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婚約破棄の鐘が鳴ったら、幼なじみの魔剣士が壇上で求婚してきた件について

作者: fulhause

――王城・大広間。

真冬の空気を閉じ込めたような静寂の中、王太子アルヴィンが声高に宣言した。


「公爵令嬢エステル=ヴァルロードとの婚約を、ここに破棄する!」


貴族たちの嘲笑が一斉に花開く。私は胸の奥で深呼吸し、平然と黒漆のフォルダを掲げた。


「畏まりました。では破棄証書はこちらに――ご署名を」


私の手元で銀のペンが震える。王太子は戸惑いのままペンを取ったが、その刹那――


  ギイイィン、と大扉が悲鳴を上げて開く。


「待て」


黒髪の青年がマントを翻し、宝珠を埋め込んだ漆黒の大剣を背負って進み出た。

ユリウス・アーデルハイト。幼なじみで、七ヶ国に名を轟かす魔剣士。

彼は玉座前で片膝を付き、声を張った。


「エステル=ヴァルロード公爵令嬢――俺と結婚してくれ」


ざわめきが爆発する。王太子は蒼白になり机を叩いた。


「身の程を弁えよ、平民上がりが! ここは王家の――」


「“元”婚約者殿。あなたが破棄を宣言した以上、彼女は自由だ」


ユリウスの声は静かに、だが鋼より硬い。

私は一瞬だけ躊躇し、しかし掌を伸ばした。

――温かい。震えは、彼の体温で鎮まる。



執事ヴォルフが魔晶石を掲げた。宙に映し出される深夜の温室。

王太子と令嬢セシリアが交わす不貞と謀略の会話。


「侍女には賄賂を」「あの女を断罪の舞台へ」


映像が終わると、しばし沈黙。次いで怒号。

国王の判決が響く。


「アルヴィン=ルクレールを王位継承権剥奪! セシリア=クラウスは国外追放!」


衛兵に引きずられる王太子は、なおも私を睨みつけた。

けれど私の隣でユリウスが剣を鞘に納める。その音が、全ての終わりと始まりを告げた。



夜、回廊――月光がステンドグラスを溶かし七色の影を落とす。

私は彼に問いかける。


「どうして……あの場で求婚を?」


「君がここで独りで戦い抜く姿を想像したら、耐えられなかった」

ユリウスは指先で私の涙を拭い、囁く。

「次は隣で笑おう。二人で世界を相手にしよう」


言葉より早く、唇が重なった。

冷たい夜気の中、ただ一つ、私たちだけが燃えていた。



――後日談。

元王太子は辺境修道院へ追放され、セシリアは隣国で詐欺容疑のまま投獄。

王都の酒場では《魔剣士と公爵令嬢の逆転婚約譚》が一夜で流行歌になり、

私は今日もユリウスと並び立つ。剣と理と――自由を掲げて。

「――この自由、誰にも奪わせはしないわ。」

「高橋クリスのFA_RADIO:工場自動化ポッドキャスト」というラジオ番組をやっています。

https://open.spotify.com/show/6lsWTSSeaOJCGriCS9O8O4

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