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生き残る為の戦い

 三十五人の死体が道に放たれている。

 指揮する和森と追い立てる黒坪。

 追われているのは梁巣と藤井。

 状況不利とみて後ろに下がる藤井に気づく。

「待って藤井さん!」

 藤井の声に振り返った梁巣は、走って藤井を追った。

「危ないですわ!」

 梁巣は完全に敵に背を向けている。

 距離が離れているからと言って、背を向けてはいけない。

 この者たちは霊波による遠隔攻撃が可能なのだ。

 藤井は、梁巣の背中に黒坪の拳の連打が、飛んで来ているを察知した。

 そして梁巣を高く飛ばすように、投げをうった。

「わっ!」

 梁巣は不意に味方から受けた波動で、高く飛ばされる。

 黒坪の攻撃は、虚空を抜けていった。

「黒坪、小娘が先だ」

 和森と黒坪は、梁巣を飛ばした藤井のモーションが大きいのを見て、二人で藤井を狙った。

 和森の投げ、黒坪のローキックからのパンチ連打。

 二つの波動が、切れ目なく藤井に飛んでくる。

 藤井にもその様子は目に入っていた。

 空間を進んでいる時間は、とても短い。

 どう処理するか、素早く判断しなければならない。

 藤井は、投げを左右の手刀で斬って無効化し、黒坪の連打は左肩で受けた。

「くっ……」

 黒髪が乱れ、内側の紫の髪が切れた。

 肩に激痛が走る。

 顔は痛みに歪み、右手で肩を抑えた。

 梁巣が空中で姿勢を整え、着地すると、藤井の前に立った。

「男二人で女子を狙うのかよ、許せねぇ」

 黒坪が笑いながら言う。

「守れねぇお前が悪いんだろ」

 黒坪、和森の攻撃が続く。

 押され気味の梁巣、藤井は、攻める攻撃が出せず、防戦一方。

 次第に動く死体が近づいてくる。

「くそっ!」

「梁巣さん、前を向きながら下がるのですわ」

「はいっ。もう間違えません」

 二人は、動く死体と和森、黒坪を警戒しながら、ジリジリと後ろに下がる。

 距離を取っては、戦闘、距離を取っては戦闘を繰り返すが、状況は悪くなるばかりだった。

 藤井の肩のダメージは悪化するし、梁巣は中央駅からの疲労が重なってきて動きが鈍くなっていた。

「!」

 爆発音がした。

 黒煙が上がり、山の中腹、障がい者施設が燃え始めた。

 黒坪も、和森も、気になるのか後ろを振り返る。

 藤井と梁巣は黒坪と和森を攻めるが、動く死体が盾となり、届かない。

「黒坪、なんだあの爆発は」

「計画にはないものです」

「まさか……」

 和森は燃え上がる施設を睨みつけた。

「ならば、動く死体を処理するだけですわ」

「了解だ!」

 一度、壁になった動く死体が、同じ位置に散開するまでには時間がかかる。

 和森と黒坪の攻撃も、動く死体に当たってしまい、藤井たちに届かない。

 動く死体は、互いの攻撃を邪魔する壁なのだ。

「和森さん、死体をどかしてください」

 次々と除霊されて動かなくなっていく死体。

 和森は藤井たちを振り返る。

「……」

 死体の動きが活発になり、散開が加速した。

「許さん」

 そう口にした和森の顔は、怒りに歪んでいた。

 黒坪は何に怒っているのか、分からなかった。

 和森の怒りが、伝わるのか、死体の動きはさらに早くなった。

「梁巣さん、死体の様子が変わりましたわ」

 目の前の動く死体を除霊していた梁巣は、動きが早まった死体に囲まれていた。

「なっ、これは捌けな……」

 その時、火薬の炸裂音が響いた。

 銃声。

 何者かの銃弾が、死体に放たれたのだ。

 梁巣に手を伸ばしていた死体は、足を撃たれてバランスを崩す。

 死体は勢いよくアスファルトに叩きつけられた。

「北上さん、それに沓沢さんまで」

「口より手を、足を動かせ」

 沓沢が言った。

「相手が人数でくるなら、人数で押し返しましょう」

 北上は死体に向けて銃を構えた。

「死体には知性がありませんわ。頭を使って攻略しましょう」

 藤井は右足を引いた構えの状態で、そう言った。

 下がってきた梁巣が気づいた。

「ん? 堂島と丸山さんは?」

 北上は事情を話し始めた。


 丸山は車を運転しながら、言った。

「どうしよう、間に合わなかったら」

 堂島は助手席のドア上にある取手を目一杯の力で掴んでいた。

「間に合うことだけ考えて」

「炎の中、中里さんを助けるには、どうしたら……」

 堂島は言葉を返すにも丸山の運転が怖くて、考えが出てこない。

「たとえば水、水を被ってから、突入すれば」

「ガスは、有毒ガスは?」

 堂島はナビの指示を無視しそうな丸山に叫ぶ。

「そこ右!」

 激しいブレーキングとステアリングコントロールにより、車体がロールする。

 タイヤがキュルキュルと鳴った。

 曲がる中心側に体重をかけなければ、と堂島は瞬間的に思う。

 体を傾けるが、それがどれだけ効果があるかわからない。

 車の限界値あたりで十字路を曲がり切ると、丸山は再びアクセルを踏み込んだ。

「どこの教習所で習ったんですか?」

 よく考えれば、そもそも教習所でこんな運転は習わない。

「試験場で一発取り」

 動く死体で塞がれた道を迂回していた丸山たちは、ようやく元の道路に戻ってきた。

 そこを左折して、あとは障がい者施設まで一本道だ。

「そういえば、こういう山道、思い出すわ」

 車はオートマだったが、丸山はシフトレバーを『S』にいれた。

「な、何をです?」

「シャブの()連れていってもらって」

「えっ? シャブ?」

 話の流れから、『自動(じどう)車部(シャブ)』のことだろう。

 堂島の背中に冷たい汗が流れた。

「よくイニシャルBごっこしたのよね」

 公道でレースする、有名な自動車漫画だ。

「まさか……」

「いや、免許とってからよ。免許とる前はイオンとかの屋上駐車場でドリフトとか」

 待て待て待て待て……

 もしかしたら、この前、黒坪の赤いスポーツカーに抜かされた時、めちゃくちゃ悔しかったのではないか。

 今は全力で飛ばせる大義名分がある。

 ものすごいブレーキングでシートベルトに体が食い込む。

「頼むから事故だけは……」

「わかってるわよ!」

 しまった…… 火に油を注いでしまったか。

 堂島は心の中で、神に手を合わせた。




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