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ワイヤーカッターの功徳

(その父親は、まだぶつぶつと独り言を言いながら、人混みの中を歩いている。彼の数歩後ろでは、彼の二人の息子が、表情なく、ただぼんやりと様子を眺めている。)

父親のくぐもった声が、ごった返す雑踏の中で途切れ途切れに響いた。

「…外国の人間など! 忌々しい! 神聖な試練を…私がこの地を清めねばならぬ!」

その時、一人の小柄な男が、父親の背後をすれ違いざまに、素早く彼の懐から財布を抜き取った。

「いただきっと…今日の獲物は、ちょっと古風なデザインで悪趣味だな」と、男は誰にも聞こえない小声で呟いた。

父親は数歩歩き、ようやくポケットの違和感に気づくと、慌ててそれを叩いた。

「…な、ない! 銭入れが! あ、ああああ! 仏様への奉納金が!」

財布を抜き取った男は、もう人混みに紛れようとしている。父親は逆上した顔で追いかけようとするが、日頃の運動不足で足がもつれた。

「待て! 泥棒め! 仏罰が当たるぞ!」

「また仏か。あの人が、今すぐ必要なのは『仏罰』より『実用的な助け』だぞ、エルナ」と、クルトは顔をしかめた。

エルナは冷めた目でその父親を見据え、「お父さん。信仰心だけじゃ、あの男は捕まえられないわ」と応じた。

クルトは持っていた工具袋から、ワイヤーカッターを取り出した。一瞬の動作で、逃走ルートの近くにあった金属製の屋台の脚に、カッターの柄の部分を投げるように引っ掛けた。工具袋の丈夫なストラップが、逃げる男の足元に低く張った。

「うおっ!」

張られたストラップに足を取られた男は、派手に転倒した。財布は宙を舞い、父親の足元に落ちる。

「あ、私の奉納金!」父親は急いで財布を拾い上げた。転倒した男を見て、勝利の雄叫びを上げそうになったが、クルトの工具が目に入り、動きを止めた。

二人の息子は、この一連の出来事を、まばたきもせずにぼーっと眺めている。

「なんだ、こいつ…特殊部隊か何かか!?」と、痛みに顔を歪めながら、男は地面に座り込んだまま尋ねた。

クルトは近づき、淡々とワイヤーカッターを回収しながら言った。「特殊部隊ではない。ただのメカニックだ。そして、これは工具だ。盗まれたものを回収するのに、火を噴く『仏の怒り』は必要ない」

父親はクルトとワイヤーカッターを交互に見つめ、混乱の極致に達していた。「こ、この…鉄の偶像が…私を…助けた…だと?」

エルナは無表情に続けた。「おじさん。正確に組まれたものは、盗人の足首を引っ掛けるにも、簡単には壊れないのよ。それが『仕組み』の利点。あなたの『仏様』は、泥棒の足元を狙ってくれるほど親切かしら?」

「だ、黙れ! これは仏の試練だ! 仏様が、この異教の道具を使って、私の試練をより複雑にしたに違いない! そうだ! これは罠だ!」父親はワナワナと震え、クルトの工具袋を指差した。

「…そうか。罠か」クルトはワイヤーカッターを工具袋に戻し、ファスナーを閉めた。その声は冷静だった。「では、この罠にかかった男はどうする? あなたの『仏様』は、彼にどんな仏罰を下すか、具体的に教えてくれるか?」

転倒した男を見た父親は、ふと思いついたように声を上げた。「これは仏罰だ!」

「なんで俺が仏罰なんだよ! ただの泥棒だっつーの! 工具でやられただけだ!」男はまだ地面に座り込んだまま叫んだ。

エルナは淡々と事実を告げた。「おじさん。その鉄の工具を投げて、正確に彼の足元に張ったのはクルトよ。彼は仏様じゃない」

「…くっ…ぐぬぬぬ…!」父親は言葉に詰まり、顔を真っ赤にした。彼の世界観が、現実に、しかも鋼鉄製の実用的な道具によって、少しずつ崩されていた。

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