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2 ハチが美少女だった件

「はい、そうです。ハチです」


 ハチが言った――と考えるしかないよな。


「なるほどな、お前も転生して会話能力を手に入れたのか」


 ハチとはいえ、話し相手がいるのは悪くないかもな。


「これは私がもともと持っていた能力です。ハチも世を忍ぶ仮の姿だったんですが」


「え? 日本にいた時から変身能力でもあったってことか?」


「あ~、この見た目だとわかりづらいから、人間の形態になりますね」


 俺の目の前に突如として、いかにも悪魔ですといった黒い翼を生やした少女が出てきた。


 長い髪はあざやかな銀色だ。

 アイドルが目の前に出てきたのかと思ったけれど、今はかわいさとかよりもっと気になる点がある。


「え、ハチが女の子に……? むしろ、もともと女の子だったのか……?」


「紹介が遅れましたね。私、上級悪魔のエリザ・インフェルノと申します。今後ともよろしくお願いいたいます。エリザとお呼びください」


 ペッドにぴょんと飛びのると、そこに正座して、ハチは丁寧に頭を下げた。


「今、悪魔って言ったな……?」


「そうですよ。といっても、私、仕事でミスをしちゃいましてハチの姿から戻れないようにされてたんですよ。その時にアルトさんにお会いしたんです」


 今度から日本でハチを見ても気をつけよう。

 怒らせると刺されるとか以前に日本を滅ぼされかねない。


 でも、そもそももう日本にいないから関係ないな。


「ええと……わからないことが多すぎるので、一個ずつ聞く……。カップル転生の候補にされたってことは、君は俺のことを好きだったってことか?」


「そうですよ、ラブです! 今すぐえっちいことをされても問題ないです!」

 美少女に言われているので心がぐらつくが、相手は悪魔だ。

 魂とか取られそうで怖い。


「さらに聞く。じゃあ、俺を好きになった理由って何?」

 すごく自意識過剰な発言みたいだけど、気になるのも事実だ。


 だって、ハチのためになることをした経験とか、人生で絶対にないぞ。


「アルトさんに私、命を助けられたんです」

「いつだよ」


「ほら、アルトさん、庭の水やりしてたじゃないですか。あの時、ホースの水がかかりそうになったんです」


「それ、むしろ俺が殺そうとしたことなんじゃ……」


「それを食らったら、私も溺れて死んじゃいます。実際死ぬかと思いました。ですが、アルトさんはとっさに私に当たらないようにホースをコントロールしたんです!」


 記憶にないが、ハチに当てたくなかったのだろう。

 けなげに生きてはいるわけだし、ハチがいないと花も咲かんしな。


「つまり、ハチの命すらアルトさんは守ろうとしたというわけです! 私、それで惚れちゃいました! 家の中にも入って追いかけてました!」


「だから、室内にハチがいたのか……」


 いつか刺されるんじゃないかと気が気でなかった。


「そのあと、アルトさんの家が火事に遭いました。私も煙を受けて体力を失って、アルトさんを助けられないまま一緒に死んだというわけです。悪魔の姿に戻ることができてれば助けられたんですがね……」


「それで、カップル転生の場に一緒に行ったってわけか……」

 数奇な運命にもほどがあるだろ。


「そういうことです! この世界なら姿も変えられるようですし。今後ともよろしくお願いしますね! ずっとアルトさんに付き従います! ご奉仕します!」


「うん、お願いする――えっ、君、ずっといるの?」


「えっ、なんですか、その、とっとと帰れよみたいな反応!?」


「いや、俺、この世界だとハーレム展開になると思ったんだよ! その片鱗はすでに見えてるんだよ」


 姫様を見つめるだけでけっこういい雰囲気になったのだ。


「そういえば、早速女性に好かれまくってましたね」


「でも、君がずっと横にいたら、阻害要因になるだろ……」


 ハーレム物の主人公っていうのは独り身だから成立するのだ。

 横にずっと正妻ポジションのキャラがいたら、おかしなことになる。


「嫌です! 私はアルトさんのそばにいます! 病める時も、健やかなる時も一緒です!」


 どうしよう、すでに前途多難だ。


 そうだ。

 俺の【チャーム】を使えば、この子も俺にベタ惚れになって、結果として、俺の言うことを聞くのではないか。


 エリザを見つめてみた。


「見つめないでくださいよ。照れちゃいます。妊娠しちゃいます……」

 するわけないだろ。


 おかしい。さっきからノリが同じだぞ。


「あれ、【チャーム】が効いてないのか……?」

「ああ、それはこの世界に生きてる人にしか効かないと思いますよ。私、ほかの世界出身の悪魔ですから」


「マジかよ!」

「もっとも、すでにアルトさんに惚れてるわけですけどね。子供は何人作りますか?」


 困ったな、ハーレムどころじゃないぞ……。


 いや、ここはプラス思考になろう。


「エリザって強いのか?」

「上級悪魔ですから、相当強いと思います」


 チートキャラが俺のそばにいる。


 これはすごくありがたいことのはずだ。

 俺、戦闘能力に特化してるかどうかはまったくの謎だからな。


「わかった。じゃあ、一緒に旅でもするか」

「はい! 私たち、いつまでも一緒です!」


 喜んでるエリザは間違いなくかわいいし、よしとしよう。


 非モテの時期と比べればエリザに惚れられるだけでもうれしい。

 ハーレムの一員と考えればいいのだ。


「なあ、俺がハーレムを作ったらエリザはどうする?」

「ほかの女を全部呪い殺します」


 にこやかに言われた。


「やっぱり帰れ!」


 こいつがいたらハーレムなどできん!


「だって、アルトさんの妻は私だけですよ! カップル転生ってそういうシステムですよ! なんでハーレム作られないといけないんですか!」


「せっかくハーレム作れる能力あるんだから使うだろ! ていうか、だったら女神の前でその姿でいてくれよ!」

 もし、あの時にこのエリザがいたら素直にカップル転生を受け入れていたはずだ。


 だって、エリザが美少女であること自体はゆらがないからな。

 悪魔であることは小さな問題だ。


 オッサンの天使と美少女の悪魔なら、男は絶対に美少女の悪魔を選ぶ。


「それはしょうがないですよ。女神の前で上級悪魔でーすとか言って出たら、絶対にまともなところに転生させられないじゃないですか……」


「それはそうか……。だからずっとハチのふりしてたんだな……」


 とはいえ、これから先、仲良くなった女子を殺されまくったら鬱展開すぎる。


「殺すというのはやめてくれ。人を殺しまくってる妻なんて愛せるわけないだろ……」

「一理ありますね」


 この悪魔、話せばわかるらしい。


「それにお前、悪魔なんだから俺が肉欲に溺れる分には望むところなんじゃないのか? そのへん、どうなってるんだよ」

「そ、そうですね……。悪魔の存在意義に関わると言えばそうですね……。わ、わかりましたっ!」


 エリザが覚悟を決めたようだ。


「アルトさんのハーレム計画、私も推進しましょう! 私だって悪魔ですし、そこはやるべきことをやります! それにアルトさんの幸せは私の幸せでもありますから!」


「おお! 一転して、頼もしい味方に!」


 しかし、そこでにやっとエリザは笑った。


「ただし――肉体関係を結んだ女は呪い殺します。いちゃいちゃされるのは耐えますけど、そこより進まれると……アルトさんが大好きな自分がバカみたいじゃないですか……」


「つまり、ハーレムはいい。でも、一線を超えたらアウトってことか」


「アルトさんには害はなしませんから、女を殺していいっていうのなら、どんどん肉体関係結んでくれていいですよ」


 それは鬼畜すぎるだろ。


 正直、迷ったけど――

「わかった、それでいい……」


 少なくともハーレムはできるのだ。

 非モテ時代から比べれば絶対に進歩している。


 その日の夜――

「さあ、アルトさん、眠れない夜を過ごしましょう!」


 エリザが肌が透けるような夜着で迫ってきた。


 そうか、エリザとはえっちいことしてもいいんだ。


 俺はごくりと唾を飲む。たしかにエリザも美少女だ。

 しかし――


「私と契って、アルトさんの魂、私にください!」


 それで醒めた。


「おい、その設定、初めて聞いたぞ……?」

 魂という単語が怖い。


「悪魔は契った人の魂を少しばかり手にすることになっているんです。あ、ご心配なく。悪用なんてしませんし、それでアルトさんが抜け殻みたいな存在になるわけでもないです」


「じゃあ、その手に入れた魂で具体的にどんなことができるんだ?」


「アルトさんの考えることを微妙に操作したりできます。好きな人ができても、無関心にさせて、私に目を向けさせたりとか」


 やっぱり悪質じゃねえか!


「愛する人に自分のことだけ考えてもらいたいって気持ちは恋愛において普通ですよ。少なくともほかの女のこと考えてほしいとは思わないでしょ?」

 まあ、それはそうなんだけど。


「あと、アルトさんの快楽を増幅させたりとかってことも可能ですよ。私はあくまでもアルトさんの幸せを願ってますからね! 悪魔だけにあくまでも!」


「うん、そこはわかるし、疑ってないが……」


「しかも、よほど何度もえっちいことしないと、思考や感情に影響なんて出ませんよ。一回や二回は誤差ですよ」


 それも本当だと思う。

 じゃあ、一線超えていちゃらぶしよう!

 ――と言いたいのだが。


 これ、のめりこむと完全にコントロールされる流れのやつだ。

 最初はいいけど、そのうち心をすべて奪われる。


 しかも美少女とえっちいことして、歯止めがきく自信がない。


「ごめん。悪魔との初体験は断る……」


「鋼鉄の意思をお持ちですね……。普通、魂っていっても少しならいいかなって思うところなのに……」

「非モテ期間が長いから、そこは強いのだ」


「でも、そこに私、憧れます!」

 ぎゅっとエリザに抱きつかれた。


 うわ、すごくいいにおいがする……。


「魂がもらえなくても、私が全身全霊でアルトさんを愛しますからね! 尽くしますからね!」


 結局、エリザに抱きつかれながら眠った。

 美少女に抱きつかれたので、ほとんど眠れなかった。


 そして、朝起きると、また脳内に文字が浮かんだ気がした。


『本日の恋人候補! ギルドの受付嬢、リクル』


 つまり、ギルドに行けってことか。

次回は夜7時ぐらいに更新できればと思っております。よろしくお願いします!

三回更新を目指します!

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