心
その日、実習から帰るとハルヒはまだ帰ってきていなかった。巴原さんも帰ってきておらず、私は1人で過ごしていた。
ぼうっとしていると巴原さんが帰ってきた。
「春日井のことだけど」
単刀直入に言われた。
「はい」
「今日連れて行ったんだけど、奈津の時より酷い。あんなことしてていいわけない。あんたも馬鹿ね。気がつかなかったの?」
「全く気がつかなかったんです。大島さんはどうして?」
「まぁ妬まれたのよ。それで毎日ネチネチ言われてさ、やっぱり最終日に行きたくないってゴネた。食欲ないのもわかってたし、行かせたくなかったけどね。それでも引きずるようにして連れて行ったんだけど、帰りはもうわんわん泣いてた。ともちゃんはわかってくれると思ったって。」
「一年生の時ですか。」
「そう、2年になってからもね、そのトラウマがあったんだろうな。よくご飯食べられなくなったりしてた。もし、長くないってわかってたら無理して連れて行かなかったと思う。」
そう言って天を仰いだ。
目から涙が転がり落ちた。
慌てて拭って何もなかったかのように話し続けた。
「私ね、怠け癖がつくのはいけないって思うの。それは自信を持ってる。でも、奈津は怠けさせても良かった。あんなに辛い思いして、寿命を縮めるくらいなら……」
そう言った後とうとう糸が切れたように泣き始めた。そこにハルヒが帰ってきた。
「帰りました。」
いつも通りの挨拶をし、異変に気がついたのだろう、「泣かないでくださいよー」と言った言葉は続かなかった。ハルヒは立ったまま泣き続けた。
私は「気づかないでごめんねー」と言いながら、泣いた。みんな泣いていた。もう訳がわからなかった。
巴原さんは「ごめんねー、こんな弱い先輩で。ごめんねー」と言って泣いていた。涙は留まるところを知らなかった。
ハルヒはすっかり泣いて、びっくりしたように言った。「みんな化粧落ちてる」その間抜けな言葉にみんな笑った。みんなの心が溶けた瞬間だった。