9 体力チート成功
翌朝、森の精霊はいなくなっていた。
といっても実体を出してないだけで俺たちを見ている可能性はある。
しばらくはこのまま作戦を続ける。
エリザの提案した「そばでいちゃいちゃ」作戦。
精霊の横でいちゃいちゃし続ければ、精霊が耐えられなくなって、動きを見せるということらしい。
そんなに上手くいくのかという気もするが、このエリザ、高名な悪魔だけあって相当賢いはずなので、そこは信じてみることにしよう。
「アルトさん、この泉で水浴びしようと思うんですけど」
たしかに風呂ないもんな。
「あっ、ああ……いいんじゃないかな……。俺はあっち行っとく……」
「何言ってるんですか。一緒に水浴びしましょうよ。ほら、ほかの冒険者なんてこんなところ来ませんし」
俺は動揺した。
「でも、この世界、水着とかないし……」
「いいじゃないですか。裸ぐらい、この世界で何度か見てるでしょ!」
そのまま押し切られて、俺とエリザは水浴びをすることになった。
「うん、ほどよく冷たくて気持ちいいですね!」
エリザが泉の中ではしゃいでいる。
もちろん、裸で。
俺はできるだけ見ないように心がけた。
その、俺も裸なので……下半身の変化が露骨にわかるんだよな……。
エリザは鬱陶しいところもあるのだが、そのプロポーションははっきり言って完璧に近いのだ。
出ているところは出ているし、胸も小さすぎず、大きすぎず。
体の線が最も美しく見えるようなフォルムなのだ。
悪魔にこういうこと言うのもおかしいけど、美の女神と言われても信用しかねない。
はっきり言うけど、悪魔じゃなかったら、絶対に我慢できずにエロいことをしていたと思う。
「あっ、下半身を泉の中に入れている。意味深ですよ!」
「あのさ、お世辞抜きで言うけど、お前、その見た目で国民的美少女コンテストとか出てたらグランプリだったと思うぞ」
「ですよね。私、脱いでもすごいんです」
「すでに全裸じゃねえか」
「まあ、それは理由があるんですよ。私、悪魔ではあるんですけど、もともと豊饒の女神だったんです」
「そうなのか。初耳だ」
「で、古代の豊饒の女神って生殖と強く関係があるわけで、つまり、ストレートに言いますと、男がヤリたいと思うような究極的な体をしてるんですよ」
「本当にストレートだった!」
でも、意味はわかる気がする。
「最大公約数的に男が興奮する体ってことか」
最大公約数という言い方をしたのは性癖はいろいろあって、デブ専とか、ガリガリにやせてないとダメとか、女装した男しか無理だとか、好みが別れるからだ。
「まさにそうです。つまり、アルトさんの女性バージョンですね」
たしかに俺も一番女性受けがいい容姿で転生しているはずなので、設定としては近いのか。
「なので、私とアルトさんがいちゃいちゃするのはまったく問題ないんですよ♪」
俺の横にエリザがやってくる。
とてもその体を凝視できないので、目はそらす。
「ま、まあ……これぐらいなら……」
「これぐらいじゃ、満足できません」
ぎゅっとエリザが抱きついてきた。
胸がどきどきした……。
ダメだ。これじゃ我慢できなくなる……。
ただ、エリザが小声で言った。
「そろそろ効き目があるはずですから、もうちょっとだけ耐えてくださいね」
そうだ、これはあくまで策なんだ。
急に気配が一つ増えて緑色の光を感じた。
「あなたたち、破廉恥にもほどがあるわよ! そういうのはよそでやりなさいよ!」
森の精霊ファルシェンナが肩をいからせてそこに浮いていた。
「なんですか、せっかくいいところだったのに。アルトさんを落とすいい機会だったのに~」
「落とす?」
その言葉が意外だったのか、精霊がきょとんとする。
「そうですよ。私達はまだ恋人にはなれてないんです。だから、こうやってアルトさんを落とそうとしてるんです。私たちはキスもできてませんからね」
これに関しては事実だけどな。
エリザいわく天の岩戸作戦。
悪魔なんだからそんな和風な名前つけるなって思ったが。
こうやって、いちゃいちゃしてれば精霊のほうからしびれを切らせてやってくるという発想だ。
とはいえ、俺もエリザもこんなすぐに出てくると思ってなかったけど。
「そうです。私たち恋人未満なんです。つまり、あなたにもチャンスぐらいあるんですけど、まあ、帰れ帰れって言ってるようじゃ発展性ゼロですね~」
「キ、キスしたらあなたより距離が縮まるってこと……?」
もじもじと精霊が聞いてくる。
ちょんちょんとエリザが俺を小突いた。
ここでかっこいい台詞を言えということだ。
「あの……俺なんかでよければ……。精霊様には釣り合わないかもしれないけど……」
森の精霊ファルシェンナはゆっくりと俺のほうにやってくる。
「に、人間の男なんかに一目惚れしたなんて、何かの間違いだわ……。きっと、あなたのことなんてすぐに忘れるんだから……」
「でも、俺は人間だから精霊の君とキスしたことなんて絶対に忘れないと思う」
実際、ファルシェンナもすごくかわいいからな。
ファルシェンナは、そっと俺のくちびるに自分のくちびるを重ねてきた。
その瞬間、体がふわふわと宙に浮いているような不思議な感じがした。
そして、体がやさしい風に包まれている感覚が残る。
ゆっくりと、ファルシェンナは顔を離した。
「これで森の精霊の加護ができたわ。あなたの体力は森の生命力とつながってる。ちょっとやそっとのダメージじゃ傷つかない」
「あ、ありがとうございます!」
「あなた、体力なさそうだったしね。これで死なれたら気分も悪いじゃない。それだけなんだから!」
もうファルシェンナは体を後ろに向けている。
でも、そこでまた俺のほうに顔だけ向けて――
「また、遊びに来なさいよね!」
そして消えていった。
にんまりとエリザが笑っている。
上手くいきましたねと顔に書いてあった。
「とりあえず、早く服着ようぜ……」
「もっと、裸でいちゃいちゃしたいですね~」
「ダメだ、もう帰るからな!」
そんな姿でいられたら俺の理性がもたなくなる……。
明日は夜一回の更新予定です。




