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意外な容疑者

 これまでの経験上、霊などを信じない人間に、堂島の能力を説明することは難しかった。

 なので丸山は、予め警視庁の北上に連絡をとって、市の警察署の中で堂島の担当になってもらえそうな人間を当てがってもらうことにした。

『そんなにすぐに担当をつけてくれるとは思わないが、それでもいいのか?』

 丸山はそれでも話を通していないよりはマシだと思い、お願いした。

『わかった、すぐに連絡しておく』

 観光牧場を出発すると、車は市の警察署に向かった。

 警察署に入り、丸山が名乗るといきなり奥へと通された。

 簡単な応接室で待っていると、制服を着た女性の警官がやってきた。

 小柄で、警察官だからなのか、ほぼメイクはなくスッピンだった。

「担当させていただく馬場(ばば)です」

 丸山は会釈をすると、すぐに尋ねた。

「北上さんから話を聞いていますか?」

「私も北上さんは存じ上げていますが、今回は部長から指示を受けてます」

 馬場は、手帳を取り出すとメモを見た。

「先日の畑で施設職員が殺されていた事件について、お二人に協力しろと言われています」

「彼が霊視できることは?」

「聞いています」

 丸山は堂島の方を向いて、頷いた。

「今、容疑者はいますか?」

「詳細は捜査上の秘密ですが、容疑者は第一発見者で、現在、署内に留置して事情を聞いています」

 ここまですらすら話してくれると助かる、と堂島は思った。

「その容疑者は、三日ほど前、シメリというホームセンターで、刃物を買っていますよね」

「そう言った話は明らかになっていません。その情報は霊視で得たものですか?」

「ええ。今からシメリに行って、監視カメラの映像を確認できませんか?」

 馬場の目の色が変わった。

 霊視を信じるか信じないかは別として、真犯人に近づければ、彼女の手柄になるのだ。

「わかりました」

 馬場が運転するミニパトに、丸山と堂島が乗って、再びシメリ・ホームセンターに戻ってきた。

 馬場が店員に監視カメラ映像の確認を申し出ると、責任者が出てきてバックヤードに通してもらった。

 簡単に操作方法を聞くと、三人は過去の映像を確認し始めた。

 売り場に残っていた霊気は回収されてしまったようだが、堂島には、録画された映像から霊視することができる。いや、出来ると信じていた。

 レジの映像を見ていると、長い髪を顔に垂らしている男が、かごに刃物だけ入れて会計をしているところが映し出された。

「これだ」

 店員に確認し、同時刻の売り上げを確認する。

 刃物の商品コードが分かり、形を見ると犯行に使われた凶器と一致した。

 馬場は店側に該当の映像をダビング提出を要求するとともに、その男の後の行動を別のカメラ映像で追う。

 前髪のせいで顔がはっきりと確認出来ないが、車に乗り込むところが見えれば、今度は、駐車場システムが捉えている車のナンバーを使えば、警察で所有者を照会できるという。

 堂島は車で来なかったらどうするのだろう、と不思議に思った。

「もし歩いて店にきたら?」

「歩いて来れる距離に住んでいるなら、それはそれで、すぐ人物を特定できます。なにぶん田舎なんで……」

 あっという間に車種、ナンバーを特定すると、馬場はメモを取った。

「こちらもわせてコピー提出を要請します」

 店員はすぐさまUSBメモリにコピーをすると、馬場に渡した。

 馬場は興奮気味に署に電話すると、車のナンバーを伝え、所有者を特定する。

 オーナーは和田(わだ)研二(けんじ)だったが、監視カメラ映像からするともっと若い。当時、刃物を買ったのは、おそらく息子の康二(こうじ)だと推定された。

 和田康二には窃盗の犯罪歴があり、その時の調書の記載を見ると、殺された芦田(あしだ)真奈美(まなみ)が勤めている障がい者施設に、入所していた経歴があった。

 職員と施設利用者という関係だが、被害者と接点がある。

 馬場は、今の容疑者が第一発見者であること以外、被害者との繋がりが全く出てこないことを知っていた。そのため、この和田が犯人であるに違いないと考えた。

「あの、これだけ揃えば、逮捕令状取れませんか?」

『いや、まだ無理だ』

 馬場を堂島たちの担当に据えた部長はそう答えた。

「とりあえず、行動を監視するというのは?」

『構わんが、気づかれないようにな』

 馬場は電話を切ると、丸山に言った。

「車、借りれる?」

「使用料が頂けるなら」

 馬場は黙り込んで考えているようだった。

「少なくともガス代は出るわ。謝礼は犯人逮捕の協力の時でよければ」

 丸山はニッコリ笑った。

「満タン返しならいいですよ」

 三人は一度署に戻った。

 馬場は私服に着替えて出てきた。

「この車、私が運転しても保険は大丈夫よね?」

 丸山は頷く。

「取材用ですから」

 堂島は訊ねる。

「どういうことですか? 丸山さんの車を使って犯人を見張るってこと?」

「そう思ってたけど」

「僕たちは、別の人間を見張らないと行けないんです」

 丸山は思い出したように言った。

「やっぱりダメです」

「何それ」

「山の中腹にある障がい者施設、あそこに危険な人物がいて」

 馬場はピンと来たようだった。

黒坪(くろつぼ)のことね」

「そうです。霊視した限り、かなり危険な状態です」

 馬場は諦めた感じで、ため息をついた。

「じゃあ、何、この殺人のことを言いに来たのは?」

「シメリ・ホームセンターで霊視した結果を、警察に伝えたかったんです。もし警察が真犯人に近づいていないんだったら、と思って」

「……なら、さ。今の容疑者を霊視して犯人かどうか、わかる?」

「見てみないとなんとも言えませんが、やったかやってないかは、わかると思います」

「面通しの準備する」

 そう言うと、馬場は署の奥に消えていった。

 通常は、目撃者が犯人を確認することを『面通し』というが、今回においては容疑者を『霊視』することだった。

 馬場が戻ってくると、二人は『面通し』する為の部屋に入れられた。

 二人が、待っていると、一人の男が部屋に入ってくる。

『あっ!』

 堂島と丸山は同時に声を上げた。

 入ってきたのは二人が共通の知人であった。




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