17 能力のバグ
レストランの開店に無事に寄与した俺はしばらくのんびりしていた。
それはつまり次の女神からの攻略対象通知が来てないことを意味する。
まあ、ハーレム能力とはいえ、さすがに毎日、誰かと仲良くなることはできないのかもしれないな。
とはいえ、
わざわざ俺が泊まってる宿にまでミルカ姫やマリシャが遊びに来てくれたり――
ミランダが料理を持ってきてくれたり――
ふらっと大魔導士ルーティアや精霊のファルシェンナがやってきたりということはあるので、それなりに楽しくしていたが。
「ハーレム能力も一段落したのかな」
「どうなんでしょうか。女神がくれた能力なので、そうそう終わりにはならないと思いますけど」
当然、俺には常時発動魔法【チャーム】が使える(というか使ってしまう)ので、惚れさせようと思えば強引に惚れさせることはできる。
ただ、学校や職場に通ってるわけでもないので、しょっちゅう顔を合わせる女性がいるわけでもないので、これといった対象がないのだ。
いくらなんでも街を歩いている女子を片っ端から【チャーム】で魅了するのは人間としてひどい気もするので、数日はあまり人に目を合わせないように静かに生きていた。
そんな折、寝ていると、その異常がやってきた。
◇
「お久しぶりです、アルトさん」
ふわふわした空間にゴージャスな服を着た女の子がいる。
「ええと誰だっけ? あっ、女神様だ」
俺にハーレム能力を授けてくださった女神様がそこにいた。
「そういうわけです。ちょっと私のハーレム能力に問題が生じたので、その説明のために夢に現れました」
この神様、けっこう律儀だな。
「フラグ立つ人がこれ以上増えないってことですよね? それだったら今の数でもけっこういるんで、大丈夫ですよ」
「いえ、そういうことではありません」
じゃあ、いったい何が問題なんだ?
「むしろ、私が能力を制御できなくてですね、もっと力が大きくなってきちゃってるわけです。もしかすると、それでトラブルが起きちゃう可能性も……」
「ぶっちゃけ、よく意味がわからないんですけど……」
肝心なところがぼかされている。
「そうですね……おそらく、明日、アルトさんはとある事故に巻き込まれると思うんですが……まあ、命には一切別条ないはずですし経験してもらったほうが早いですかね」
なんだろう、まずいことがあるから謝りたいけど、具体的には言いたくないということか。
「危険がないならそれでいいですよ」
「わかりました。では次の恋人候補は古着屋のニコ!」
◇
翌日。
俺はごく普通に街を歩いていた。
古着屋の横を通るつもりはなくても、どうせ横を通ってるだろう。これまでもそうだったし。
と、向こうからあわてて走っている子がいた。
「すいません! すいません! どいてくだ――」
そのまま、その子とぶつかった。
俺は冒険者としては普通に弱いのであっさりと倒れる。
ばしゃーん!
しかも、そこに水たまりがあった。
ああ、やっちゃった。
まあ、たいした服じゃないし、いいか……。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
ショートカットでスカート姿のその子に何度も頭を下げられた。
「いや、いいよ。怒ってもしょうがないし……」
「ボクの家、古着屋なんでよかったらお気に入りの服をプレゼントします!」
エリザも「もらえるものはもらっておきましょう」と言ったので、行くことにした。
古着屋というと、日本だとどこにでもあるというほどでもないが、服の大量生産ができない世界では服はそれなりに貴重だから、街にはだいたいあった。
その子ニコといった。
ということはこの子とフラグが立つのか。
ちなみに、古着屋へ向かう途中に目が合ってしまった。
――キュピーン!
あっ……まただ……。
俺は古着屋の試着室でいろいろと服を試していた。
というか、ニコがどんどん持ってくるのだ。
どうせ、古着なので、高級品がそうあるわけでもないので気楽だ。
「あの、いいのありましたか?」
ニコが試着室にちょろっと顔だけ出す。
「いや、男でも着替えはみないでほしいんだけど……」
別に下着姿じゃないけど、女子に見られるのは落ち着かない……。
「ああ、それなら大丈夫です。ボク――」
と、ニコが試着室の段差につまずいたらしい。
この子、そそっかしすぎる!
「うわわわっ!」
そのまま俺のほうに倒れてきた。
おかげでニコが狭い試着室の中で俺に密着している。
「ご、ごめんなさい……」
「いや、いいよ。悪気はないみたいだし……」
ニコの吐息が当たる。
まずい、これはむらむらする……。
「あの、アルトさん、ボク、アルトさんのこと、好きになりそうです……。こんな気持ちはじめてで……」
率直に言われた。
ここはちゃんと断らないと……。
だが、俺の腿のあたりに何か硬いものが当たる。
ん、なんだ、これ?
「ボク、男なんです」