02 自信満々だったはずですわね
部屋で人払いをして三人きりになると早々にクリストファー様が口を開いた。
「さっきも言ったが、私はオリビアとの婚約を破棄してキャロラインと結婚するつもりだ」
「それは陛下もご存じなのですか」
「いや、これから報告するが問題はない」
「それなら、あとはわたくしの承諾待ちということなのでしょうか」
クリストファー様が誇ったようにうなずいた。そんなわけがないのに。
「それでは、わたくしではなく、キャロラインさんがクリストファー様の伴侶として優れているところをあげてみてくださいませんか。私が劣っているところを把握しておきたいですし、そのほうが諦めもつきますでしょ」
「そうだな。キャロラインはとにかく優しい。国母になるのだから民を思う優しさは必要だからな。あとはこの笑顔で癒される。きっとキャロラインと会った者は皆そう思うだろう。それから誰かと違って人が傷つくことは絶対に言わない。心が美しいのだ。キャロラインの言葉には人を勇気づける力がある」
そう言いながらキャロラインと見つめあうクリストファー様。
馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど、表に見えている印象だけに惑わされて、こんなことを言い出してしまうなんて。
耳触りのいい甘言に乗せられてしまう自分の危うさに気づきもしない。いったい、いつになったらちゃんとした王太子になってくれるのやら。
「うっ」
あら。
少しイライラしたせいで、抑え込んでいる魔力がわたくしの身体から溢れ出してしまったみたい。
ふたりが苦しそうにしているから、くぎを刺すにはちょうどいいかも。
「わたくしがクリストファー様のお相手に選ばれたのは、公爵家の娘だからだけではございませんのよ」
私の魔力は膨大すぎて、魔法を使用しなくてもそれだけで空気を圧迫するらしい。
こちらが標的とした者に直接圧力をかけることもできるし、特定の場所を真空状態にすることも可能だ。
王家はこの能力が欲しくて、そして敵にしたら怖ろしいから私を王太子妃に望んでいるのだけれど、ことの重大さを当の本人はわかっていない。
ちなみに自分自身は周りの空間を無意識に調整しているので苦しくなったりはしない。
「そ……して、じょ……浄化魔法が使える……聖女だ」
「まぁ!」
それはわたくしの情報になかったことだわ。
きっと最近発現したばかりなのだろう。
浄化魔法とは病を引き起こす恐れのある穢れを払うことができる魔法だ。穢れは突如発生する正体不明の現象で、どこに現れるかわからないのに、浄化魔法を使える者は世界中でも数えるほどしか存在しない。
だから聖女の称号を与えられた者は国から丁重に扱われるのだ。
なるほど。それが切り札でしたのね。