4 初仕事
夜、リクルちゃんの仕事が終わってからギルドに行った。
俺と会うと(エリザもいたが)、リクルちゃんは顔を真っ赤にしていた。
すごくわかりやすい反応だ。
きっと、こういうウブなところが、無骨な冒険者に受けてるんだろうな。
【チャーム】のせいだってわかってるので、少し申し訳ない。
心に影響与えてしまってるわけだし、できるだけ誠実に対応しよう。
空いている部屋で話をする。
「そ、それじゃ、ギルドと仕事について簡単に説明しますね……」
まず、ギルドの制度についてリクルちゃんは話してくれた。
冒険者の階級は三級・二級・一級・特級の4つ。
あと、ギルドに加入すると腕章をもらえるが、これで王国の違う町に入る時など、証明書の代わりになるらしい。
ちなみにリクルちゃんは俺を見てはすぐに目をそらし、また顔を見ては目をそらしということを繰り返していた。
恋愛対象になる人生を長らく送ってこなかったので新鮮だ。
さて、今、ギルドに来ている依頼の話だ。
「今、ギルドに来ている仕事としては軍隊蟻狩りですね。これが森から街道に出てくると困るので駆除しています」
一匹倒すと、500ゲインの仕事と言われた。
日本円で一匹5000円ぐらいか。
「それが一番楽な仕事かな?」
「そうですね。ちなみに何匹倒したかの証明で触覚を切り取って持って帰ってもらっています。慣れた人は一日に20匹倒したりしますね」
約10万円の稼ぎか。悪くないな。
「ありがとう。じゃあ、まずはそれで冒険者としてどれぐらいやれるか確かめてくるよ」
リクルちゃんの目を見て、微笑む。
「がっ、頑張ってくださいね!」
またリクルちゃんの顔が赤くなる。
「ほら、アルトさん、あれを出してください」
そこでエリザに指示をされた。
危ない、危ない、忘れかけてた。
「あっ、そうだ。これ、時間とらせちゃったお礼」
俺はクッキーの詰め合わせを渡す。
打ち合わせで時間をとらせちゃったのは事実だからな。
「あの……ありがとうございます……」
「いや、時間外勤務を考えたら全然割に合わない」
これはエリザの入れ知恵だ。
ハーレム計画自体には手を貸すというスタンスはウソじゃなかった。
ここは気を引くために、ちょっとしたものを買っていけと言われたのだ。
こんなことをエリザは教えてくれた(ちょっとだけ回想)。
「見ず知らずの人間が何かをプレゼントしてきたらおかしいですが、お礼という形ならおかしくないでしょう? あと、クッキーなら仕事の合間にちょっと口にはさむこともできます。それに消えものだから気楽に受け取れます」
「エリザって詳しいな」
「いや、これぐらい普通ですよ」
「ありがと」
「いえいえ、ちゃんとギルドの子、惚れさせてくださいね!」
回想終了。
普段、人からものなんてもらうことがないのか、リクルちゃんはかなり喜んでくれていた。
「じゃあ、これで俺は帰るよ。今日は本当にありがとう」
「そうだ、最後に一つ聞いていいですか?」
リクルちゃんの顔がエリザのほうに向く。
「この方とはどういったご関係なんでしょうか?」
「妻です」
「違う。冒険者仲間だ」
一応、訂正した。
「それと、アルトさん、帰る前にまだ大事なことが残ってますよ。私たち、冒険者登録をまだしてないままです」
「あっ、そういえば……」
やる前に昼はギルドから出ちゃったもんな……。
無事に登録も終えて、俺たちは帰った。
エリザは――
「リクルって子、あれだけ内気なら浮気することもないでしょうね。安心、安心」
勝手なことを言っていた。
さて、明日から冒険者の日々のはじまりだな。
◇
また朝にあの文字が頭に浮かんだ。
『本日の恋人候補! 女騎士マリシャ』
女騎士って俺に剣を向けてきた奴かな。
朝、宿を出ようとすると、おかみさんからファルト伯爵の家から貴重な薬草が届けられていると言われた。
薬草とともに「冒険者頑張ってくださいませ ミルカ」と書かれた紙も入っていた。
ファンレターみたいなものだろうか。
「これは幸先いいぞ」
俺は軽い足取りで軍隊蟻の出る森に向かった。
自分の実力がどんなものか試してやる。
◇
剣が殻を通らない。
「くそっ! くそっ!」
剣を振り回すが、なかなか軍隊蟻を仕留められない。
「ほい、ほい、ほいっと」
一方で、エリザは通販番組でやってるよく切れる包丁みたいに、すぱすぱ軍隊蟻を切断していた。
「お前、自分だけいい武器買ってないだろうな……?」
「いえ、同じ商品ですよ」
マジかよ……。そんなに能力で負けてるのか……。
「あっ、アルトさん、後ろから蟻が来てますよ」
「うわああああっ!」
「はいはい、片付けますよ」
割って入ったエリザがまた軽く切断した。
倒した数。
俺:1匹
エリザ:37匹
「あぁ、疲れた……」
俺は手ごろな切り株に腰を降ろした。
「いやあ、簡単なクエストからはじめてよかったですね」
エリザは汗一つかいてない。
ただ、運動はしたので一応、水筒の水を飲んでいた。
「結論から言いますね。アルトさん、容姿と魅力以外、高くないですね」
「言わなくていい! 俺だって実感してる!」
軍隊蟻ってこのへんに出てくる最下級モンスターの扱いだ。
それにてこずってるってことは、こっちの力もだいたい想像がつく。
「でも、事前に調べておいてよかったですよ。弱いとわかったことが収穫です。実力を上げる方法ぐらいいくらでもありますし。あと、【チャーム】の効き目の範囲もわかってきました」
「どういうことだ?」
「軍隊蟻にはまったく効いてないですよね。あと、男の冒険者にも効き目がないようでした。おそらくですけど、人間並みの知性がある女性だけに効くようです。当たり前といえば当たり前ですが」
「もってまわった言い方だけど、人間の女性ってことだろ?」
「ファンタジー世界ですから、魔族の中にも人間みたいなのがいるかもしれないでしょ。たとえば、私みたいな悪魔とか」
なるほど。それはありそうだ。
――と、その時、森のほうから女性の悲鳴が聞こえてきた。
「あら、悲鳴ですね」
「お前、なんでそんなフラットなんだよ!」
「私はアルトさんにしか愛を注ぎませんよ。だから、アルトさんも私の中に愛を注いでくれていいんですよ。ああ、言っちゃいました……」
「いや、そんなしょうもないこと言ってる場合じゃないから!」
誰かが襲われているかもしれないのだ。
俺は森に突っこんでいった。
「もう! アルトさんだけ行っても勝てないじゃないですか!」
すぐにエリザも追いかけてくる。
そこにはミルカ姫の護衛をしていた女騎士が軍隊蟻の群れに囲まれていた。
これまでと明らかに蟻の密度が違う。
どうやら、蟻の巣を偶然刺激してしまったらしい。
服も蟻に噛みつかれたのか、白い肌がのぞいていた。
胸もあらわになっているぐらいだ。
ある意味、エロ漫画で見たことのある女騎士だけど、そんなこと言ってる場合じゃない。これは現実だ。
女騎士と目が合った。
「あっ……お前はあの時の……」
とっさに女騎士は自分の肌を隠す。
まあ、俺も男だからな。
でも、裸を見られることより命のほうが大切だ。
「俺も冒険者になったんだ! 今、助ける!」
明日も三回更新を目指します! よろしくお願いします!