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中里のスマフォ

 除霊。

 堂島が初めて行った除霊は、乱暴過ぎた。

 肉体を掴むようにして、引き剥がす。

 皮や肉に、爪が食い込むほど強く。

 湖浜は、繋がっていた霊が強制的に抜けた為、失神していた。

 北上が問う。

「藤井さん、今のは……」

「彼なりの『除霊』です」

 梁巣は堂島を見たまま、言った。

「今のが『除霊』だって?」

「肉体から霊が剥がれれば、結果として『除霊』ですわ」

「どうやって霊を掴んだんだ?」

 藤井は肩を抑え、震えている。

「それは本人に聞いてみてください」

 言われた通り、梁巣は近づいていく。

「どうやって霊を引き剥がした」

「見えたんです。引っ張ってくれと言っている霊が」

「いや、どうやって引き剥がしたか、と。霊を『物理的に』触るなんて」

 堂島は首を横にふる。

「僕にも『何故か』はわからないんです。一つ言えるのは、湖浜の霊を取り込んだんです。死なない為に」

「取り込んだ?」

 堂島は山の中腹を指さした。

「あそこで、僕は湖浜の霊圧に押しつぶされて、死ぬところでした。押し潰してくる霊圧に対抗するには、中と外の圧力を同じにするしかない」

「例えば、自分が自分でなくなってしまうとは思わなかったのか?」

 梁巣が他者の霊波の攻撃を『受け入れる』ことは思わない。どれだけ気持ちが受け入れようとしても、まず体が傷ついてしまう。

 押し潰してくる霊圧とは、梁巣や藤井の遠隔攻撃と同じだ。

 それを『取り込む』とは……

「体に隙間があったのか、相性が良かったのか」

「いや、わかった。いや、分かったわけじゃないが。とにかく、湖浜の野望はついえたんだな?」

 丸山が堂島たちに近づいてくる。

「丸山さん?」

 両腕を前に突き出すと、いきなり堂島の首を絞めた。

 後ずさった時に、足がもつれ堂島は仰向けに倒れた。

 丸山はそのまま堂島に馬乗りになる。

「おい、やめろ」

 梁巣は丸山を引っ張るが、びくともしない。

 堂島は丸山の手に触れると、丸山の中に残っている湖浜の霊を見つけた。

「!」

 見つけた霊にそっと手を差し伸べ、自身に引き入れる。

 丸山の中で何かが終わった。

 首を抑えていた腕から力が抜け、堂島に重なるように倒れ込んだ。

 目を閉じた丸山の顔と堂島の顔が触れる。

「ま、丸山さん!」

 彼女は疲れているのか、目を覚さない。

「誰か!」

 日が暮れようとしていた。


 沓沢が予想した通り、湖浜は有線放送電話に相当する施設を使って、地域一帯を催眠で眠らせていた。

 指示していた湖浜の力がなくなった為、次第に目を覚ましていった。

 タクシーの運転手が寝ていなかったのは、タクシー内にはその放送施設がなかった為だ。

 堂島は、中里のスマフォを霊視した。

 そして、芦田が残したファイルに辿り着いた。

 ファイルはクラウド上に保存されており、芦田のメールアカウントとパスワードでロックされていた。

 ファイルを解析し、パスワードを外すと、芦田が何に気づいたのか、中里が誰に殺されたのか等、ことの顛末が見えてきた。

 元々、和森が指揮をとり、施設の利用者を監禁し、儀式の生贄に使うつもりだった。

 誰に降霊するつもりだったのか、そこはどこにも書かれていない。

 だが、実際の段取りなどを、仕切っていたのは湖浜だった。

 湖浜は、和森が連れてくる人物に、その強大な力を奪われるのが惜しくなった。

 利用者失踪という危ない橋を渡っているのは、こっちなのに、大した報酬も貰えない自分が手を貸すのが耐えられなくなったのだ。

 和森は堂島たちを消してから、目的の人物を連れてきて降霊をするつもりだった。

 だが、堂島たちを処分出来ていないうちに、施設で爆発が起こった。

 和森は焦ったに違いない。

 何者かが爆発を起こし、儀式を完成させてしまったからだ。

 いや、和森には爆発を起こした張本人が『湖浜』に違いないことはわかっていただろう。

 後は、堂島たちが戦った通りだ。

 三人は堂島たちの活躍により逮捕された。

 動く死体として再利用された者たちも、静かな眠りについた。

 それにしても、この事件での死亡者数は、異常だった。

 現時点では、爆破された障がい者施設での死者数がはっきりしていないが、合計で七十人を超えるとみられている。

 和森、黒坪、湖浜は起訴され、裁判を経て報いを受けるだろう。

 だが、彼らがどれだけ厳しい罰を受けても、亡くなった人たちは帰ってこない。

 たとえ湖浜らを何度殺しても、殺し足りないだろう。

 翌日、堂島、丸山、梁巣、藤井は施設を訪れ、花を手向け、手を合わせて祈った。




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