それは銭湯だった
俺とあいつが初めて会った場所、そして俺たちの計画のはじまりの場所。
今でも覚えている。忘れはしない、忘れられない。
とても綺麗な夕焼けの日、あいつはそこにいた。
そう、ただ生きてるだけの退屈な日々の中、俺の数少ない楽しみである人間観察の場。
そう、銭湯(女湯)の内部を一望することができる天窓がある屋根の上に、双眼鏡を持ったそいつはいた。
俺よりも先に出待ちしてるとはこいつなかなかのもんだな。しかも中の客にバレないように距離をあけて双眼鏡を使っている。素人じゃないな…。
そいつは天窓から15mくらい離れたところでスタンバッていた。しかし、俺は堂々とその間に割って入って天窓のすぐ近くにスタンバイした。
普通なら中の客にすぐバレる、だが俺は普通の人間には見えない。俺は人間じゃないからだ。だから俺よりも先に来てたそいつにも、俺の姿は見えないだろう。
「おい。」
ん?さっきの奴か、電話で誰かと話しでもしているんだろう。
「おいって。」
うるさいなぁ。
「お前に話しかけてんだよ、そこの二着。」
……こいつ今なんて言った?
振り返ると、そいつは俺の目を直に捉え、まっすぐと俺に向かって立っていた。
「だーかーらー!!お前に話しかけてんだよ!!無視すんなバーカ!!」
"見えないハズ"の俺は、何十年ぶりだっただろう、人間だったそいつに話しかけられた。