23 共犯者って特別な間柄だと思っていましたわ
クリストファー様のようにブラッド様の魂がどこかへ行ってしまわれたとして、彼はわたくしの呼び声に応えてくれるのかしら。
などと、今は関係がないことを思わず考えてしまった。
「ブラッドとやら、オリビアがこのように申しておるが、いったいどういうことなのだ。オリビアが王太子妃の身分でなくとも、クリストファーの力になってもらえるというなら、儂はその案を歓迎したいところなのだが」
「ま、待ってください。何のことか俺、いや私にもわかりません」
ブラッド様が混乱していて、訳がわからないという状況なので、そちらに集中していた皆の視線が私に向く。
「ブラッド様はあることが達成するまで、わたくしとずっと一緒にいるとおっしゃいましたわ。わたくしがブラッド様にお声を掛けた時から覚悟はできているとも。あれは一生一緒にいることだと、わたくしはそう受け取りましたの」
よくよく考えてみると、クリストファー様を生き返らせることなんて、たぶん人生すべてをかけてもできないと思う。
神でもないのに、人間の力で死者蘇生なんてことができたら、世界の秩序が壊れてしまうだろう。
だとしたら、ブラッド様とわたくしはこれからずっと一緒だ。男女が離れずにそばに居続けるということはそういうことではないのだろうか?
「そんな意味で言ったんじゃない。オリビア・ローリットは話を飛躍させすぎだ」
「そうなんですの? わたくしと共犯者になってくれる殿方なんてもう二度と現れないと思っておりますのに、ブラッド様はわたくしではご不満なのですわね」
「不満なわけがない。なあ、ブラッド・ラムジー?」
「そうよ。オリビアちゃんにこれだけ言われて喜ばないわけがないわ」
陛下と王妃様がブラッド様より先に返事をしたけど、肝心のブラッド様からは否定してもらえない。
「わたくしはもうブラッド様しかおりませんのに」
「オリビアの口からそんな言葉がでるなんて驚きだ。しおらしい姿なんて初めて見た」
クリストファー様はそう言うけれど、わたくしのことをたぶん嫌っていなくて、王太子殺しの共犯者になるくらいには信用してくれていて、わたしの能力に怯えもしない、しかもちゃんと生きている人間。そんな男、他にどこにいると?
「よし、それなら手っ取り早く王命ならどうだ。まずはクリストファーとオリビアの婚約を破棄した上で、ブラッド・ラムジーとオリビアは婚約をするものとしよう」
「そうね。それが一番丸く収まりますもの」
その言葉に喜んでいるのはクリストファー様とキャロラインだけ。だってわたくしは……。
「お待ちください。婚約破棄はお受けいたしますが、ブラッド様との婚約は彼がその気になれないというなら、クリストファー様の二の舞になりますわ。きちんとプロポーズをされるまでは保留でお願いいたします」
「いいのか、それで?」
「わたくしも大人になりましたもの。結婚ができないからといって、さすがに暴れたりは致しませんわ」
陛下と王妃様の無言の圧力がブラッド様に送られる。無理やり婚約させるのは、わたくしも不本意なので絶対にやめてほしい。
「――オリビア・ローリットと二人だけで話をさせていただけないでしょうか」
ブラッド様の願いに、陛下がわたくしにどうするか確認してきた。わたくしが大きく頷くのを見てからブラッド様に返答する。
「オリビアもそれを望んでおるようだ。きちんと二人で話し合うと良い。それでも儂はふたりから良い報告が聞けることを楽しみに待っておるからな」
期待の眼差しを向ける陛下と王妃様のもと、クリストファー様とキャロラインを残して、わたくしとブラッド様は特別室から失礼した。
これから、わたくし専用の応接室で、二人っきりで向かい合うことになる。
わたくしの気持ち、ちゃんと伝わるといいのだけれど。




