこう。
とりあえず今日はキャロラインに帰ってもらって、クリストファー様を動かす練習をしなくては。
「キャロライン、アナタ、カエッテホシイノ」
「なんで片言? なんで女言葉なの?」
クリストファー様に、会話をさせようと試みたところ、わたくしが送った文章をオウム返しにした。
しかも本当にインコやオウムが話しているみたいじゃないの。これはどうにかしなくてはいけないわね。
「キャロライン、キョウハ、カエレ、マタ、レンラク、スル」
「クリストファー様がそうおっしゃっていますので、キャロラインさんはお帰りいただけないかしら。婚約破棄の話はわたくしたちだけの問題ではございませんの。わたくしがいいと言ってもすぐにどうこうできませんのよ。今日お聞きしたクリストファー様のお気持ちは陛下にも伝えておきますわ」
「スグ、カエレ」
「クリストファー様!?」
「タノム、カエッテクレ」
キャロラインは渋々応接室から出て行った。
その際、わたくしを思いっきり睨みつけ、そのあとわたくしの後方にいたブラッド様を見てとても嫌な顔をした。
「確かに小汚いですわね」
「なんだよ」
ブラッド様は牢屋から連れ出したままの姿で、髪は伸び放題でベタベタだし、服も汚れていて、匂いも……。
「ブラッド様にはわたくしたちの相談役として役職をつけましょう。王宮に専用のお部屋を用意してもらってもいいですわよね。クリストファー様」
「アア、ソウ、シヨウ」
「ゾンビで遊ぶな」
「いやですわ、これも練習でしてよ」




