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11 あまり偉くない魔族

 奇襲の言葉にミルカ姫も表情を固くした。


「どういうことです? マスタール王国の南部は平和だったはずですよ?」


「どうやら、豊かなこの土地で略奪を目論む突発的な攻撃のようです! 敵の数もあまり多くないのですが……」


 なるほどな、面の支配が目的じゃなくて、敵勢力を荒らしてやろうってことか。


 とはいえ、攻められていることに違いはない。


「ここも戦場にならないとも限りません。一度、屋敷にお戻りください!」


「私は騎士だ。魔族と戦う」


 すぐにマリシャが立ち上がる。


「じゃあ、俺も行くよ」

 ほとんど反射的に俺も立ち上がった。


 そのせいで、背中からひっついていた精霊ファルシェンナがバランス崩してたけど。


「マリシャだけに行かせられない。俺も冒険者だしな」


「アルト……わかった、この街のために力を貸してくれ」


 冒険者の仕事は戦うことだ。マリシャも止めはしなかった。


「アルトさんが行くなら私も行かなきゃですね」


 当然、エリザもついてきてくれる。


 これでほぼ面子は揃ったかなと思ったが、さらに豪華になった。


「せっかくだし、久しぶりに魔法の実践練習でもしようかしら」

「魔族は乱暴だから嫌いなのよ。こらしめてやるわ」


 ルーティアもファルシェンナもやる気らしい。

 これはかなり充実した部隊になりそうだぞ。


 姫を除く俺たちは街の北側に移動した。


 たしかに兵士たちが丘の上で陣取っている。

 おそらく、あれが魔族なんだろうけど、さすがに離れすぎていて、人間との違いはよくわからない。


 というか、そもそも魔族と人間って見た目の区別ってあるのか?

  

「この世界の魔族は上級のものは人に近い容姿のようですね。ただ、頭に角が生えてたりするそうですけど。とはいえ、軍隊蟻みたいなのも、広い意味での魔族に入るようですけど」


「どこで聞いたんだ?」

「さっき、ルーティアから聞きました」


 そういうところの動きってエリザは早いな。


 俺たちのところには冒険者たちが集まっている――はずだったのだけど。


 実質、俺たちぐらいしかいない。

 おかしいな。冒険者ギルドもちゃんとあったはずなのに……。


「こんな平和な街の冒険者など腰抜けだらけだ。魔族が直接やってくれば怖くなって出てこない」


 マリシャがそう説明してくれた。

 この感じだと間違いではないらしいな。


 ゆっくりと魔族たちがこちらに降りてきた。

 数は20人ほど。数人が馬に乗っている。


 その中で前に出てきたのが向こうのトップか。

 なかなか立派な馬に乗っている。

 あと、たしかに羊みたいな角が生えている。


「我は魔族第26方面軍副部隊長補佐のミランダである!」


 トップの女が叫んだ。

 肌は多少浅黒いけど、見た目はとくに人間と違わないな。


「ニンナの街の者たち、おとなしく降伏しろ。そして、高価なものをこちらに渡せ。それは我々魔族の軍資金に変わる。感謝するんだな!」


「つまり、実質的な盗賊団ってことね」


 ルーティアが淡々と説明してくれた。


「長く生きてきたから、こういう盗賊みたいなのも何度か会ったことあるわ。26方面軍副部隊長補佐って、ようは下っ端ってことよ」


「おい! 聞こえてるぞ! 下っ端って言うな!」


 敵のほうが怒っていた。


「だいたい下っ端でなきゃこんなところに突然現れるなんてできないし。街一つ支配するにしても、あの数じゃ無理があるし」


 言われてみればそうだ。


「なんだ、下っ端か。ほっとした」


 マリシャも少し表情がゆるんだ。


「だから、そこもほっとするな! 我に失礼だぞ!」


 また敵が怒っている。


「くそっ! 我を怒らせると怖いぞ! 【コールド・ブレス】!」


 そう言うと、ミランダという女魔族の口から冷気が出る。


 俺たちの前の地面が凍結した。


「はははっ! 次はお前たちの番だからな!」


 さすが魔族だな。あんな芸当ができるのか。

 でも――


「なんだ、やっぱりこんなものか」


 ルーティアはがっかりしたような顔をしている。


「しょうもない奴ね。よくこれで威張れるわね。精霊がわざわざ出てきてやってるっていうのに」


 ファルシェンナも全然なんとも思ってないらしい。


 まあ、いいや。ここは俺が突っ込んで、これまでの集大成を――


「ダメですよ。出ていっちゃ」

 エリザに止められた。


「いや、この局面で戦いに行かないのおかしいだろ。もう、ここまで来ちゃったんだし」

「いえ、この場にいるのはいいんです。でもアルトさんの戦闘スタイルは自分から戦いにいくものじゃないです」


「言ってる意味がよくわからん」

「わかりませんか? アルトさんに必要なのは、強い女性をやる気にさせることなんですよ。アルトさんが前線に出るよりはるかに効果的です」


 なんか、嫌な役回りだな……。


「ねえ、アルト君」

 ぽんぽんとルーティアが俺の肩を叩く。


「私ならあいつらを叩きつぶせるわ。でも、それなりに集中力がいるの」

「たしかに魔法って精神統一が大事そうですものね」


「だから、やる気にならないとダメなの」

「そこはわかります」


「だから手伝って?」


 はい?

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