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釈放

 霊視の前の段階で、芦田(あしだ)真奈美(まなみ)殺人事件の容疑者は釈放となった。

 丸山が容疑者の身元引き受け人になったからだ。

 堂島は笑顔で言った。

「まさか梁巣(はりす)さんが容疑者だったとは」

 梁巣(はりす)は『カオナシ男の連続殺人事件』があった際、堂島や丸山が知り合った『霊能力者』であり『拳法家』だった。

 梁巣は今日もトレードマークの黄色い生地に黒いラインの入ったジャージ上下を着ていた。

 そして五キロの米袋を抱きしめ、手にはカセットコンロの燃料を持っている。

「俺はただの第一発見者なのに……」

「さっき話を聞いた限りだと『なんとなく車』を止めたら倒れている人を発見した、とか、仕事もしてないで『拳法の修行をしている』とか、土地を借りて『テント生活』しているとか、そういう状況らしいじゃない。そりゃ、こんな田舎で、こんなことしてたら、怪しまれるに決まってるわ」

 その言葉は、堂島の胸にもグサグサと刺さった。

「働いていないという点は僕も一緒ですから、梁巣さんを責めないでください」

「そもそも、俺が車を止めざるを得なかった状況が、すごく怪しいんだ」

「どういうことです?」

 梁巣は思い出しながら、顛末を語り始めた。

 彼は拳法修行の為、テントを張って生活できる土地が借りれるこの場所にやって来ていた。

 テント生活を始めた梁巣は、さらに生活を続けるためにいくつか必要なものがあった。

 煮炊きをするカセットコンロ用のガスや、米などをまとめて買いたかったのだ。

 しかし、一番近所のシメリ・ホームセンターまでは遠く、いつも通っている商店では売っていない。

 そこで、借りている土地のオーナーと話して、車を借りる話をつけたそうだ。

 丸山が軽く突っ込んだ。

「レンタカー借りればいいじゃん」

「レンタカー屋まで歩けたら、シメリまで行けてしまう」

 無事、彼は車を借り、シメリ・ホームセンターで買い物を済ませた帰り道だった。

 晴天の一本道、前方にも後方にも車がいない。

 対向車すら来ない状況。

 走っていると、突然フロントグラスに黒い墨のようなものが広がった。

 前が見えない。

『危ない!』

 梁巣は車内で叫んだ。

 前方が見えないことに加え、隙間から女性の姿が見えたのだ。

「慌ててブレーキを踏んだんだ。だが、どこを探しても女性はいなかった」

 堂島が言った。

「いや、いたんでしょ? 畑の方に」

「なぜ堂島がそれを?」

「梁巣くんが第一発見者だって警察が言ってたからよ」

 梁巣は話を続けた。

 畑に女性が倒れていることに気づき、その女性に駆け寄る。

 刺さっている刃物を抜き取り、持っていたタオルで止血を行う。

 スマフォを取り出して救急車を呼ぼうとした時だった。

「まるで俺が駆け寄るのを見て集まってきたかのように、パトカーがやってきた」

「……」

「俺はいきなり拘束された。車に墨を撒かれたことも説明した」

 梁巣は目を閉じて腕を組んだ。

 堂島は何かを感じ、そのまま口にした。

「警察が見た時、車に墨が残ってなかった」

「だから、なぜわかる」

 丸山が口を挟む。

「彼の能力(ちから)は霊視なんだから」

「そうだ。警察はまるで俺を捕まえるために待ち構えていたかのようだった。刃物はシメリで売っているものだ、とか。止めたばかりの車なのに、警察は『この車体は冷え切っている』から、停車してしばらく経っているとか、言われた」

 堂島は車側にも、何か霊的な仕掛けがあったのではないかと考えた。

「倒れている被害者を助けようとしただけなのに、被害者に着衣の乱れがあったせいで『行為に及ぼうとして抵抗したから』殺したとまで言われた」

「それはテント生活で仕事もしてない、とか言ってから言われたんでしょ?」

 あまりにもズバリ言い当てられ、梁巣は驚いた。

「えっ? 丸山さんも霊視できるの?」

「そんなの、カンでわかるわよ」

「梁巣さん、その車ってどこにありますか?」

 首を傾げる。

「知らないけど、車のオーナーに返されただろうな」

「じゃあ、車のオーナーってのは?」

「土地を貸してくれた人に聞かないとわからないよ」

 堂島はため息をついた。

「今、役に立たないな、って思ったろ!」

「いいえ、もっと以前から思ってましたから、今じゃないです」

「くそったれ、同じだよ」

 丸山は笑った。

「さあ、車に乗って。今日の宿にいきましょう」

 三人は警察署に停めていた丸山の車に乗り込んだ。

「俺もそこに泊めてくれんのか?」

「お金がないからそれはダメね」

「黙ってりゃわからないだろ」

 堂島は言う。

「確か民泊なんですよ」

「えっ? そこって、俺がテント張っている横のアパートじゃねぇのか?」

 丸山が借りた民泊まで車を走らせた。

 目的地が近づいてくると、梁巣が騒ぐ。

「やっぱりそうだ。ほら、あれが俺のテント」

 堂島が言われた方に目を向けると、黄色いテントが張ってあった。

「アパートの所有者と梁巣さんが借りている土地のオーナーは一緒ですか?」

「そう言ってた」

 車をアパートの駐車場に停め、丸山はオーナーに鍵を借りに行った。

 丸山が鍵を借りてくるまで部屋に入れない堂島は、梁巣のテントにカセットコンロを運ぶのを手伝った。




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