12 ハーレム無双
「つまりね、また私がお願いするとおりのことを言って、気分を盛り上げてほしいの。あっ、また私の最初の男って設定でお願い」
「また、あれをやるんですか!」
しかも今度は部屋の中とかじゃないぞ。
「大丈夫よ。ここで裸になれとかは言わないから」
「公序良俗に反しないレベルならいいですけど……」
「うん、じゃあ、早速いくわ。『ルーティア、君の力ならあいつらぐらい倒せる』、はい、どうぞ」
「ルーティア、君の力ならあいつらぐらい倒せる……」
「無理よ、私はまだまだ半人前だもの……」
さっき倒せるって言ったじゃん。
あっ、これは演技のほうのセリフなんだな。ややこしいな……。
「『ルーティア、じゃあ、僕が君をやる気にさせてあげるよ』、はい、どうぞ」
「ルーティア、じゃあ、僕が君をやる気にさせてあげるよ……」
「ここで長く熱いキスをする二人、はい」
「えっ、マジですか!?」
「ほら、早くしないと凍らせられちゃうかもしれないわよ」
しょうがない。キスでどうにかなるなら、させてもらおう。
ルーティアと口づけする。
舌が入ってきた。
たしかに、熱いキスだし、あと、長い。
「どんだけ濃厚なのよ! いい加減にしなさいよ!」
ファルシェンナも怒っていた。まあ、見せつけすぎだよなってぐらいには長かった。
ようやく、糸を引いて、キスが終わった。
「うん、すごくよかったわ……」
キスだけでルーティアは頬を上気させていた。
「それはよかったです……」
「じゃあ、あいつらを片づけるわね!」
ルーティアが両手を前に突き出す。
「さあ、魔族の恐ろしさを知るがいい! 全軍進撃!」
一方で敵も攻めこんでくる。
大丈夫なのか?
「【ファイア・ボム】!」
その一言が発せられた途端――
巨大な爆風がほとんどの魔族を吹き飛ばした。
「そりゃ、そうなりますよね。高名な魔導士なんですものね~」
エリザはさもありなんという顔をしていた。
倒れていたミランダという魔族が起き上がった。もう、すでにボロボロみたいだが。
「くそ……こんなに強い奴がいるなんて聞いてないぞ……」
そんなの知らん。
でも、まあ、これで無事に解決しそうだな。
それでも、敵にも意地があるらしかった。
「まだ我は退かぬからな! 【コールド・ブレス】!」
また、息が吐かれた!
しかも俺の方向にブレスが飛んでくる。
げっ! 凍らされる!
けれど――
地面から太い根が一気に生えてくる。
冷気は根にぶつかって、遮断される。
「ったく、危ないわね! 【ウォール・オブ・ルーツ】よ!」
森の精霊ファルシェンナが叫んでいた。
「ありがとう、ファルシェンナ!」
「あなたがだらしないからよ! あなたに体力のボーナスがかかってるのはわかるけど、痛い目に遭うのは、その……見たくないんだから……」
「さて、とどめと行こうかしら」
大魔導士ルーティアはさらに魔法を放つつもりらしい。
その時、ミランダと目が合ってしまった。
――キュピーンッ!
あっ、まただ。
【チャーム】が発動してしまった。
「お、お前、その男の冒険者、名前は何と言う……?」
「いや、俺じゃなくて魔法使った相手に尋ねれば?」
「と、とにかくお前の名前が聞きたいのである! 言え!」
「アルトだけど」
「そ、そうか、アルトか。その名前、覚えておくぞ……。【ワープ・スペル】!」
そして、ミランダは瞬時に姿を消した。
「ああ、瞬間移動の魔法を持ってるのね。それが使える程度には上級の魔族なのかしら」
ルーティアが言った。おそらく、それで合っているのだろう。
ひとまず、無事に魔族の攻撃は撃退できた。
エリザがやってきて、ごにょごにょと耳打ちしてきた。
「アルトさんの本領発揮できましたね?」
「いったい、どこかだ?」
俺、何もできてないと思うけど。
「女性をやる気にさせて戦わせた点ですよ。これぞ最強のヒモ能力ですよ!」
「胸張りづらい能力だ……」
「そこはしょうがないです。容姿・魅力MAXで転生することに同意したのはアルトさんですから。その力を使って最強になるしかないです」
「たしかに、そうかもな……」
最強と呼ばれるような力をどこかで手に入れたりしない限り、この力で戦うしかないのだ。
それじゃ、これからもハーレムで生きていくか。
「あと、魔族の幹部にも目を合わせたのは見事ですよ。これで、あの人も利用できるはずです」
「利用って言い方がアレだけどな……」
「いいえ、アルトさんは女性をデレさせて生きていくしかないんです。これが正しいんですよ」
まあ、俺の宿命みたいなものなんだろうな。
そのあと、俺たちは魔族から街を救った英雄として、領主であるファルト伯爵からやたらと讃えられた。
俺、本当に何もしてないけど。
しかし、翌朝、不自然な情報が頭に流れた。
『女神です! なかなかいろいろなことがあった一日でしたね!
本日の恋人候補! 魔族の26方面軍副部隊長補佐、ミランダ』