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7 深刻な生殺し状態

 エリザいわく、

「この大魔導士、絶対に男に飢えてますよ。大魔導士って一般人からは尊敬もされるけど気味悪がられもするんです。それに街の名士みたいな存在だと愛人作ってもすぐに広まりますからね」

 とのことだった。


 なんで、そんなことわかるのかと聞くと、

「女の悪魔の勘です」

 と言われた。


 それを信じて言ってみたのだ。


 ごくっとルーティアが生唾を飲んだのが聞こえた気がした。

 この人、俺の全身を舐めるように見てるな……。


「そ、それは具体的に言うとどこまでならいいのかしら……」


「ええとですね……肉体関係になる前ならどこまででもいいです……。俺の婚約者の魔導士が浮気をすると死の魔法が発動するようにしてるんです……。大魔導士様でも危険ですので……」


「なるほど……。わかったわ……。じゃあ、すべて私の言うとおりにしてもらえるかしら?」


「わかりました。俺に異論はないです」


 ハチのエリザが、

「そこはもうちょっとおどおどした雰囲気を出しながら言ってください」

 と演技指導してきたが、無視した。


「それじゃ、ひとまず私の寝室に来てもらえるかしら」


 おい、これ、本当に大丈夫なのか……?



 ――三十分後。


 俺は裸になってるーティアのベッドに入っていた。


 すぐ隣にはルーティアが入っている。

 というか、俺の腕を枕みたいにしてしている。


 腕枕ってけっこう疲れるんだな……。


 なお、肉体関係はない。本当に二人でベッドに入ってるだけだ。


「それじゃ、次ね。『月がきれいだね』って言って。はい」

「今、昼ですよ……」


「いいの。夜の設定だから。はい」

「…………月がきれいだね」


「もうちょっと、心をこめて。ライアンはもっと情感がこもってたわ」


 たしかに棒読みだった気はする。


「月がきれいだね」


「そうね。じゃあ、次、『君のほうがきれいだけどね』って言って。はい」

「君のほうがきれいだけどね」


 何をしているかというと、俺はルーティアの昔の恋人という設定を演じているのだ。


 なんでも90年前の青春の空気にひたりたいらしい。

 これは、たしかに何でも言うことを聞くと男が言った時ぐらいしかできないよな……。


 エリザも小声で、

「これは予想外でした……」

 とつぶやいていた。こんなの予想できたら予想じゃなくて、未来予知だ。


 ルーティアが俺の体に抱きついてくる。

 あんまり動揺するとキャラが崩れるのでできるだけ堂々とする。


 けど、今、何か当たってるよな。これ、おっぱいだよな……。

 くそっ! 俺には刺激が強すぎる……。


「はぁ……私、すごく幸せ……」

 次の台詞の指示がないぞ。まあ、いい。それっぽいことを言え。

「俺も幸せだよ」


「ふふ、ごめんなさいね、おばあさんの昔の思い出なんかに付き合わせて」


 あっ、設定終わったんだ。


「いえ、ルーティアさんは充分に美しいですよ」

 これは本音だ。

 だってどう見ても二十代の容姿だからな。


「あなたが昔の男に似てるのは本当よ。あなたと同じでやさしい顔をしてて、やさしすぎてほかの女に押し切られるみたいに私から離れていったの」


「そっか、モテる層にもいろいろあるんですね」

 そういう意味では非モテは修羅場を絶対経験しないので強いとも言える。


「俺、まったくモテなかったんでそういうことは、よくわからないんです」


「ウソでしょ、あなたぐらいかっこいい男、女が放っておかないわよ」


「前世で俺に惚れたのはハチだけです」


「ふふ、あなた、本当に面白い男ね」


 あっ、事実を言っただけなのに、なんか気に入られたっぽい。


 ルーティアが寝ている俺の上に乗ってきた。

 いや! それはまずい!


 本当にあなた、殺されますよ!

 エリザはかわいいけどとんでもない悪魔だから、人ぐらい殺しますよ!


 実際、小声で「あっ、殺しちゃおうかな~。首ちょんぎっちゃおうかな~」とかいうことをハチ姿のエリザが言っていた。


「ねえ、交わったら死ぬってウソじゃないの?」

「本当です……。シャレにならないです……。ルーティアさんみたいにきれいな人に俺も死んでほしくないです」


「きれいだなんて。あなたって本当にやさしいのね」

 ぎゅっと、ルーティアに抱き締められた。

「私、こんなおばあさんなのに」


 いや、おばあさんって認識できる場所って90年前の記憶がどうとか言ってる箇所だけだぞ。


 しかし、これ、精神的に相当きついな……。

 何がきついって、これで肉体関係はダメっていうの、かなり拷問級に疲れる……。


 ハチのエリザが、「じゃあ、私としますか、旦那様?」とつぶやいてきた。誰が旦那様だ。


 そっちに心が傾きそうになるが……。


「ほら、よほど肉欲に溺れたりしないかぎり、魂を全部奪われるなんてことはないですから。一回や二回じゃ致命的なことになんて絶対ならないですから。悪魔は契約内容でウソは言えないので本当ですよ」


 じゃあ、ためしに一回ぐらい――ってダメだ。

 こういうのは一回やると歯止めがきかなくなる。


 ここは我慢だ……。


 なので、ルーティアも断ろう。


「ルーティアさん、俺だって男だから、本当はえっちなことしたいんですよ。でも、ルーティアさんに死んでほしくないから耐えてるんです。理解してください……」


「そうね」

 くすくすとルーティアが笑った。

「純愛みたいなのもいいのかもね」


 それから何度もキスされた。

 キスは何度されてもセーフなのだ。


 そのあと、服を着て、ルーティアの書斎に戻った。


「約束どおり、あなたに森の精霊の居場所、教えてあげるわ」


「ありがとうございます」


 よかった。目的に一歩近づいた!


「あと、それとこれもあげるわ」


 ブレスレッドをルーティアは渡してきた。

「それ。強力な対魔防御なの。魔法で命を狙われてもそれが防いでくれるわ」


「これ、いいんですか? 絶対高いものだと思うんですけど……」

 ふふふ、とルーティアは楽しそうに笑った。


「あなたが不思議な人だから、死んでほしくないのよ。また、困ったことがあったらいつでも来なさい」



 ニンナの街への帰り道、人間の姿になったエリザに言われた。


「なかなか、濃密な時間を過ごせましたね。ねっ、私の作戦、成功したでしょう?」


「そうだな……でも、けっこう疲れた……」


 その日は疲れきって眠った。

 眠りが深くて、エリザに抱きつかれてるのも気づかないぐらいだった。


 そして、朝、まだ文字が出てきた。


『女神です。いろんな女性から好感度上がってますね!

本日の恋人候補! 森の精霊ファルシェンナ』

明日はちょっと時間不定期ですが二回更新の予定です。

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