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死体と死に体のぼく  作者: 秋花
死体と死に体のぼく

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28/29

死体と死に体のぼく

 ぼくは頭上のものを引っ張る。強度は十分だった。


「よかった。まだ残ってた」


 遠見聖子は嫌いだが、残してくれたものに罪はない。あんなことをしてなんだが、彼女に感謝を言っておけばよかったのかもしれない。

 既に、そこに石動はいない。ぼくがいるのは過去に彼女と出会ったあの廃墟であり、あの一室である。

 ぼくは脚立を立たせる。彼女が過去に立ったであろう脚立を上る。

 結局、最後までぼくを愛してくれたのは彼女だけだった。ぼくの居場所を作ってくれたのも、ぼくの在り方を導いてくれたのも、すべて彼女だけだった。なればこそ、この帰結に至ったのは当然のことだ。

 ――彼女と同じ死を選ぶ、それで、ぼくは彼女と永遠にいられる。

 ぼくは縄に首を潜らせて、脚立を蹴った。


 足元に幸慈がいたような気がした。

















































 音がする。落ちる音だ。水滴が落ちる音がどこからか響いている。

 緩慢な動きで目蓋を上げると、最初に白い天井が目に入った。自分がどこにいるのか認識できなかった。視線を右に移すと、そこには愛しい人がいた。呼びかけようとしたが、うまく声がでなかった。喉が痛いのだ。

 彼はふっと顔を上げると、私が目覚めたことに気付いたようで涙ぐんだ。よかった、と私の手を握りこんでいる。どうしたというのだろう。

 彼がナースコールを押すと、それほどの時間も経たずに医者がやってきた。

 私は咳き込みながらも医者に言葉を投げる。


「あ、の」

「あまり喋らないように。あなたは今とても疲労しているんです」

「いえ、ひと、つだけ。しつもん」


 医者は私の状態を見ながら、いいでしょうと頷いた。


「あの、あには――」


 そこから先は咳で途絶えた。こんなときに限って私の体はなんと脆弱なことだろう。

 私は、私の復讐がどうなったのか、それだけでも聞きたいのだ。私の子の敵はどうなったのか。


「あに……?」


 首をひねる医者に対して、彼が「この子の兄の善郎のことかと」と代弁してくれた。医者は納得したようで頷くが、それでもまだ不思議そうに首をひねっている。


「その、兄が何か?」


 私は喉から必死に声を絞り出す。これだけは、私の言葉で聞かなければならない。


「くび、つりをした、はず」


 さあ、言え。死んだと言え。私の復讐を叶えろ。私の悪夢を終わらせろ。

 あの兄を追い詰めるのに、どれほどの時間をかけたのか。どれほどの労力を使ったのか。私は、あの兄が、殺したあの子のために――あれ。

 違和感があった。頭の中のピースが噛み合わない。

 あれ、あれれ?

 脳に酸素がいかない。思考ができない。


 医者が看護師に目を向けると、看護師は首を振って医者の代わりに次の言葉を口にした。


「首吊りをしたのはあなたです、木崎幸慈さん。――あなたの兄の善郎さんは、既に十三年前に交通事故で亡くなっています」

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