14 思ったよりもできる娘なのかしら
「やり方を教えて、ブラッド様」
キャロラインはソファーから立ち上がり、ブラッド様の隣に無理やり座る。
「それはオリビア・ローリットに聞いてくれ。彼女のやり方は魔法じゃなくて魔力だけを駆使する方法だから、浄化魔法を使ったら駄目な君にはちょうどいいはずだ」
「魔力を駆使するって、魔法と何が違うの」
「俺に聞かれても説明できない。頼む、オリビア・ローリット」
ブラッド様にお願いされたのでわたくしは自分の手の平を上に向けて、赤い光の玉を出現させた。
今まで、ほぼわたくしの存在を無視し続けたキャロラインも、さすがにそれには注視している。
「魔力を可視化するために、このような状態にしてみましたの。ただ、これも見てわかりやすくするために光魔法を使用しておりますので、実際にはすでに魔力ではありませんが、今回そこにはつっこまないでくださいませ。よろしいでしょうか?」
「わかったわ。それで?」
「今までが魔力、そしてこれが魔法ですわ」
私は手の平の光の玉を炎に変化させた。そして、それをぼわっと拡散させて消滅させる。つもりが火柱が上がって、ちょっと天井が焦げた。
「魔力はあくまでも燃料。それを使って何かに変化させるのが魔法。こちらもそうでしてよ」
今度は青い光の玉を出現させて、わたくしは飲み終わったティーカップを自分の手の下に置く。
次に、そこへ向かって青い光を水に変化させて注ぎ込んでみせた。が、ドボドボと溢れて、テーブルが水浸しになる。
ブラッド様が苦笑いしているけど、それは無視して話を続けた。
「そして魔力だけを使用するということは、魔力を変化させずに、そのまま道具として使うということよ」
今度は黄色い糸状の光をキャロラインに向けて数本伸ばした。それをキャロラインの腕に巻き付ける。
「ちょっと何してるのよ」
それから引っ張った。
「キャッ。やだ、ブラッド様助けて」
「え!?」
ブラッド様には目くばせしておいて、キャロラインを元居たソファーにそのまま誘導する。
抵抗した彼女はつんのめりながら進み、最終的に、わたくしの正面のソファーによろけて倒れた。
「こうやってクリストファー様を捕まえてほしいの」
「何するのよ!」
「ですから、今のように魔力を糸状に伸ばして、クリストファー様の霊魂を掴んだら、そのあと身体に押し込んでほしいの。貴女にできるかしら」
「さっきと言ってることが違くない? それじゃあ、クリス様が身体の外にいるみたいじゃないの」
「ええっと、さっきの異世界人のせいで身体から弾き飛ばされちゃったみたい? 魔力だけを操るなんて、キャロラインさんには難しいかしら」
わたくしは誤魔化しながら口元に扇子を当て隠した。
「オリビアができるなら、私にもできるはずよ。ちょっと待って」
キャロラインは「うーん」と唸りながら、己の両手を見ながら何かをやり始めた。彼女は負けず嫌いのようだから、こうやって煽るといいみたいだ。
「急がなくてもいいんだ。そんなことが簡単にできるのはオリビア・ローリットくらいしかいないんだからな。俺にだってできないぞ」
「できるわよ! あ、ごめんなさいブラッド様。集中したいから今は話しかけないで」
ブラッド様の言葉でキャロラインに火が付いたようだ。
彼女が魔力操作を取得できるまで、わたくしもその辺の霊を捕まえてみようかしら。
「オリビア・ローリットはやめておけよ。怖がって殿下が逃げるかもしれないからな」
クリストファー様を見つめていたからか、ブラッド様に忠告されてしまった。
確かに、どこかに隠れてしまわれたら厄介だ。
ここはキャロラインに任せてわたくしはのんびり過ごすとしよう。
暇だったので、目の前でびしょびしょになっていたテーブルの水を、今度は細心の注意を払いながらきれいに蒸発させた。
「できた!」
わたくしが自分を誉め称えるより先に、その言葉を叫んだのはキャロラインだ。
「うそだろ?」
「こんなに早く?」
キャロライン、浄化魔法の使い手だけあって実は才能があるのかしら?




