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先鋭化

 死体についた霊は、次々と離されて行った。

 だが、人数が少なくなるにつれ、死体の動きが巧妙になってきた。

「死体をコントロールしているのは、黒ずくめの和森という男ですわ」

「北上さん、沓沢さん、和森の足を狙って撃ってよ」

 北上は首を横に振る。

「死体は『もの』だから撃てるけど、生きてる二人を撃つことは無理だ」

「抵抗しなければ殺されてしまうのですよ」

「いや、だめだ。よっぽどギリギリじゃないと」

 北上は首を横に振った。

「今がギリギリなのを理解していただけないのなら、仕方ないですわ」

 藤井は一歩前に出た。

(わたくし)は和森から梁巣さんを守ります。だから、できる限り死体を狙い、除霊してください」

「わかった」

 梁巣は藤井の後ろにまわった。

 そして、動く死体に繋がれた霊を断ち切り、倒し、除霊した。

「黒坪、あの女を狙え」

「狙ってますよ」

 黒坪の攻撃は、強かったが単調だった。

 藤井は攻撃を読んでいて、体の近くにくると最小の動きで弾いた。

「……」

 和森は考えた。

 単純な攻撃の繰り返しは、相手に余裕を与えてしまう。

 だからといって、黒坪に攻撃のリズムを変えろ、といってもすぐにできるものではない。

「もっと強く。一撃を強く放て」

 それしかない。

 強い攻撃を弾くには、正確性が必要になる。

 正確性を強いることは、相手の緊張感を高める。

 緊張感が続けば、疲労が進む。

 疲労は正確性を損ねる。

 和森は自らも攻撃を続けながら、藤井の疲労を待った。

「動く死体による数の有利がなくなってきたぞ」

「もっと一撃を強く! 強い攻撃を繰り出せ」

 体重を乗せた蹴り、さらに踏み込んだストレート・パンチ。

 回転してからの後ろ蹴り。

 黒坪は力を尽くした攻撃を続けた。

「パワーに押し負ける……」

「藤井さん、代わろう!」

 梁巣は、藤井との立ち位置を強引に入れ替えてきた。

「それは迂闊ですわ!」

 入ってきた梁巣は、黒坪の強い攻撃を潰そうとするあまり、和森へのケアをおろそかにしていた。

 間に合わないと判断した藤井は、再び左肩に攻撃を受けてしまった。

「くっ……」

 強い痛みが肩に入る。

 藤井の白いTシャツに、血が滲み出てきた。

「すまん!」

 梁巣は何度も藤井に助けられた自分を、情けなく思っていた。

 そして、必死に二人の攻撃を捌いていた。

「黒坪を無視して、和森を倒しますわ」

 藤井は左肩を庇いながら、左右の足を流れるように動かしながら、右手で掴むような動作を入れる。

 複数のフェイントを含めた、投げ技だった。

「梁巣さん、上から潰す攻撃を!」

 梁巣は体を跳躍させ、落下する勢いを使った拳の攻撃を放った。

「そんな攻撃に引っかかると思……」

 藤井の攻撃は、よほど波動が見えてないと読めないものだった。

 和森は、簡単に右足が浮き、あっさり軸足となる左足を払われた。

 間髪いれず、梁巣の叩きつける攻撃が襲う。

 避ける術はなかった。

「決まった!」

 梁巣は自分でやったことを自ら讃えるようにそう言った。

 和森は目を開けたまま、動きがとまった。

 だが、死んだわけではない。

 梁巣の攻撃で、降霊し和森の中にあった霊が完全に喪失した。その反動で気を失っているのだ。

 和森が制御していた動く死体が、停止した。

 そもそも、死体に動くための仕組みは何もない。

 霊が付いていても、制御元が止まれば立っていることを維持することすらできない。

 死体は、バタバタとその場に倒れていく。

 元の『動かない』死体に戻ったのだ。

「うぉおおお!」

 黒坪が叫ぶ。

 その声に藤井は左肩の痛みが強くなり、気が遠くなった。

 何かが黒坪に集まっている。

 ここに堂島がいたら、強い霊気が吸い上がるように黒坪に集まっているのを見ただろう。

 藤井にも全てではないが、見えていた。

「黒坪に霊が集まっていますわ」

 叫んだことで何かのスイッチが入ったとでも言うのか。

 黒坪の顔や腕、見えている部分に血管が浮き上がってきた。

 体格も、筋肉も、一回り大きくなっている。

 霊を吸い込んで、どれだけ違うモノになったのか、梁巣は考える。

 そして黒坪に対し、軽く攻撃を仕掛けた。

 ロー、ミドル、ハイ。

 次第に強くなるよう、蹴りを重ねる。

「……」

「避けねぇ気か」

 梁巣は黒坪に攻撃が入っている、という確信がある。

 しかし、様子だけ見ていると全く攻撃が入っていないかのようだ。

「おもしれぇ。ぶっ倒れるまで叩き込んでやる」

 黒坪が姿勢を低くした。

 直後、梁巣は黒坪を見失った。

「!」

 殺気を検知して、腕が自然と腹を庇っていた。

 手が触れる距離に、黒坪がいた。

 庇った腕に、黒坪の拳が当たっていた。

 黒坪は物理的な拳の攻撃に加え、霊気を拳に集中させ、超短距離の霊波を送り出していた。

 梁巣の体が『ブレ』た。

 同様に、一瞬だったが、全身の霊力が肉体と剥離するように『ブレ』た。

 霊と肉体の剥離は激しいダメージを作り出す。

 和森が気を失ったのと同じ理屈だ。

「……」

 梁巣は完全に気を失っていた。

 力が抜け、黒坪の拳に寄りかかっていく。

 黒坪は拳を引くと、支えるものがなくなった梁巣はアスファルトに倒れた。

「さあ、一対一になったな」

 藤井は黒坪を睨み返した。

 白いTシャツは左肩の出血で、半身真っ赤に染まっている。

「……」

 藤井に言葉を返す余裕はなかった。




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