03 協力者には心当たりがありますわ
どさっ
「ん? あら大変」
部屋に響いたのはクリストファー様とキャロラインが倒れた音だった。
わたくしがキャロラインの浄化魔法の話を聞いて驚いたあと、魔力を抑え込みもせずに、そのまま考え事をしていたせいで、部屋の魔力濃度が増していたらしい。
二人とも圧迫か窒息で意識がとんだんじゃないかしら?
わたくしはすぐに魔力を抑え込み、通常通りの空間に戻してから二人の様子を探った。
「やだ。これはどうしたらいいのかしら。さすがのわたくしでも困ってしまうわ。もしかして牢獄行き?」
キャロラインはただ意識がないだけだけど……クリストファー様は完全に息が止まっている。
「たしか浄化魔法は治癒魔法とも呼ばれているから、キャロラインならどうにかできるかもしれないわね」
そう思ってキャロラインを揺り起こそうとしたけど、その寸前で手を止めた。
「クリストファー様は死んでいるのだから、治癒魔法でも生き返るわけがないわよね。そんな奇跡みたいな話は聞いたことがないし」
さて、困まりましたわ。
わたくしにしてみれば不慮の事故だけど、王太子殺しなんだから普通なら斬首は免れないだろう。
わたくしに対してそれができるかできないかは別として。
「わたくしの扱いも含め、クリストファー様はひとりっ子ですから、今後の後継者選びは問題だらけでしょうね。どうしましょう」
とりあえずこの状況をどうにかできる心当たりはなくもない。
「取引に乗ってくれるといいのだけれど」
わたしくしは倒れている二人をその場に残して、ひとりである場所へと急いだ。
そこは初めて足を踏み入れる区域だったけど、王太子の婚約者の身分があるから問題はないだろう。
「初めましてブラッド様。わたくしオリビア・ローリットと申します。以後お見知りおきを」
丁寧にお辞儀をしたのに、ブラッド様はちらっとこっちを見ただけですぐに背中を向けてしまった。
わたくしにはまったく興味がないらしい。
「ブラッド様にお願いがあって参りましたの。たぶんブラッド様にとっても悪い話ではないと思いますわ」
それでも完全に無視されている。
しかし二人を放置してきた私にはあまり時間がない。
「新鮮な死体をひとつ手に入れましたの。貴方の手で生き返らせていただけないかしら」
「はあ!?」
やっと反応してくれた。
やっぱり興味があるもので気をひかないとだめみたいね。
「しかも王太子殿下でしてよ。あのままだとわたくしもブラッド様のお仲間になってしまうと思いますの。もしかしたらあっという間に処刑されて、ほとんどここにはいないかもしれませんけど」
「さっきから君は何を言っているんだ。それじゃあまるで君が王太子を殺害したみたいに聞こえるじゃないか」
「そうですの。とは言ってもわたくしに殺意はありませんでしたから、あれは事故だったんじゃないかしら」
鉄格子の向こう側で頭を抱えて困惑しているブラッド様。ここに入れられてかなりたっているはずだから前髪が伸びすぎて表情まではわからない。
「ですからわたくしを助けてくださらない? 取引してくださるならブラッド様をここから出して差し上げますわ。しかもとっても綺麗な死体つきです」
「別に俺は死体が好きなわけじゃない」
「でも、黒魔法を研究されていたからここにいらっしゃるんですよね。ネクロマンサー様は」
「人間で実験したことなんか一度もないぞ」
「大丈夫ですわ。ブラッド様ならできます。いえ、やってもらわなければ困ります。ここで断られたらわたくしは断頭台行きですもの。はっ、そうしたらブラッド様の研究材料が増えますわね」
「だから違うって言っているだろう。その脅迫もずるい……けど、話が本当なら君の未来はないだろうな。オリビア……ローリット家の娘か……」
「今後ブラッド様のことは公爵家が責任を持ちますわ。どうかお願いを聞いてくださいませ」
「オリビア・ローリット。どこかで聞いたことがある名前だと思ったけど、そうか――君がいればもしかすると何とかなるかもしれない」
「本当ですの?」
「でもここから俺を出して大丈夫なのか」
「わたくし、少しのわがままなら通りますのよ。それにブラッド様は罪を犯して拘束されているわけではありませんし」
「わがままって……すごいなオリビア・ローリット」
これでネクロマンサーは手に入れた。
あとは人に気づかれる前にクリストファー様を生き返らせるのみ。
「ではさっそく」
手元に牢屋のカギはなかった。牢番を呼ぶのも面倒くさいので、わたくしの魔力で圧力をかけて錠を壊す。
それを見たブラッド様が驚いているようだけど、わたくしは死人を生き返らせることができる魔法の方がすごいと思うのだけど。