静寂の果て
逃げ場の無い眩い日差しと騒めく風に抗う術も無く、公園のベンチに腰を掛けていた。
身動き一つせぬ死体の様に、唯々、耐え忍び続ければ、やがて、暗く静かな時が訪れる。
そう、自分の中の澄んだ空気が漂う薄暗い水の上に……。
しかし、それもここでは、連綿と続く訳ではない、ピンと張り詰めた水面が波立ち、子供の笑い声が走り抜ける。
暗く静かな空間から引き戻されるように目を開けると、数人の子供がおもちゃの銃を振り回し、亡者の群れを駆る小鬼の様に飛び跳ねていた。
時代は変われど、子供の遊びとは、いささかの変化も見せぬ物。
そう言う物でノスタルジックな気分に浸ろうとでもいうのか、駆け抜ける子供達を僅かに目で追っていた。
「バンバーン、今の当たったぞ! その銃はもう使えないぞ」
跳ね回っていた子供の一人が急にその場でうずくまる。
怪我でもしたのだろうか、と、少し気になったが、面倒事は御免だった。
「ベレッター! 俺のベレッタがー!」
蹲った子供が急に芝居じみた仕草で天を仰いで嘆いている。
どうやら、子供の遊びと言う物も、随分変わったらしい。
最近の子供のやる事など、理解できるものではないな……。
視線を引き戻すと、流れるままに遊ばせる。
唯、静かな時間に身をまかせられる、清涼な空気の漂う場所がほしかった。
ひんやりとした薄暗い水辺に佇み、静かに闇を見つめる。
そうした安らぎを得られる場所に……。
「……すいません」
どこか遠くの方から、呼びかけられたような気がして、顔を上げたが、強い光が差し込んで目が痛んだ。
六角形の光が列を成して自らの居場所を確保しようと、クルクル回りながらぶつかり合う音がガラガラと鳴り響き、その奥で動く黒い影を見通させまいとしていた。
「ご苦労様です……ここに、置いておきますね」
若い女性の声であったが、再び目を開いて周囲を見回した所で、その姿を見つけられる筈もなく、ベンチに置かれたペットボトルのお茶が汗をかいていた。
竹箒を抱えて公園のベンチに座っている男が、どう見えるのか、己の役割も考えずに余計な物を持ち歩くべきではなかったのだ。
早いとこあの死体を埋めてしまわねば。
音の無い土の下へと沈みゆく夕日を追って家路につく。