変遷
・飛鷹という人間について(道楽:放浪にて)
「きっと彼は世界に殺されてしまう。」
「無常であるよ、世界なんかは彼の憂鬱を取り払ってくれなかったから。」
なんてことない、ただの同居人で、思いつきでどこかにふらふらと遊びに出かける気の置けない友人で、きっと彼にとって珍しい人間ではあった。
僕たち二人して余裕ある暮らしなんか夢見ていなくて、後がなくても嗚呼そうだ、明日はあの川へ行こうきっと涼しいよ、だなんて夜中にふと思ったりする。
いつも切羽詰まってなんとかギリギリのところでその日暮らしをして笑っているような、そんなどうしようもない僕らだから気が合ったのだろう。
悪く言ってしまえば、向上心のカケラもない自堕落な奴らだといくらでも罵れる。然し僕はどうしてもこの情けなくて仕方がなくて自由なここをとても気に入っていた。
窓際で蚊取り線香火を灯す辻君に声をける。気怠そうだ。
「初夏は憂鬱かい。」
「そうかもしれない。初夏だなんて響きは美しいくせ美しいふりをしただけのただの暑さだ。蒸し暑いったらありゃしない。私の眠りはこのどうしようもない初夏とか言う奴に邪魔されるのだ。」
夏の始まりのまだじめッとした空気に慣れない奴は心底不機嫌ですといった声を隠さず好きなだけ愚痴っている。
「君はいつみても涼しげな顔をしている。憎たらしいよ本当。」
「僕は寒い方が苦手だからさ。夏はこんなにも開放的だ、嫌う事なんてないよ。」
「夏は良いさ、私も思うのだが、然し世界はあまり私に優しくはないのだよ。」
ほうら、一度始まると彼の口は長いのだ。文句を言いながら奴はオンボロ扇風機を独り占めしその少し伸びた髪を乾かしていた。
「そいつはこの夏越せないかもな。それにしても君、君が今一番できる暑さ対策の最適解は髪を切ることだろう。」
二年前近所の中古屋の隅で半額になっていたセピアに色褪せたオンボロ扇風機。この今にも止まってしまいそうなボロ具合で不安な扇風機でも蒸し暑い夜にはないよりマシなのだ。
「髪なんかを整えるのに使っていられる金があるか。こんなもの結って仕舞えばなにも変わらない。それならば理髪店へ行く金で何か食った方がいい、きっと有意義だ。」
「君らしいよ。」
なんだかんだ僕も君の言うことには納得できてしまうのだから仕方ない。




