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1 お風呂イベント的なもの

 気がつくと大きな泉の前に立っていた。

 転生完了か。

 服装はいかにもファンタジー世界の庶民って感じのものだ。


 泉の前というのはありがたいな。これで顔を確認できる。


 一言で言うと、イケメンだった。

 最初、自分の顔と認識できなかったほどだ。


 もちろんイケメンといってもいろんなタイプがいる。

 ちょっとワイルドなタイプもあれば、線の細い、女っぽい雰囲気のものもある。


 その中でいくと、少し中性的な系統か。

 たしかにイケメンでもあまりチャラいと、そういうのが苦手な女性には引かれるだろうし、誰にでも好かれるとなると、こういう中性的な顔が安全なのだろう。


 女装する気はないが、女装しても絶対に似合うと思う。

 むしろ、女だと主張したらある程度騙せそうだな。


 表情もキザっぽすぎるほどではなく、気弱というほどでもない。


「なるほど。これはモテるわ」

 まだモテたことないけど。


 唯一の問題点はというと、なぜかハチまで転生していることだ。

 俺の横をハチが飛んでいる。


 女神、こいつも一緒に転生させたな……。


 まあ、ハチ差別はよくないし。一寸の虫にも五分の魂というし、許容するか。

 俺に惚れてるというらしいから、刺すことはないだろう。


 さて、ひとまずここがどこか調べでも――


 顔を上げると、すぐ先に女性の裸体があった。


 泉で年頃のお嬢様が水浴びしていたのだ。


 輝くような金色な髪に、少し童顔の細面ほそおもての女の子。

 裸も純粋な芸術作品みたいに美しくて、欲情する気すら起きない。


 とはいえ、欲情してないから無罪というわけにはいかないのであって――


「きゃーっ! 殿方がいますっ!」


 その女の子に悲鳴をあげられた。


 そりゃ、そうだ。イケメンでものぞきはのぞきだ。

 女の子のそばにいた護衛らしき、長髪の女剣士がこっちに突っこんでくる。


「貴様! 何者だ! ファルト伯爵の息女、ミルカ姫の水浴をのぞき見るとは無礼千万!」


「すいません! 知らなかったんです!」


「今すぐ斬り捨ててやる!」


 おいおい! イケメンでも転生直後に死んだら意味ないぞ!

 しかし、ミルカ姫ってどこかで聞いた覚えがあるような……。


 そうか、転生前に頭に浮かんだぞ。

『本日の恋人候補! ファルト伯爵の息女、ミルカ姫』


 あれはその子を恋に落とせばどうにかなるということを意味してるはず。


 俺は体を隠そうとしているミルカ姫のほうを見つめた。

 目が合えば、常時発動魔法【チャーム】の効き目が現れる!


「姫! 私は無実です!」

 姫と目が合った。


 ――キュピーン!


 一瞬、その瞳の中がハートマークになったように見えた。

 これは惚れたな。


 しかし、そこで俺は大きなミスを犯してることに気づいた。


 俺を殺そうとしてる女剣士を先に魅了しないと死ぬのでは?


 しまった! 順序をミスった!


 もう、女剣士が剣を振り下ろしている。

 速い! さすが護衛の剣士!

 これは死んだな……。


 しかし、俺の顔の真ん前で剣は止まった。

 た、助かったのか……。


「お前、私に追いかけられて一歩も退かないとは、なんとも勇気のある人間だな」

「え……?」


「これで逃げ出せばやましい人間だと判断して斬り殺しただろうが、どうやら偶然居合わせたというのは本当かもしれん」


 いやいや! 武器持って追われたら、普通逃げるよ!

 その判断基準、無茶苦茶すぎるよ!


 とはいえ、俺は助かったし、なぜか評価までしてもらえている。


 あ、そうか。

 俺は容姿だけでなく魅力もMAXらしい。


 つまり、俺が意図せずやったことも好意的に受け取られる可能性が高いのだ。


「わかってもらえてよかった。俺、この場にいきなり転生したんだ。だから、この世界のことは本当に何も知らない」

「たしかに怪しい人間がいれば気配があったはずだが、そういうものもなかったな」


 そこにバスローブのようなものを羽織って、身を隠したミルカ姫がやってきた。


「ご無礼をおかけしました……。あの、あなたのお名前は……」

 名前、どうしよう。本名は有人あるとだけど、まあ、それでいいか。


「俺の名前はアルトです」

「アルトさんですか。あの、もしよろしければ少しお話をいたしませんか? その……なぜか、あなたと一緒にいたいのです……」


 マジか。

 美少女から話をしたいと誘われるって怪しい勧誘以外で確実に人生初だ。


「そうですね、俺、マジでこの世界のこと何も知らないんで、いろいろ教えてもらえるとうれしいんですが……」


 そこに侍女たちが駆けてきた。

 侍女のリーダーらしき30歳ぐらいの厳しそうな女の人が近づいてくる。

 いかにも教育係というか、小言とか言いそうなタイプだ。


「姫、こんなどこの馬の骨ともわからないような男に――」

 その人が俺の顔を見た。


「なっ……この凛々しい顔立ち……間違いなく高貴な生まれの方ですね……」

 そんなの顔でわかるのかよ!


 これが魅力MAXということか。



 泉の前で円になって話を聞いた。

 水浴びをしてたぐらいだから、俺以外全部女子だ。


 まず、ここはマスタール王国という国の南部の土地らしい。

 北では魔族と戦争をしているらしいが、南部はかなり平穏な土地ということだ。

 その他、東西に違う国があるようだが、ひとまずはこの国のことがわかればいいや。


 このあたりはファルト伯爵領のニンナという街らしい。


「ありがとうございます。冒険者ギルドってこの街にあります?」

 縁故もないし、前世に特殊な知識や技能があったわけでもないし、ギルドにでも入って働いて稼ぐしかない。


「あの、冒険者だなんて危ないことはせずに、私の屋敷にいらっしゃいませんか? 身寄りも誰もいないんでしょう?」

 ミルカ姫がそう提案する。


「うむ、素養があるかもわからんのに冒険者というのは危険だしな」

 そう女騎士が言った。


「部屋の準備なら私ができますよ」

 侍女のトップぽい人も言った。


 すごい。こんなに人にやさしくされたの、初めてかもしれない……。

 これだけで涙出そうだ。というか、出た。


「まあ、アルトさん、どうして泣いてらっしゃいますの?」

「ミルカ姫と皆さんのやさしさに感動したんです……」


 これは本音だ。


「やっぱり、アルトさんって、心のきれいな方なんですわね」

「知らない土地にひとりぼっちですし、心も寂しくなるのだろう」

「これは屋敷に住んでいただくしかないですね」


 本当にちょっとしたことをものすごく評価してもらえる。

 これはありがたい。


 しかし、いきなり貴族の屋敷に住むというのもどうかとは思う。

「お言葉はありがたいんですけど、しばらく一人で生きてみようかなと。自分に何ができるか試してみたいんです」


「ご立派ですわ、アルトさん!」

 ミルカ姫に手をとられた。

「もし、困ったことがあったら教えてくださいませ! このミルカが全力でサポートいたしますわ!」


 こうして、俺は街の宿20泊分のお金と、武器や防具を揃えるお金を渡されて、姫たちと別れた。


 なお、宿に行って、おかみさんと目を合わせたら、一番広くていい部屋に案内してもらえた。


「貴族の子息だけど、わけありで旅をするしかなくなってるんだろう? 顔を見ればわかるよ」

 本当に容姿・魅力MAXの効果ってすごいな……。


 ひとまず、これで生きていくことはできそうだ。

 問題があるとしたら、ハチがいまだに近くを飛んでることだけだな。


 これもカップル転生って言うんだろうか。


 でも、片方が一方的に好きなのはカップルではないだろう。


 そんなことを思いながら、宿の部屋に入った。


 その途端、声が聞こえてきた。

「ふう、やっと話ができますね!」


「えっ? 誰? どこ?」

 どう考えても部屋には誰もいないぞ。


「ここです、ここ!」

「いや、どこだよ!」

「ほら、アルトさんの目の前に飛んでるじゃないですか!」


 まさか……。


 ハチがしゃべってるのか!?


日が変わる前に更新できました・・・。明日もしっかり更新します!

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