01 婚約破棄ってどういうことですの?
「オリビア・ローリット、貴様との婚約は今日限りで破棄する!」
ここは薔薇の花が咲き誇る王宮の庭園。
王妃教育の休憩時間にお茶をしていたわたくしのところにやってきたのは、王太子のクリストファー様だ。
そのクリストファー様が、突然、庭園中に響き渡る大声で、高らかに婚約破棄を宣言した。
わたくしは手に持っていたティーカップをテーブルにおいて、クリストファー様に視線を向ける。
「クリストファー様、王族の婚約破棄は簡単にできるものではございませんのよ」
「そ、それでもだ。私は政略結婚じゃなくて、愛しているキャロラインを妻とすることに決めたんだ」
クリストファー様の斜めうしろにピッタリとくっついているのはそのキャロラインなのだろう。
たしか伯爵家の娘だったはず。
二人は手を繋いでいて、クリストファー様がわたくしに怯んだ瞬間、その手をキャロラインがギュッと握った。それだけでどちらが主導権を握っているかがわかるというものだ。
「愛している……そうですか。そんな重要なお話でしたら、わたくしもきちんと向かい合わなければいけませんわね。クリストファー様の主張が正当なものであれば婚約破棄もしかたありませんもの。こんなところではなんですから場所を移りませんこと」
王族にとって、婚約者のことが好きか嫌いかなど考えるだけ無駄な作業だ。どんな相手にせよ、上手くやっていくための努力をした方が建設的だと思う。クリストファー様の婚約者であるわたくしはずっとそう考えてやってきた。
わたくしたちの結婚は政を滞りなく運ぶために決められたもの。
その他にもわたくしでなければいけない理由がいろいろとあるというのに、破棄できると思っている時点でクリストファー様のそこが知れる。
本当に困った方ね。
いずれはわたくしの伴侶となるクリストファー様。これ以上の醜態は他人の目に晒したくない。
「そんなこと言って、クリス様を丸め込もうとしてもダメなんだから」
キャロラインは臆面もなくその言葉を、わたくしに向けて発した。
丸め込んだのは貴女の方でしょうに。
それに令嬢としての教育を受けているのであれば、公爵令嬢のわたくしに向かって、そんな口の利き方をしたら不敬だとわかるはずなんだけど。
だからこそクリストファー様とお似合いってことなのかしら。
「場所を用意しますので、キャロラインさんもご一緒にどうぞ。こんなところで大騒ぎしていると、好奇の目で見られて、あることないこと噂されますわよ。立場上、わたくしよりキャロラインさんの方がひどいことを言われるのではないかしら」
「わ、わかったわよ。クリス様行きましょう」
「ああ」
わたくしは二人を連れて専用で使用させてもらっている王宮内の応接室へと移動した。
その間もクリストファー様とキャロラインは手を繋いだままだ。
もう少し人の目を気にしてくださらないと困るのですけど。そう思うだけで、わたくしは嘆息が出そうになる。
それでも、王太子の婚約者として、令嬢たちの見本にならなければならない立場上、それをこらえた。
この二人の前なら、そんなこと構わない気はするのだけど……。