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第四話です。

『雨乞少女』


 最初は冒険の定番ともいえるスライム狩りだった。


 僕はジェネにいわゆるバフというものだろう。なぞの呪文を唱えられた後、20歳は若返ったかのように体が軽くなった。


「うりゃ!」

「そいっ」

「やあ!」


 ちょろい……正直ここまでヌルゲーだと僕も気が抜ける。


「ぐぬっ!?」


 油断していると、スライムが口元に張り付いてくる。


息ができない……やばい…死ぬ、かも…………。


 聞き取ることのできないステラの詠唱のような声が聞こえる。


ぼおっ!!


 青い炎がスライムだけを焼き殺す。ステラの魔道攻撃だ。


「ゲホッゲホッ!はあ……!助かったよ、ありがとう」

「油断しちゃダメよ。スライムは単体じゃ弱いけど、複数だと簡単に人間一人くらい窒息させられるわ」

「お、おう。了解した……」


こええ、スライムこええ。



 そんなこんなでスライムを駆除しまくっていたら、さすがに疲れを感じ始めてしまっていた。


「あの、いつ戻るんですか……?」


 異世界といえど疲労はあるのだ。僕は帰りたいムードむんむんで4人に向かって話す。


「んー、そうね。日も傾いてきたし、宿に向かいましょうか」


 ジェネがそういうと、馬にまたがって僕たちが来た道と逆方向に走りだす。


「あの、逆方向だけど……?」

「向こうに村があンだよ。今日はそこに泊まるンだゼ」

「なるほどなあ」


 冒険者は定住しない。それゆえに宿の場所も把握しているというわけか。




 しばらく馬に乗りながら目的地にたどり着く。なんともまあ、さびれた村だ。作物がちゃんと育っているのかも怪しい畑に、川が流れていたんであろう水路は干からびてしまっている。


「冒険者さんかえ?よくいらしたのう」


 小さな爺さんが僕らを出迎えてくれた。この村の村長らしい。宿に案内されながらその村長さんはこんな話をしてくれた。


「いやあ、山にドラゴンが産卵しに来ていてのう・・・湧き水は枯れるわ、雨は降らんわでむこう5年間は厄年なんじゃ」


ドラゴン……!興奮を隠しきれない。もしかしてこれは討伐ルートではないのか?


 と勝手に妄想を膨らましていると村長がこう付け足す。


「ドラゴンはこの村では昔から守り神でのお。去って行った後には幸福をもたらすと呼ばれておるんじゃ」


 この世界のドラゴンは悪いだけの奴ではないようだ。なんだか村の人がかわいそうになってくる。


「じゃが5年というのはなかなか立ち行かんくてのお……冒険者さんや、悪いが飯はあまり期待せんでくれな」


 そう村長が語り終えると、いつの間にか僕たちは宿に到着していた。

 宿に着くと部屋に荷物を放り投げ、真っ先に食事をとる。


 村長の言った通り、肉や魚はおろか、豆や野菜の料理ばかりだったが、それすらしっかり成長していないので、おいしくはなかった。しかしお疲れモードの僕にはそれが逆に優しい味でするするとお腹に入った。



「それじゃ、あたしらこっちだからー」

「おやすみなさい」


 女子組が別の部屋に入っていった。


「オーし、俺らも部屋にもどンぞー」

「・・・」

「うん」


 料理はとても褒められたものではなかったとは思うが、部屋は上等なものだった。

 ふかふかのベッドに僕は飛び込んだ。


「うわー疲れたあ」

「はは!初心者とは思エない働きッぷりだったゾ!」

「・・・」

「本当か?それは……zzz」


 コジロウも頷いてくれていた。僕はそれを確認すると気を失ったように眠ってしまうのだった。




 目が覚める。まだ外は暗い。尿意を催して僕は外に設置されているトイレに向かう。

 なんとなく周りを見ると人影が見える。暗闇の中でよーく目を凝らすと、どうやら女性が両手を月にかざしているようだ。


「村の人かな……?」


 尿意を忘れて僕はその女性に少し近づいてみる。

 若い、体格は中学生くらいだ。髪の長さは肩より少し上、美しい黒髪だ。少女は気付いていないみたいだ。


「あのぉ……?」

「きゃっ!」


 上げていた両手で女性は胸を隠すしぐさを見せる。

 そこで僕はやっと気付いた。


 その月明かりに照らされた美しい少女は一糸まとわぬ姿でこちらを見ていた。


「み、みにゃいでくだしゃひっ!!」

「うぇ!?あ、す、すいません!!」


 僕は慌てて後ろを向く。月明かりがあるといっても夜だったので、よく見れなかった。



 しばらくしてその少女が話し始めた。


「……雨乞をしていたんです」

「あまごい……?」


 なるほど、村長の話によれば雨すらも降らないんだったか。

 もう一度少女の方を見やると、軽く咳払いをして少女は服の襟を正した。村長も着ていたこの村独特の民族衣装のような服を着ている。


「でもなぜ、そのぉ、裸で……?」

「昔からの風習なんです。村で一番若い娘が一晩中お祈りを捧げれば天に祈りが届く、と」

「さむくない?」

「寒いなんて言ってられません!私はこの村の希望なんですから!」


 両の手でこぶしをつくり、小さな胸の前にその少女はもってくる。健気さがひしひしと伝わってきた。

 すると思いつめたような表情で少女は語り始める。


「私の母が病気なんです。大した病気ではないんですが、この村だけで育つ薬草がないと……そのために雨が必要なんです!」

「そうなんだ……」


「でも私ががんばれば、村の人だけじゃなく、お母さんも助けられるんです!」

「無理しない方が……」

「無理なんかじゃありません!……ただ、私の力が足りないせいか、全然降ってくれなくって」


 そう言って少女の表情が少しだけ曇る。僕の心配そうな顔を察したのか少女は急いで取り繕う。


「大丈夫です!!私は強いですから!!」


 えっへんと少女は胸を張る。強がりなのは明白だった。

 その痛ましいまでの虚勢に僕は、無意識に少女の頭をポンポンと撫でる。


「えへへ……お父さん以外の男の人に撫でられるの初めてです!」

「ん?あ、いやだったかな!?」


 僕は慌てて手を放すと、一瞬、少女は物欲しそうな表情をする。月明かりにほのかに照らし出される少女の表情は頬をほんのり染め上げ、とても可愛らしかった。

 しかし、少女はすぐに僕に背中を向ける。


「おやすみなさい!私、もう行きますね!!」

「え?ああ、おやすみ」


 そういうと少女は家のある方へ駆けだしていった。

 僕は少女と別れるとトイレを済ませ、部屋に戻った。




 再び眠ろうとするがどうにも少女のことが頭から離れなかった。僕はおもむろに『魔導書』を眺める。

 金属に似たそれは、窓から差し込む月明かりを反射して相変わらず美しい。


「これを使えば……」


 『神に約束を守らせる』というものがどのレベルかはわからないが、異世界を行き来できるレベルなら雨を降らせる程度のことは簡単だろう。

 しかし、ステラのあの言葉が頭の中でちらつく。



――――大量の生命エネルギーを消費する



 正直、僕は本当かどうか怪しんでいた。能力を使ったのは2回だ。その両方で僕が代償を支払ったような覚えはない。

 どちらも“異世界に転移する”というものだった。“神との約束”の基準がどんなものなのかはわからないが、僕の基準で言ったら命一つで足りるとは到底思えなかった。代償なんて払っていたら、僕の命はとうに尽きているだろう。


「人々が水に困らない世界にしてくれ」


 考えることを放棄した僕は『魔導書』にむかって言い放った。



――――しかしなにも起こらない。



 そんなことを考えていたら僕はいつの間にか眠っていた。



つづきます。

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