ペットと呼ぶのは少し怖い
「やっぱりペットと言えば犬だよな」
「いやいや、猫こそペットの王様だよ。私は猫に貢ぐために働いてると言っても過言じゃないね」
「鳥もかわいいぞ」
「話題にされることは少ないけど金魚とかもいいもんだよ」
居酒屋で、どのペットが一番良いかを話しているグループがあった。各々が自分のペットが一番だと盛り上がっている中で一人だけ黙って聞いている陰気な青年がいた。誰かがこの青年に尋ねる。
「君はなにかペットを飼わないのかい?」
「いや、実は僕も一つ飼っているんだ」
その言葉に皆が盛り上がる。君が飼ってるなんて知らなかった、一体どんなペットなんだい? 質問に青年は曖昧な笑みを浮かべると、餌も世話も必要ないけど、構わないと拗ねちゃうペットだよとだけ答える。
そんなペットがいるはずもない、どうせ嘘をついているんだろう、いや実はバーチャルペットということだろう、各々が好き勝手に予想するが、青年は曖昧な笑みでそれ以上答えようとしなかった。
家に帰る道すがらに青年はうっかり口を滑らせたことを後悔していた。
ペットを見せろと言われなくて良かった。人によっては気味悪がられるなんてものじゃない。いや、そもそもペットなんて言ったことがバレたらなにが起こるか……。
「あ、おかえり〜」
家に帰ると彼女が振り返る。地縛霊として青年と同居しているこの女性を、酒の席とはいえ「ペット」と呼んでしまったことをバレないようにしなければと青年は気を引き締めた。