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11 降霊術は簡単ではありませんのね

「キャロラインからクリストファー様を守りつつ、蘇生のための準備を急がなければいけないのですわね」

「それにはまず、俺が降霊術を習得しなきゃいけないのか」


 キャロラインの邪魔が入る前にクリストファー様を元に戻す必要がある。

 彼女は行動力がありそうだから、何をしでかすかわからない。だから、わたくしたちにのんびりしている暇はなさそうだ。


「頑張ってくださいませ」


 応援しているわたくしを、ブラッド様が自分の顎に手を当てながらじっと見ている。


「そのことなんだが、降霊さえできればいいんだから、別に俺じゃなくてもいいんだよな。オリビア・ローリットが習得したっていいんだぞ」


 そういうこと。実はわたくしも黒魔法には少し興味がある。しかし……。


「わたくし、魔力だけは潤沢にありますけど、逆にそのせいで魔法が上手に使えないんですの。攻撃魔法なんて威力がすごすぎて大変なことになりますわ。ですから、降霊術なんて使用したらどうなるかわかりませんわよ」


「ああ、なんかわかる気がする。大雑把だから調整とか下手そうだもんなオリビア・ローリットはさ」

「大雑把? わたくしが?」


 一分の隙もないと、みんなから恐れられているこのわたくしが、よりにもよって大雑把ですって?


「じゃなきゃ、俺頼みのこんな杜撰な計画なんてたてないだろ。殿下をゾンビ状態にして人の目を誤魔化そうなんて、普通考えないからな。周りの者を力業で黙らせて、なんとかできると思ってる時点で繊細さなんて微塵も感じないし」


「そんなことを言われたのは初めてですわ。それに、わたくし、初めはブラッド様なら生き返らせることができると思っていたんですもの。ゾンビにしかできないなら仕方ないではありませんか」


「まあ、そうなんだけど。君は噂に聞いていたのとちょっと違うな。残念すぎてなんて言うか……」


 ブラッド様が笑いをかみ殺した?


「心外ですわ」


 ブラッド様がぐうの音もでないように、わたくしが本気になったところを見せつける必要がありそうだ。


「確かにブラッド様が言うように、ふたり同時に進めた方が効率は良さそうですわね。ですから、わたくしに降霊術のやり方を教えてくださいませ」


「やり方って言っても、明確な方法が決まっているわけじゃない。単純に魔法を駆使して殿下の霊を呼び寄せるってだけなんだが」

「きっと、イメージが大事なのですわね。わたくし、やってみますわ」


 わたくしはソファーでボーっとしているクリストファー様の前に膝をつき、その両手を取ってから瞳を閉じた。


 やり方はクリストファー様に魔力を送っている方法と同じように、魔力を糸状にしたものをつくり、それを無数放射して、どこかで漂っているであろうクリストファー様の霊を捕まえる。てきとうにやってみたけど、それは正解だったらしい。


「おい、いきなりは危険だぞ。やめておけ」


 ブラッド様はそう言うけど、すでに魔力の先端は何かにたどり着いていた。これを手繰り寄せれば!


「案外、簡単にできてしまいましたわ」


 あとは身体に戻ってもらえばいいだけ。

 わたくしは魔力の圧を使って、引き寄せた霊を無理矢理身体に押し込めるようにしてみる。はじめは抵抗していたけど、そのうちすっと気配が身体に重なった。

 すると目の前のクリストファー様がパチパチと瞬きを繰り返し始める。


「ブラッド様。わたくし、成功しましたわ」

「嘘だろ!? オリビア・ローリットにはそんなことも簡単にできるのか?」


「ええ、わたくし、非凡ですのよ。自慢ではありませんが、自他とも認める才能の持ち主ですもの」


 わたくしがブラッド様と話をしていると、クリストファー様は自ら立ち上がり、そして、その口から自分の意志で第一声を発した。


『え? 何ここ? うっわ、目の前にいきなり美人。しかもお姫様ドレス!? なんか、貴族みたいのもいるし。ってことはもしかして異世界転生ってやつ? すっげえ、なあなあ、俺、勇者とかなわけ? おまえがハーレム第一号なんだよな?』


クリストファー様は、突然両手を広げてわたくしに飛び掛かった。

すぐにわたくしは魔力の圧でそれを制する。


「オリビア・ローリット、今すぐに魔力を切れ!」

「言われなくても切りましたわ」


 わたくしが魔力の糸をぶちっと切断するや否や、クリストファー様はソファーにばたんっと倒れこんだ。


「何だったんですのあれは。聞いたことのない言葉を喚いていましたわよ」

「きっと、君の呼びかけに応えた魂だろうな。これで、特定の霊を呼び寄せることは、至難の業だとわかっただろう」


「そうですわね。そうなるとたぶん、わたくしにはクリストファー様を召喚することができないんじゃないかしら」

「どういうことだ?」


「どう考えても、クリストファー様がわたくしの呼びかけに応じるとは思えませんもの」

「ああ、オリビア・ローリットの今までの態度を見ていると、そう思えるな」


「それなら、ブラッド様には可能ですの? 生きているクリストファー様とは面識がありませんのでしょ?」

「俺もどうだろうな。簡単にはいかないと思う。間違いなく、殿下の霊が呼びかけに応えるとしたら……」


「キャロラインしかいませんわね」


 キャロラインを避けようと思っていたのに、それが一番確実で、早いのかもしれない。


 困りましたわ。どうしたらいいのでしょう。


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