<明日の、またね。>
ちょっと、上げてみる。
「うん、ありがとう。私は大丈夫。」
「………そっか。」
冬の一日。
僕と彼女が分かたれた日。
「じゃぁ、またね。」
「うん。また。」
私立病院の一角。個人病室。
それぞれの単語が、僕を締め付ける。病室の色。言葉を紡ぐ、愛しい彼女の青ざめた唇。
「ちょっと、家族と話すから。」
かける言葉は無く、かけられる言葉もなく………
「………じゃぁ、ね。」
「うん、また明日。」
………彼女と交わした最後の会話。
また明日。その約束は果たされることなく
彼女は、この世を去った。
………。
朝。
「ねぇ、起きてよー。朝だよー。」
間延びした声色で、切羽詰まった言葉が投げかけられる。
あぁ、また夢を見たのか。
どうしても忘れられない夢。忘れたい夢。
その夢に足を掴まれたような、重い足取りでベッドから体を起こす。
「おはよう。」
半分寝ている眼で、母に声をかけた。
「あー、やっと起きたー。」
「朝飯は?」
「冷蔵庫に入れてあるから、チンして食べて。」
「了解。んじゃ、いってらっしゃい。」
「はーい。いってらっしゃい。」
病院勤務の母を見送る玄関先。登校まで、まだ余裕がある。
さぁ、朝ごはんだ。
もそもそと、用意された朝食を口へと運ぶ。
少しベチャついている、いつもの朝食。
これが我が家の味。いつもの朝食。
………僕には、彼女が居た。
五年間の関係。
最初の一年は知り合いとして、二と三年は友達として。
最後の二年は、最愛の人だった。
久々に見た彼女の夢は僕の心に、温かさと寂しさを運んできた。
「じゃぁ、行こっか。」
制服の内ポケットの写真に、声をかける。
女々しいといわれても、仕方ない。けど、止める気は全くない僕の習慣。
今日も朝日が眩しい。さぁ、『僕の一日』を始めよう。