4-1 非常事態には走った方がいい
穏やかな昼下がり。新米魔王の治める魔族の国は今日も平和そのもの――であるはずだった。
いつものように遊びに来たメリエルの相手をしている時のこと。突如、爆音が王城に響き渡った。
反射的に窓の方へと目を向けると、城門の方角から煙が昇っているのが見えた。
城内が慌しくなり、兵士が廊下を走る音が聞こえてくる。
「何がありました? 報告を」
常に魔王の傍に控える宰相テューロが、転がり込むように入室してきた兵士に尋ねる。
「しゅ、襲撃です! 人間が、正面から突っ込んできました……! 人数は――一人」
「なんだって!?」
王位継承以来――それどころか自分が知る限り、人間が単独で魔王城に乗り込んでくるなどという無茶な事件は初めてだった。
驚いて立ち上がるが、爆音に驚いたメリエルが服の裾にしがみついていることに気が付かなかったため、少しつんのめってしまった。
「相手は一人ながら、苦戦を強いられています……現在は城門で食い止めていますが――どうなさいますか?!」
「念のため裏門の警備を強化。正面には水銀の第一・第二部隊を回してください。私もそちらへ向かいます」
息を切らす兵士とは対照的に落ち着いた様子で指示を伝えると、テューロは兵士と共にこの場を立ち去ろうとした。
「待て、俺も行く!」
非常事態だ。黙って待って見過ごすことは出来ない。
「陛下を危険に晒すわけには参りません。自慰でもなさって待っていてください」
「非常事態に誰がそんなことするか!!」
ツッコミの言葉も聞かず、テューロは走り去ってしまった。
「ああ、もう……!」
ガシガシと頭を掻き毟ると、しゃがんでメリエルの手を握った。
「まおーさん……」
不安そうに、こちらを見上げてくる。
「大丈夫、何も怖いことはないから。すぐに終わらせてくるから」
裾を掴む手をそっと解くと、城門へと走った。




