プロローグ
略奪の魔王が若き王へと玉座を譲ったその日、先詠みの魔女によりひとつの予言が下された。
『聖女と崇められし少女は神の子を孕む。神の加護を受けし聖女の第一子により、黒き魔王は滅ぼされるだろう』
「なんと不吉な……」
「魔王即位のこのよき日に……先詠みめ、何を考えておるのだ!」
「しかし彼女の予言をないがしろにする訳にもいかぬでしょう」
「策を講じねばならんな」
「だから私はあの者を王にするなどということには反対だったのだ!」
「どうしたものか」
「どうしたものか」
「よろしいでしょうか?」
混乱する円卓会議の中、ひとり落ち着いた様子の男が発言を求めた。
「幸い、その聖女とやらが子を身篭るまで時はある……対処の方法はいくらでも考えられましょう」
発言をしたのは空色の髪と瞳の優男。円卓を囲む者たちの中では際立って若く見えるが、先代魔王の懐刀と呼ばれていた知恵者である。
「要は我らが王を滅ぼさんとする子供を産ませなければよいのです。早々に聖女を亡き者とするか、あるいは……そう、聖女に魔王の子を産ませるというのはいかがですか?」
「神の花嫁を魔王の精で穢すと? なんという冒涜! それは良い!」
「神の子が魔王の子へと転じるのか、面白い!」
「ならば聖女を王の下へと引き摺り出すのだ!」
「捕らえろ!」
「捕らえろ!」
「予言の聖女を捕らえるのだ!」