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撲滅!! 贋物世界

〈晩春を印象づけるゼラチン狀蛙の卵淸水に露は 平手みき〉



【ⅰ】


 人間界に復帰して早速「シュー・シャイン」は行動を起こした。魔界に行つて、ポスト「傍観者null」の「彼ら」の様子を探つたのである。


 どうやら、新世界秩序・笑、は、合議制で保たれてゐるやうだつた。


 「地獄=冥府は、死者各人が心に持つものだ」「魔界は、嚴然と存在してゐる。そこが違ふ」これは、偽ケルベロス騒ぎの時に、カンテラが殘した言葉。而して、魔界は、だうやら冥府コピーの方向に向かはうとしてゐるらしい。


 三途の河・ステュクスを眞似た堀を穿ち、また、渡し守カローンにそつくりな、ロボ・カローンとでも云ふべきロボットが、その堀の(ほとり)には佇んでゐた。


 人眞似は英雄的リーダーの許では、滅多にお目にかゝれない。雑魚同士仲良く、このコピー路線を進めたものか。また、その理由として、秩序だつた運営を魔界に齎さうとしてゐた譯だが、これも英雄的存在の許では不要とされる「条件」である。



【ⅱ】


 カンテラ「ふうん。よくハーデースが黙つてゐないね」‐「シュー・シャイン」は前回お傳へした經緯もあり、人間界・魔界と共に、(ヘルメース神の計らひから)冥府へも自由に出入り出來る身となつてゐた。シュ「ところが、やはり、ハーデースはお怒りの模様」カン「さうだよなあ、著作権て物があるやうに、オリジナルとコピーにはやつぱり確執があるのが当然」


 シュ「それで、ハーデースから折り入つてご相談を、と、カンテラ様に傳言がありました」カンテラ「ほお、冥府の王から、ご相談、と來たもんだ。俺も出世したな」シュ「日取りを、セッティングしてくれ、と、私頼まれまして」カン「いつでもОKだ。ハーデースには一度會つてみたかつた」



【ⅲ】


 冥府には、魔界と違つて、わざわざ「思念上」のトンネルなど掘らなくても、まあ、死者を受け入れる為にか、出入り口がちやんと人間界に通じてゐる。たゞ、その入り口は、普段は隠されてゐる。カンテラ一味は、そこから入れ、とハーデース直々にお達しがあつた。


 じろさん「冥府、あの世かあ。生きてその世界を拝めるとは思はなかつたなあ」カンテラ「まあこれも魔界のリーダー不在が招いた現象。奴らの間拔けぶりに感謝しないと」



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈轉生は春ジョン・バーリーコーン哉 涙次〉



【ⅳ】


 ハーデースはまたの名をプルートーとも云ふ。これは「富める者」の意。彼は地下鉱脈の在り処(ありど)を詳しく知つてゐる。流石に冥界の王である。


 そして、カンテラ一味謁見の際、「もしうぬらが魔界で我らのコピーしてゐる部分を破壊したなら、その鉱脈、隠された金脈の在りかを教えやうぞ」と云ひはなつた。


 さて、如何にして魔界に行く、か。「思念上」のトンネルだと、また埋め立てたり、色々煩雑だ。カンテラ、テオがまだ怪盗もぐら國王の賞金首を狙つてゐた頃、安保さんに開發して貰つた、「ジェット・モグラ」に目をつけた。これ、(プラス)「シュー・シャイン」の先導さへあれば、魔界に到達する事など、容易なのではないか... 飽くまで假定の話だが。

「ジェット・モグラ」はきつと埃を被つて、出番を待つてゐるに違ひない。


 カン「よござんす。こゝは大王様のご下命の通り、魔界を無茶苦茶に破壊して進ぜやう」



【ⅴ】


「シュー・シャイン」を(テオは大のごきぶり嫌ひなのだが)首筋に乘つけて、テオの「ジェット・モグラ」は地下を突き進む。やがて、だうやら、「シュー・シャイン」のナヴィゲイトのお蔭あり、魔界の一丁目が見えてきた。


 まづ、じろさん(後を着けてきたのである)が、ロボ・カローンを破壊し、三途の川を模した堀の渡し守の坐を、まんまと頂いた。それで、カンテラ、ずかずか魔界の奥まで侵入し、蘇生してゐた偽ケルベロスを始めとして、冥界のコピーと思はれる部分を斬り、ぶつ壊して回つた...「しええええええいつ!!」


 ことの他、ハーデースはご滿悦である。「やうやつた。褒美は、金の延べ棒、金鉱の在りか、どちらをうぬらは所望する?」金脈、と云ふ言葉が、カンテラの咽喉元までこみ上げてきたが、やはり、こゝは「男のロマン」を捨てゝ、金のインゴットを頂戴致します、とカンテラは云つたのだつた。



【ⅵ】


 この(ヤマ)は二つの物を、利器としてカンテラ一味に齎した。それは、魔界への入り口など、簡單に通じさせる事が出來ると云ふ事實、それから、ハーデースの知遇、の二つ。


「いや、金鉱脈の誘ひにはぐらついたが... 現金主義は貫き通さないと」とカンテラ。じろさん、「幾ら相当なんだい? やけに重かつたが」そのインゴットの量は、カンテラとじろさん、手分けして運んでも、ずつしり手應へがあつた。


「な、な、何と!! 三千萬(圓)分だよ」「はあ、大王さまさまだなあ」



【ⅶ】


 そんな結末。いやこれは「始まり」やも知れぬ。ハーデースと築く、新時代のカンテラ一味つてのも、惡かないな。カンテラ、彼には珍しく、ひとゝきの淡い夢に浸つてゐた。その夢さへ、カネづくだと云ふ事は、暫し忘れて-



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈麦零る狐の尾には春の暮れ 涙次〉



 お仕舞ひ。

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