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14 魔族救出作戦 

 俺はぽかんとした。


「なんで、お前を殺さないといけないんだ?」


 いや、そりゃ、殺し合いになれば、生きるか死ぬかってことになるだろうけど。


 こいつの言ってることは事実上の自殺志願だよな。


「我は軍を勝手に動かした罪で魔族の側から指名手配を受けているのだ……。帰る場所がなくて、それでこの森でじっとしていたのだ……。どこにも行く場がない!」


「戦争と関係ない地域で魔族が出てきたと思ったら、お前の独断だったんだな……」


 それ、重罪になるのもしょうがないと思うぞ。


「犯罪者として殺されるぐらいなら、お前と戦って死んだことにしたほうがまだかっこいい……。さあ、我の首を刎ねて、我の武勇を喧伝するがよい!」


 そのまま首をこっちに突き出してくるミランダ。


「待てよ……俺は別にお前の命なんてほしくないぞ……」


 ぶっちゃけ、無抵抗な人間を殺したいなんて気持ちはない。


「我の気持ちも汲んでくれ! お前の精悍な表情を見ればわかる。さぞ、名のある美丈夫なのだろう。そんな男に殺されたとなれば我の名も広まるはずだ!」


「だから死のうとするなよ!」


 俺は叫ぶ。


「生きてたらいいことあるかもしれないだろ! 生きてる限り再チャレンジのチャンスは来る! 俺なんて死んでからそのチャンスが来たぐらいなんだからな!」


「き、きれいごとだ……」


 ミランダがヤケになったように笑った。


「実際に我には処刑命令が出ておるのだ。許される可能性などない! できることといったら、このまま追手の来なそうなところを探し求めて、あさましく逃げていくことだけだ……」


「じゃあ、俺が一時的にかくまってやる」


 俺はミランダの手をとる。


「えっ……?」


 何が起こったかわからないという顔をしているミランダ。


「俺と一緒にいれば、しばらくは追手からの追及も逃れられるだろ。不幸中の幸いでお前は街の被害になることをまだ何もやってない。受け入れてもらえる可能性はある」


 女の子を守る力はまだない。

 でも、このまま死のうとしている女の子を見捨てる気になんてなれるわけがない。


「そんな、まさか……。街に入っても処刑されて終わりだ……」

「野山を徘徊してもどっちみち野垂れ死ぬだろ! それよりマシだ」


「わ、わかった……我はお前に従おう……」


 ひとまずミランダは折れてはくれた。


「というわけだけど、いいかな、エリザ?」


「いいも何もきっとこうなる運命なんですよ」


 エリザもとくに反対はしなかった。


 俺はミランダの頭に布をかけさせた。ちょっと、ほっかむりみたいだ。

 それで、ひとまず角を隠すのだ。


 これでも街で目を引いちゃうかなと思ったが――


「アルトさん、今日も素敵だわ」

「アルトの奴、毎日かっこよくなってるな」

「アルトお兄ちゃん、こっち向いて!」


「エリザちゃん、かわいすぎる!」

「結婚してくれ!」

「あんなのがいたら、彼がこっちを向いてくれないわ……」


 俺とエリザのことしか街の人は見てないらしく、ミランダはステルス状態だった。


 ひとまず宿にもう一人泊まる客が増えたことを伝えてお金を払った。

 その程度のお金なら問題なく出せる。


 それで、俺の部屋で作戦会議をすることになった。


「やっぱり、目立つのはその角なんだよな」


 ミランダの頭には羊みたいな角が生えている。


「これ我が一族に代々生えている由緒正しきものだ」


 ミランダはこんな時でも得意げになっているが、そんな場合じゃない。


「あの、あなた、さっきから名門っぽさを出そうとしてますが、本当にそうなんですか?」


 エリザが疑わしげに言った。


「なっ、なぜそんなことを言う……?」


 ミランダがちょっと焦る。


「だって、あなたの役職って『第26方面軍副部隊長補佐』でしょ? どう考えても重要な任務の奴がつく仕事じゃないですし、実際、戦争と関係ない地域で武装蜂起したじゃないですか」


「実は……魔族の農民の四女で……働き手として余ったので……軍隊に入った」


「そんなことだろうと思いました」


 エリザがため息をつく。

 こいつの洞察力もなかなかのものだな。


「そういうことは隠さず言ってくださいね。逃げる時の重要な参考になります。そんな微妙な人物なら血眼になって捜すってこともないだろうし、潜伏は可能なんじゃないですかね」


「たしかにショボそうだもんな」


「おい! わざわざショボそうって言うな!」


 本音で話していたら怒られた。


「じゃあ、出自もわかったところで、話を先に進めるぞ。そういう角の生えてる奴で、こういう人間の街で暮らしている奴っているの?」


 ここは大事な点だ。角がイコールで恐ろしい悪魔という認識だったら潜伏難易度が上がる。


「皆無とまでは言えんな。それに、魔族とはまた違うのだが、サテュロスのように角が生えている者もいる。まあ、サテュロスは男しかいないが、その女版にあたるニンフに角が生えている者もいたはずだ」


 それはいいことを聞いた。


 それなら、どうにかできるかもしれないな。


 俺はちょっとだけ安堵の笑みを浮かべた。

 そして、その時、ミランダと目が合った。


 あっ、やべ……。


 ――キュピーンッ!


 ミランダが俺の顔をほうけたように見つめていた。


 これはまたまずいことになったかも……。

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