窓際係長
勢いで始めました
「今忙しいから、そっちで何とか調整してよ」
「いや…ですが…」
「はぁ見てわかんないの?こっちはね、毎日毎日外を歩き回って足が棒になっても歩いていんの!わかる?あんたみたいに一日中机に座って楽してるのとは違うのよ!」
「すみませんすみません」
怒鳴られた為につい謝ってしまった。まわりはニヤニヤしている。この部屋には味方は誰もいない。
「わかったなら、席戻ってちゃちゃっとやってきてよ」
「いや…でも…」
「はっ?何か文句あんの?」
「いえ…」
そう口から出すので精一杯だった。
「それでは失礼します」
そう言い残し第二営業部を出る男。山本一郎48歳。見た目は厚い黒縁メガネに髪は七三分け。腕には事務員がはめる黒い布、所謂袖カバーをしている。どこから見ても【ザ・窓際係長】だ。先程の男は第二営業部の平社員・山根だ。まだ歳は20代前半と親子程の年が離れている。
「みたかよあの顔wwwハンカチでデコの汗を拭いて謝ってやがったぜwwwテレビのドラマ以外でやってるの見たの初めてだぞwww」
馬鹿でかい山根の笑い声が廊下まで聴こえる
「くそっ!くそっ!バカにしやがって!」
山本一郎はいつも通り給湯室の陰に隠れ、唯一の友達テディベアのモンゴリアーンに腹パンをかましている。
何発も何発も山本一郎の怒りを一身に受け止めてくれる友達のモンゴリアーンは既に綿が手足から出てきておりいつ亡くなってもおかしくない有様になっていた
「はぁはぁゴメン。モンゴリアーン。いつもツラい時には僕のパンチを受け止めてくれて。もうこんなにも綿が出てきちゃって…明日には直すから嫌いにならないでね」
ヤバいやつである
その時……
カラーン
バッと後ろを見ると木のお盆を落とした事務の佐藤さんが、恐怖に顔を歪めていた
「さ、佐藤さんこれはちが…」
「ギャーー!」
化け物をみたのか、そう叫びながら走り去ってしまった
次の日から
【窓際係長山本一郎】
に加え
【ヌイグルミジャンキー山本一郎】
が加わったのだった。ちなみに山本一郎は平社員であり26年間ずっと平社員である。窓際係長とは、あまりにも彼にピッタリな為に彼のいない所で長年愛用されてきた陰口である。
そもそもこの会社に入社してきた時点で彼は七三分けの黒縁メガネである。営業としての見た目は難しい為にすぐさま経理にまわされたのであった。
翌年には新人が入って来たのだが質問の為につい
「山本係長。あの…ここなんですけど…あっ…」
この新人の間違いから山本一郎は陰で窓際係長山本一郎と呼ばれるようになってしまった。奇しくも窓際だった為に…
そして同期後輩共に主任係長と昇進していく中、山本一郎はずっと平社員だった。
これは別に嫌がらせを受けた訳では無い。
そう…仕事ができないのである。ただ幸運な事に毎年毎年山本一郎以上に仕事ができない社員が一人入社して来てしまっていた。その為、仕事ができないからという名目のクビができない状況が26年間続いてきたのである。まさに彼は薄氷の上を26年間ずっと歩き続けてきたのである。
そんな彼が今困った事になっている。それは、先程の山根の件だ。彼はキャバクラ代を接待と偽って経理に経費として落とすように言ってきたのである。
明らかに私的に使ったのは目に見えている。
なぜかって?その日店にいたからである。あきらかに地元のツレとはしゃぎまくっており会計の時に酔っ払いながら「大丈夫大丈夫ウチの会社経費でおちっからーwww」とか抜かしてやがった
当たり前だが、そんなもん落ちるハズがない。なにが足が棒になるだ!自分がキャバクラで楽しんでるだけじゃねえか!
えっ?俺がなぜいたかって?まぁなんだ昔のツレに誘われただけだ。別に友達がいないわけじゃないぞ?この会社の友達はテディベアのモンゴリアーンだけだが外には学生時代からの長年の友達はいる。二人だけしかいないが…
そんな事を考えていたら経理部の前に着いてしまった。ドアを開けると目の前の佐藤さんと目が合ってしまった
「ひぃっ」
完全に引かれている。
「えーと佐藤さん?」
「いえ、私何も見ていないです」
いや、もう完全に言ってるじゃん。
と、その時
ジリリリリー
17時の終業の音が鳴った。うちの会社は17時のチャイムが鳴ったら何があろうと退社するようにとの通達がある為、余程の事がない限り退社が原則である
「急ぐ訳では無いし帰るか…」
そう独り言を言いながら帰る支度をする山本一郎であった
ストック無しで始めたのでノロノロ運転です。評価ブックマーク押して貰えると元気出て書かなきゃ状態になるので、応援よろしくお願いしますm(_ _)m