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第十話です。

『冒険者』


 歩きながらコジロウからもらった美しい髪を眺めていたら、ジェネが提案してくれた。


「それ、防具屋で編んでもらえばいいじゃない?そのままじゃどうしようもないでしょ」


 流れに任せて受け取ったが、正直どうしようか困っていた僕にとって、ジェネのそれは名案であった。僕はそれに賛同し、さっそく防具屋に足を向けた。


 途中、『終焉』に鉢合わせるなどしてひと悶着もあったが、すぐに防具屋にたどり着いた。


「あれ?あンちゃんじャねエか!」


 隣の鍛冶屋から偶然出て来たダンに声をかけられた。


「あ、ダン!!」

「ん、なンだソノ黒いのはァ?」


 僕が持っているコジロウの髪の毛を見てダンが質問してくる。


「コジロウの髪の毛よ」

「うえェっ!?マジかよ……」


 ジェネの回答を聞いてあからさまに引いているダンに僕は説明する。


「コジロウと手合わせしたらくれたお守りなんだ!」

「手合わせェ!?あ、あンちャんよく生きてたなア……?」


 僕のことをまるで幽霊でも見るかのようにまじまじと見てくる。そしてジェネにダンが試合結果を聞いた。


「引き分けよ」

「あア!?そいつァすげエ!!いや!あんちャんはヤル男だと思ッてたが、ここまでとはナァ!!」


 ダンが大手を振って感心してくれている。ジェネもジェネだ。確実に僕の敗北だったというのに、試合中断を引き分けだなんて。しかし僕は悪い気分はしなかったので何も言わずにその勲章を受け入れるのだった。


 そして防具屋にコジロウの髪の加工を依頼して完成するまでの間、僕とジェネとダンの三人で昼食を取ることにしたのだった。


「うんまそぉ!!」


 三人席の丸テーブルの上に豪勢な料理が次々と置かれる。それを見て僕は思わず叫んでいる。ダンもよだれをたらしながら、なにから食そうか吟味しているようだ。


「あんたらねえ……」


 そんな僕らを見てジェネがあきれているようだ。そんなことも気に留めず僕らはさっそく目の前に出された逸品を食すのだった。



 コジロウとの手合わせもあったためか、腹ペコの僕には瞬殺であった。


「ジェネたちはどうして冒険者になったの?」


 腹ごなしにコーヒーのような飲み物を傾けながら、なんとなく質問する。


「そうねえ……」

「もしかして隠された財宝を探してるとか??」


 どこぞの海賊でもないだろうに、目を輝かせながらあてずっぽうで予想してみる。すると、答えるのを渋っていたジェネに見かねて、ダンが口を開く。


「俺は、兄貴を探シてンだ」

「ダンにお兄さんがいるの!」

これは胸熱ストーリーが始まりそうではないか!


 と勝手な妄想を膨らませる。そしてダンの話に耳を傾けた。


「俺と違ッて、頭のイイ兄貴だッたんだゼ?」

「想像つかないなあ」

「ナンとなくだが、あンちャんに似てたナあ」

「僕に!?」

「名前もわからんガキに食べ物やったり、奴隷にまでそんなことやったりしてなあ」


 言葉の節々にダンの嬉しそうな心情と尊敬が読み取れる。本当にいいお兄さんだったのだろう。


「もしかしてお兄さんも冒険者だったり?」


 何気なく質問してみる。その問いにダンの表情は少し陰りを見せる。すぐにさっきまでの笑顔を取り戻すと質問に答える。


「何年モ前にいなクなっちまッてなア」

「え……?」

「どっかで冒険してるのかねぇ!」


 そういっていつものように笑い飛ばすのだった。そしてダンがジェネを指さしながら僕に耳打ちする。


「ジェネは昔の男をサがシて……」

「ないわよっ!!」


 だだ洩れの密告にジェネは勢いよく立ち上がり否定する。ほかの客の衆目にさらされた彼女は、それに気づいて顔が真っ赤になる。そして軽く咳払いをしながら席に座り直した。


「あたしは、困ってる人を助けたくて冒険者になったのよっ」


恥ずかしそうにもじもじしながら、ジェネは答えた。


「へえー、なんだかジェネらしいね!」

「そ、そうかしら?」


 また顔を赤くしている。まんざらでもないようだ。ステラとコジロウの目的もなにか別々なのか知りたかったが、ここにいないのでなんとなくやめておいた。


「ジェネたちはどんな経緯で仲間になったの??」


 窮地を救ってもらったとか、ドラマティックな出会いがありそうなのでわくわくしながらジェネとダンに聞いてみる。


「んー、なりゆきかしら」

「なリゆきだナァ」


 二人が口をそろえて答える。僕はそのなりゆきを聞いてみたいのだ。その意図が伝わったかのようにダンが話し始める。


「俺は、ほカのチームに所属してたンだ、コジロウと一緒にナ」

「おお!コジロウとダンは幼馴染なの!?」

「んァ?いヤ、『マッドベアー』ッつうモンスターに殺されカけた時に助ケてもらッたンだよ」


 聞きなれないモンスターの名前に疑問符を浮かべているとジェネが補足してくれる。

 『マッドベアー』、クマ型で成体になると4メートルを超える大型モンスターになるらしい。


「そンときにコジロウが入ッてたチームに入レてもらッたンだ」

「それまでは一人だったの?」

「オウよ、兄貴探しで駆け回ッてたンでルールに縛られンのが、もったいねエと思ってたカらなア」

「なるほど……」

「アレのおかげで、死ンだらおしまいダと気づいた俺は拾ッてもらうコトにしたワけよ」


 ははは、と絶体絶命のピンチから教訓を得て、笑い飛ばすダンなのだった。


「ジェネのところに来たのはなんで??」

「いヤァ、前んトコのリーダーが結婚するッてンで俺とコジロウでフラついてたラ……」

「ナンパしてきたのよっ、ふんっ」


 ダンがしゃべってる途中に口をはさんだジェネが軽蔑をこめて吐き捨てる。真偽を尋ねようとダンのほうを見やると、また耳元で密告する。


「トゲどころじャなかッたぜ……もうボッコボコにされて……」

「してないわよっ!!」


 またジェネに洩れていたようだ。机をたたき、勢いよく立ち上がる。再び僕らの席がほかの客に奇異な目で見られてしまった。それに気づいたジェネがペコペコと頭を下げながら、顔を紅潮させ席に着く。軽く咳ばらいをして話し始めるのだった。


「このでかぶつがステラにちょっかい出してたから軽くしめてやっただけよ」

「し、しめる……?」

「ステラが困ってたから軽く蹴り飛ばしたの!」


 ふんっ、といってジェネがそっぽを向く。森の奥に蹴り飛ばしてる風景を何度か見たからだろう、その光景は容易に想像できた。


「女の蹴りじャなかッた。ありャア、マッドベアーが地獄かラ追いかけてきたンだと思ったゼ」

「殺すわよ」


 ダンのジョーク、いや本音かもしれないが、それに対してジェネが殺気をあらわにして威圧する。殺気にまでバフをかけられるのだろうか。一瞬、空気が凍ったように緊張が走った。

 そしてジェネが何事もなかったようにティーカップを傾けたのを見て、僕は恐る恐る質問する。


「じゃ、じゃあジェネとステラは昔からの知り合いってこと?」

「ええ、そうよ。魔道学校でずっと一緒だったの」

「魔道学校?」

「その名のとおりよ。魔道を学ぶところなの」


 異世界学園モノには必須の舞台がやはりこの世界にもあるのだと、なんだか感動してしまう。


「あ、そろそろ時間ね」


 歓談もそこそこに防具屋に依頼していた加工も終わる頃合いになったので、僕たちはこじゃれた料理店を後にして再度、防具屋へ足を運ぶのだった。


つづきます。

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