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ギフト~アナタに送る物語~  作者: 竹 りんご
6/12

六話 狂王マグニス





 二十年前、サリア大陸の最北端に位置するサラマスタ王国の王が病死した。

 亡くなった王の代わりにサラマスタ王国第一王子であるマグニス・サラマスタがその後を継いだ。

 当時のマグニスは二十五歳という若さでありながら、卓越した戦闘技術と聡明な頭脳を持ち、国が抱える様々な問題を何度も解決に導いたこともあり、他国にまで届くほどの名声だったという。

 彼が王位に就くことに反対する者はおらず、民からもこれからのサラマスタ王国の未来は明るいと信じていた。


 サラマスタ王国即位式当日、大陸最北端に位置する小国でありながら各国から多くの要人が訪れていた。

 件の新王であるマグニスという人物が、自国にとって有益な存在かの視察という意味合いが強かったのかもしれない。


 そんな即位式が、誰も予想だにしない展開が起きてしまった。


 即位式の舞台であるサラマスタ城に集まった各国の要人を、マグニスは皆殺しにしたのだ。


 その後、マグニスは要人を寄越したそれぞれの国に、要人の首とともに一通の手紙を届ける。

 その手紙の内容に各国は眉をひそめた。


『我々はこの世界に迷い込んだ別の世界の住人である。ある者は家族を、ある者は友を、ある者は恋人を、“チキュウ”に残してきた“迷い人”である。そんな我々をこの世界という檻に捕らえたこの世界の神を決して許せない。これは復讐である。我々はこの世界の神が愛した人間の亡骸で神の国への橋を作り、神を討伐せし者たちである』


 そんな手紙の内容を各国は鼻で笑い、マグニスのことを『狂った王』と馬鹿にした。

 しかしマグニスの理由はどうであれ、世界に牙を向いたのは確かである。


 これが後に大陸国家全てを巻き込んだ戦争として語り継がれる『サラマスタ戦争』の始まりである。






 ヒビキが目を覚ました次の日。

 太陽が昇り始めた早朝に宿を発ったヒビキとノア。

 『アースギルド』本部に直接向かうのではなく、途中の街に寄りながら向かうのだとノアは言った。

 その道中、歩きながらノアはとても大事な話だからと、この世界の歴史的大事件について教えてもらっていた。


「『サタマスタ戦争』に『マグニス・サラマスタ』……ね」

「ここまで言えばわかると思うけどマグニスは私たちと同じ地球からこっちに来てしまった人間よ。『転生者』か『憑依者』かははっきりとはわかっていないけど」

「でもよ、サラマスタ王国って小国で最北端の国って言ったじゃん? たった一国で大陸全土に戦いを仕掛けるって戦争になるのか?」

「宣戦布告当初は誰もがそう思っていたんだけどね。ここで予想外のことが起きるのよ」




 最初に仕掛けたのはサラマスタ王国の隣接国だった。

 この国は昔からサラマスタ王国とは仲が良く、マグニスが即位式には王族総出で祝いに行ったほどであった。

 その結果、一番マグニスの被害を受けた国である。

 王の弔い合戦だと士気は高く、総兵数もサラマスタ王国の二倍以上。

 戦いは火を見るより明らかだと誰もが思っていた。

 だが――




「“狂王”マグニスは地球からこの星に来てしまった百人と、そして“古代兵器:殺戮人形”を持っていた」

「“古代兵器:殺戮人形”?」

「“古代兵器”は遥か昔に今の時代より科学や魔術が発展していた時代があってね。その当時に使っていた、未だに解明されていない兵器の事を言うの。“殺戮人形”はその兵器の名前ね。人型ロボットとかアンドロイドって言った方がイメージが湧くかしら。そしてこれがとんでもなく強くてね。殺戮人形一体に訓練された兵士が十人以上でかからなければいけないほどだったんだ。しかも量産が容易く恐ろしいスピードで数を増やしていった。そんな相手に隣接国は戦って僅か三日で敗れたわ」

「敗走したってことか?」

「いや――国が滅んだのよ」

「はぁ!?」

「運が悪かったとしか言いようがないわ。“殺戮人形”が世に出たのは初だったし、“ギフト持ち”との闘いだって初めてだった。戦場は混乱と破壊でもうパニックだったでしょうね。あっという間に隣国は滅んでいった。その報せを受けても協力するという言葉を知らない他国は同じように滅んでいくわ。そしてサラマスタ王国の宣戦布告から僅か五年で、大陸領土の三分の一をサラマスタ王国に取られてしまう」

「そんなにポンポンと国って滅ぶもんか?」

「普通は無理でしょうね。でもサラマスタには“殺戮人形”がいた。“殺戮人形”には疲れも食事も武器の手入れも必要ない。壊れたらすぐに新しい“殺戮人形”が補充され、目の前の敵を殺すだけの存在だから可能なのよ」


 


 

 もはや一国ではサラマスタ王国に対抗することは不可能と判断した当時大陸で一番の兵力を持っているジーロンド王国が生き残っている国に召集をかけ、対サラマスタとして同盟軍を結成するが、これで五分。

 なんとか戦えてはいるが、兵の補充速度に違いがありすぎて徐々に押され始める。


 そこからさらに三年の月日が流れる。

 度重なる敗戦で同盟軍の士気が下がり、その状態で戦場に出ては敗北、さらに士気は低下、敗走責任を他国に擦り付ける国まで出るほどだった。

 そんな最悪な状況の中、“神の巫女”率いる『聖イラス教団』が同盟軍に加わった。


「『聖イラス教団』?」

「この大陸最大の宗教国家よ。ここのトップにいる“神の巫女”は世界唯一、神の声を聞くことができるとされ、昔から『巫女の声は神の声』とまで言われていてね。例え王族でも巫女の言葉を無視できないくらいの発言力を持っているの。そんな“神の巫女”は同盟軍全体にこう言った」



『神は私にこう仰いました。“異世界の住人であるマグニス・サラマスタを討ちなさい。彼らはこの世界にとっての異物である”と。この戦いはこれより神に許された聖戦となり、貴方たちは神の戦士となります。導きましょう、この戦いの勝利へ。約束しましょう、貴方たちの未来を。神が愛した人間たちよ、その勇を持って神の敵を討ち倒すのです』



「今まで諦めムードだった同盟軍の士気は驚くくらい上がったわ。まぁ、自軍のバックに神が付いたようなものだから当然だけどね。さらに聖イラス軍も加わって戦力増強。ここから同盟軍の反撃……とは残念ながらいかなかったわ」



 理由は明白で、単純に時間をかけすぎたのだ。

 “殺戮人形”は生き残った人間よりも数が多く、殲滅は非常に困難とされた。

 そこで同盟軍は一つの賭けに出る。

 各国から選りすぐりの精鋭を推薦し、集まった二十四人という少数での『狂王の暗殺』である。

 成功する可能性は低かった。

 だが、それに希望を見出すしか人類には選択の余地はなかった。


 道のりは困難で、一人また一人と倒れていく。

 サラマスタ城に着いた時にはわずか五人しか残っていなかった。




「この時の五人の心境は私にはわからないわ。だけど見事たった五人で狂王マグニスを打ち倒す事に成功したわ。世界を救った五人は英雄と称えられ、大陸には平和が戻った。それが今から十年前の出来事。長話になっちゃったけど、これはとても大事な事なの」


 時刻は昼ちょっと過ぎ。

 朝からずっと歩きっぱなしだったので大きな木の木陰で休憩をしながら、この世界の昔話をノアから聞き終わったところである。


「まるでゲームや漫画の世界だな」


 狂王マグニスを魔王と言い換えればそのまま物語として出せそうである。


「残念だけどゲームや漫画のように『めでたし、めでたし』では終わらなかったのよ」

「狂王マグニスを倒してこの世界に平和が戻ったんだろ? まだ何か問題があるのか?」

「問題はその後。十年にも及ぶ『サラマスタ戦争』。大陸全土を巻き込んだこの戦争で、私たちという“地球から来てしまった人間”がこの世界に知れ渡ってしまった。さらに最悪なことに大陸最大宗教である聖イラス教団……いや、そのバックにいるこの世界の神から直々に“悪”と認定されてしまった。戦後“地球から来てしまった人間”はどうなったと思う?」

「……あ」


 ヒビキの脳裏には嫌な想像が浮かび上がってきた。


「地球のヨーロッパ中世で起きた“魔女狩り”、あれと似たようなことが起きてしまった。異なる世界から来た人間を狩るって意味で“異人狩り”って呼ばれていてね、不審な行動をした子供は処刑され、昨日とは人が変わった人間は問答無用で裁判をかけられ、街で不審な行動をする者がいたらイラス教徒たちに袋叩きにされる。……そんな時代が始まってしまったの」

「じゃあ、あの時の奴らは……」

「そうよ、あれが“イラス教団”。もし捕まっていたら死ぬよりも惨い事をされていたでしょうね」


 忘れもしない、この世界に来てすぐにリンチを受けたこと。

 ずっと疑問に思っていた。

 何故、見知らぬ人たちに憎悪を向けられたのか。

 大通りであんなことがあったのにノアしか助けに来なかったのか。


「で、でもよ! 俺はこの世界に来たばかりだぜ? そのマグニスとかいう奴とは関係ないし、人だって殺したことがない。なのに――」

「奴らにとってそんなのは関係ないわ。神が私たちを“悪”と認定した。この世界ではそれが法であり正義であるのよ。だからね、絶対に自分が違う世界から来たことをこの世界の人間には言わないこと。もし街中とかで疑問に思ったことがあったら、街の人じゃなく私に聞いてほしい、約束できる?」

「……わかった」

「まぁ、ここは聖イラス教団本部からはけっこう離れているし、私たちを殺すような熱心な信者はこの近くにはいないと思う。だからそんな肩肘を張る必要はないわ。だけど決して油断はしないように。要は普段通りに、だけど油断はしないようにしなさいってことよ」

「わけわかんねー」


 笑うノアに頭を抱えるヒビキ。

 命がかかっているのにそんなに適当でいいのかと思うが、一々やることに口を出されても面倒だし、このくらいの緩さでいいかとヒビキは思った。


「そろそろ行くわよ」

「あいよ」


 休憩は終わりのようで、ヒビキは立ち上がって大きく伸びをする。


「あとどれくらいで街に着くんだ」


 先を歩くノアが答える。


「陽が沈む前には着く計算よ」

「あと三、四時間は歩くのか……」


 ため息を吐きながらノアに付いていくヒビキの耳に――どこからか破裂音に似た音が聞こえてきた。

 

「……あの音は――」

「銃声ね……。誰かが戦っているわ。様子を見に行くわよ。着いて来なさい」

「お、おい――」


 ヒビキの静止の声も届かず、ノアは森の中へと入っていく。


「銃声って……あの銃声?」










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