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警察署の混乱

 堂島たちを下ろして、北上と沓沢は警察署に急いでいた。

 北上はふと思ったことを口にした。

「さっきからずっと車とすれ違わないな」

 沓沢も同じような疑問を感じていた。

「歩道に人も歩いてない」

「無人になったってことですか?」

「わからん。とにかく何かある」

 沓沢はムッとした顔で外を見ているだけだった。

 車が進み、警察署についた。

 やはり同じように人気(ひとけ)がない。

 署に入ると、署内に静かなボリュームで音楽が流れていた。

 入っていくと、異変に気づいた。

「寝てる」

 椅子に座って、そっくり返っている者もいれば、机に突っ伏して寝ている者もいる。

 とにかく、見かける者は皆、寝ているのだ。

「この音楽はなんなんだ」

 沓沢はイラついて声を出した。

「誰かのパソコンか、スマフォから流れているのかと思ったけど、天井のスピーカーから流れてますよね」

「まだこの田舎には有線放送電話があるのか?」

 署の部屋の端にそれっぽい機械を見つけ、指差した。

「いや、ないですよ。俺の田舎にもあったらしいですけど、なくなりました。ほら、電源入ってないじゃないですか」

「災害用にIPでやってるって言うことはないのか」

「……かも知れないですけど、そんなことより起きている人を探すか、起こしてみましょうよ」

 北上は、寝ている署の連中を手で示した。

「この音楽、何か『イラつく』んだ」

 沓沢の言葉を無視し、北上は寝ている職員に呼び掛け、ゆすってみた。

 かなり激しく体を動かしたはずだが、起きる様子がない。

 声だって耳元で言われたら、大きなモノだったはずだ。だが、故意に目を閉じているとしか思えないほど、無反応だった。

「これは……」

 沓沢が言った。

「ネットで調べる限り、この地区には昔あった有線放送電話に相当するものがあるようだぞ」

 沓沢が珍しくスマフォで調べ物をして、北上に画面を見せていた。

「もう、そんなことはどうでもいいじゃないですか」

「署員が全員寝ているのに、俺たちはここに呼び戻された」

「急にどうしたんですか?」

「つまり、これは堂島たちの領域なんだよ」

 堂島たちの領域。

 つまり寝たまま起きない問題も、霊的案件だと言うことだ。

 北上はスマフォで堂島に電話を掛ける。

「堂島くん」

 北島は何度も呼びかけた。

「どうした?」

「一瞬出たんですけど、通話が切れました。何か息が荒かったです」

「何かあったな」

 二人は顔を見合わせる。

「戻りますか?」

「……署内がこれじゃ、俺たちを拘束するものもないしな」

 二人の視野に、人影が映った。

「!」

 同時に振り返った先には、制服の女性警官が立っていた。

「オマエラ、ナゼ、オキテイル?」

「馬場さん!」

 沓沢が北上の肩に手をかける。

「この()は操られてる」

「……けど」

「関わるな、これ(・・)も堂島たちの領域なんだよ」

 北上と沓沢は馬場を避け、急いで署の外に出た。

 北上が運転席につくと、堂島のいる中央駅に向けて車を走らせた。


 丸山は走れなくなって、歩いていた。

 堂島は、後ろを振り向き、悍ましい数の死体が動いているのを感じた。

「丸山さん、急いで。『動く死体』に追いつかれちゃいますよ」

「……だけど、もう走れない」

 堂島は思った。

 僕に藤井さんの力があれば、霊波で丸山さんを走らせることもできるだろう。

 だが僕には出来ない。

 襲ってくる『動く死体』を除霊することも……

 出来るのは霊視することだけ。なんて無力なんだろう。

 丸山が堂島の手を握ってきた。

「落ち込まないで」

「えっ? 僕、何も」

「なんか、そんな気がした」

 そんなに暗い顔をしていたのだ、と堂島は思い、余計に落ち込んだ。

「大丈夫、本当に大丈夫な気がする」

「ええ、丸山さんがそう言うなら」

 堂島は丸山の手を握り返して、見つめた。

 その時、閃光が走った。

 雷のように明るくはない。

 だが、轟音が響いた。

 二人は一斉に山を振り返る。

 山の中腹、あの『障がい者施設』があるあたりに、炎が、真っ黒な煙が立ち上っていた。

「なんだ……」

「爆弾でも落とされたような」

 相当な距離があるのに、見えてしまうほど強い霊気。

 炎の中で、たくさんの人が、死に向かっている。

 利用者、職員、生けるものの霊に混じって、何かが降りてくる。

 強く、見たことがないほど、大きな霊。

「誰が、なんのために、こんなこと……」

 呆然と山を見ている堂島の横で、黒いワンボックスが止まった。

「堂島くん!」

「なんだ今の音は」

「ほら、あれ、施設が燃えています」

 北上が車から身を乗り出して、山を見た。

「大規模な爆発!?」

 黒々とした煙の下に見える紅蓮の炎は、山をも焼き尽くしそうだ。

 北上は前を見る。

 遠くに大きなトラックが道を塞ぐように止まっている。

 手前に蠢く人々が見える。

「あっちは」

「施設利用者と思われる死体が、霊によって動かされています」

 堂島は言いながら考えた。

 ここにいるのは黒坪と和森だ。逆に言えば、爆発のあった施設にはいない。

 では何故、施設で爆発が起きている? 誰が、何の為に施設を爆破した? それともただの事故なのか? そもそも爆発するものが施設にあっただろうか?

「死体が動いていると言うのか。署内の人間は皆寝ていると言うのに」

「えっ?」

 堂島が聞き返すと、沓沢は言った。

「何が何だかわからないよな。署内には妙な音楽が流れていて、まるで寝たふりをしてるかのように動きが止まっている」

「妙な音楽?」

 堂島は思い出していた。民泊の部屋でもWiーFiルーターの近くに変な機械があって、そこにスピーカーがついていた。

 日中部屋にいない堂島たちは、音楽については聞き覚えがなかった。

「それって地域の放送施設ではないですか? 民泊の部屋にもありました」

 丸山が言った。

「中央駅周辺だっておかしかったじゃない。周辺の店も人が動いている気配がなかった」

 沓沢は懐疑的だった。

「地域の災害用放送施設を使って住民を眠らせた? それが可能だとして誰が、何の目的でやったと言うんだ」

 堂島は考えた。僕たちを邪魔しようとしている、生ける死体を動かしても騒ぎにならないようにするため、広域の住民を眠らせた。それしか思いつかない。

 いや、違う、あの爆発。

 施設の利用者や職員を眠らせ、あの爆発で殺そうと…… 

「まさか、障がい者施設でもこの放送を流して」

 丸山が反論する。

「大丈夫、中里さんからは『さっき』メッセージが来たじゃない」

「そ、そうですよね」

 けれど、それは爆発前だ。

 ひょっとするとさっきの爆発に巻き込まれてしまったかもしれない。

「!」

 その時、LINKメッセージの着信音がした。

 丸山と堂島は、ほぼ同時にスマフォのメッセージを確認した。

『お願い助けて!』




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