勇者を喚んだけど、想像と違いました。
異世界、魔法と剣の世界、救いを求める王様にお姫様、世界を手に入れんと企む魔王。
そこまできたら、勇者だ。世界を救う勇者だ。世界を憂えた女神が、世界を魔王の悪の手から救い、世界に平和をもたらす勇者を召喚する秘技を聖女に授けて、聖女が勇者を召喚する。
そうして、本日ついに、勇者を召喚する儀式が行われた。
神殿の奥のさらに奥、奉ずる女神を祀る祭壇の間。
薄暗い円形の広いその場所の中央で、白く淡く輝く光を放つ大きな円陣があった。その円陣は、蛍のよう点灯する小さな文字がひとつひとつ集まって描かれた魔方陣であった。
円陣から光がゆっくりと立ち上っていく。ひとつ、ひとつ、またひとつと舞い上がり光のダンスを踊る。
その光舞う円陣の中央に、円陣が放つ光より微かに強い光を纏う女性が立っていた。
女性の身に付ける衣服は、女神に仕えるものだけが身に付けることを許された、祭祀用の裾の長い服。衣服の色は、何にも染まらない証の白の色。聖女の証の白の色。
「我は願う。我々は願う」
聖女が歌う。祈りの気持ちと救いを求める願いをのせて、主たる女神より授けられた秘技の呪文を歌う。
円陣から離れた壁際には、歌い祈り願う聖女を見守る集団がいた。勇者を召喚する儀式に立ち会う機会を得た王族や貴族のお偉方や神殿の関係者たちだ。
彼らは皆、聖女の祈る姿に見惚れながら、現れる勇者に想いを馳せていた。聖女が女神より授けられた秘技により、導かれるのはどんな勇者なのか。どんなに強いのか、どんな力を秘めているのか、期待と――成功するのかという不安を抱いて。
「世を平和に導く存在よ、あしき志を折る存在よ」
聖女の目に、救いにすがる涙が溢れ出す。いくつもの滴は、光に反射し水晶のように七色に輝きながら円陣に落ちる。
「我々の願いよ、我々の祈りよ、我々を救いたまう存在をここへ――!!」
その場にいる者が固唾をのんで見守るなか、聖女さまが秘技の呪文の最後の言葉を紡ぎ終えた。
聖女は、強い力の気配を感じた。そちらを反射的に見た。聖女を見守る者たちも、その視線を追う。
――そこで聖女は違和感を覚えた。
あれ、何で目線が。
目線は、目の前だと思ったのに。目線は変わらないと思ったのに。
聖女は涙を拭うことなく宙を仰いだ。力は、上から降りてきている。聖女の目の前に現れるのではなく。
実際、純白の力強く輝く光の――小さな手のひらサイズの球が聖女の視線の先に突如現れ、ふわふわと聖女の手のひらへ向けて降りてきた。
聖女の感じる違和感は強くなった。焦りも感じ始めた。
――そうして、光は次第に晴れていき、喚ばれた勇者が姿を表した。
勇者は、人間だと思っていた。人間が望むのだから、同族の人間だと、皆がそう思い込んでいた。
聖女は手のひらサイズの光の球から現れた勇者を見て、無意識の先入観は恐ろしいと思った。
「にーぃ」
――勇者は、よちよちあるきの子猫だった。まだ目が開いたばかりの、尻尾の先が黒い以外は、見事に真っ白な愛らしい子猫だった。
「にぁー」
勇者の子猫は、茫然自失の聖女の白い指に鼻を擦り付けて甘えるのだった。
「みぅ〜」
そして、三日後。
魔王を倒すために旅立った勇者、聖女、騎士、魔法使いのパーティーは、襲い来る魔王の配下たちに幾度も遭遇した。
しかし、パーティーの出番がないまま――勇者の愛くるしい姿と声を前に、魔王の配下たちは投降することになる。凶悪で最強な魔王の配下たちは、なんと勇者にハートを鷲掴みにされ、めろめろきゅー(死語)に骨抜きにされたのであった。
配下たちを丸め込まれた魔王は、怒りと焦りで勇者の前に直接姿を現し、……聖女の手のひらにちんまりとのる勇者を見て、真ん丸な無垢な目と「にゃあん」というひとなきに一発で白旗を振った。
こうして、捧げられた祈り願った「世を平和に導く存在、あしき志を折る存在」により世界には平和がもたらされたのであった、まる。




