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カラクリの紐

 白い長袖のTシャツに、赤いパンツ。

 異国の『巫女』スタイルのようだ。

 髪は長く、内側だけ紫に染めている。

 彼女は、藤井(ふじい)玲香(れいか)

 堂島の親戚で除霊を仕事にしている霊能家だった。

 彼女は駅舎から出ると、すぐに梁巣を囲む死体の襟首を掴んだ。

 右手で一人、左手にもう一人。

 勢いよく腕を引くと、死体が回転しながら吹き飛ぶ。

 梁巣を囲んでいた五人のうち、二人を引き剥がされたおかげで、梁巣は楽になった。

 一人を蹴り倒し、首を絞めていた一人も、腕を掴んで投げ飛ばした。

「藤井さん! 助かった」

「これは何なのです? なぜ死体が動いているのですか?」

「堂島が見たところだと曰く、操り人形の様な霊だと」

 梁巣は最後までまとわりついている死体を振り払った。

 藤井が引き倒した死体から、順番に立ち上がる。

「さっき、丸山さんについていたのと同じもの、ですね」

「えっ、丸山さんについていたのは落ちたはずじゃ」

「いいえ、憑いていました」

 藤井は手刀を振り下ろす。

 すると、届かない場所にいる動く死体の方に、打撃が当たる。

 立ち上がった動く死体は、膝をついてしまった。

 藤井は梁巣と同じ、霊の波動で戦う技の使い手なのだ。

「なら、こうしましょう。体に打撃を与えても何もならないですわ」

「えっ?」

 梁巣は思った。正しいやり方がわかることもそうだが、なぜ俺がやったことを見てもいないのに、俺が体に打撃を与えたと分かったのか。

「本当に紐で吊っている訳じゃないですが、この霊は体の周りについているのです」

 藤井は右足を引き、手を自然に開いた形で下ろして構えた。

 彼女は合気道を基礎とする技を使う。

「頭、腕、足、見えないかもしれないけど、私は感じますわ」

 梁巣は頷いた。

「こう」

 動く死体の腕を掴み、足を掛けて倒すイメージで素早く動いた。

 同じ波動が、その死体へと届く。

 見えない霊の紐が、絡まって消えるのが見えた。

 何もいないその場で、藤井は、倒れた死体に掌底を突き下ろす動作をした。

「!」

 一つの死体から、憑いていた霊が消えた。

 梁巣に霊が見えるのではない。感じるのだ。

「よし」

 梁巣は確信した。

 感じているその霊の狙って、波動を流す。

 それでいいのだ。

 考えるな、感じろ。

 彼は何度も自身の心に言い聞かせた。

「いけっ!」

 右足を素早く上に振り上げ、その位置から膝をたたみ、今度は左下へ蹴り下す。

 頭を避けて、体の表面を掠めるような蹴り。

 波動が届くと、動く死体がフラフラと膝をつき、次に顔面から倒れた。

「そう、その感じですわ」

 梁巣も藤井と同じように拳を真下に突き、倒れた死体から完全に霊を祓った。

「後三体」

 (ぎょ)しかたが分かってしまえば、梁巣にとって動く死体の処理は簡単だった。

 ぼんやりとだが感じる、その紐のような霊を断ち切り、断ち切った後は憑いた霊を落とすだけだ。断ち切ってないからいくら本体を落としても紐から注がれてしまうのだ。

 うさを晴らすように、大きく体を使って霊の紐を断ち切っていく。

「俺は紐を切る、藤井さんは……」

「除霊すればいいのですね」

 流れ作業のように紐を切り、本体を除霊する。

 三体の動きは止まり、それぞれ『死体』に戻った。

 それを待っていたかのように、駅舎から丸山と堂島が出てくる。

 動いていた(・・・・・)死体を見て堂島が言う。

「この遺体が来ている服、あの施設の利用者のモノですよね」

 丸山が遺体を見て言う。

「かなり血で汚れているけど、そうだと思うわ」

 動かない(・・・・)死体を見て藤井がそれに続ける。

「梁巣くんがどれくらい傷めつけたかは知らないけど、この様子だと」

「何が言いたい」

 梁巣はムッとしていた。

「遺体の方々は、生前からイジメられていた可能性があります」

「確かにたくさん傷があるけど、これ服の上からしてる。とすれはこれは『イジメ』じゃないんじゃない?」

 堂島は同意した。

「丸山さんの言う通りだよ。流石に服の上から『イジメ』をするのかな。服が切れていたらバレちゃうじゃない」

「イジメじゃない、別の目的で傷をつけるとなると……」

 そう言うと藤井は死体についている『古い傷』のつきかたを調べていく。

「透さん、梁巣さん、遺体をこうやって並べて」

 藤井は遺体を、頭を中心方向にし、扇形に並べるよう指図した。

 堂島は顔を背けながらも、梁巣と協力して遺体を並べた。

「ほら、ここ、そして、ここの傷が繋がってる」

「……ごめん、どういうこと。僕、呪術の知識がなくて」

「彼らは降霊の儀式の生贄に使われた可能性がある。生きている時から操り人形のように動かされていたんじゃないかしら」

 それを聞いて、堂島は寒気がした。

 今日、施設で利用者の点呼をした。

 その時、利用者はまさに今言った『操り人形』よろしく動かされていた。

 最終的に失踪という形で姿を消した利用者を、操り人形としてこれいの生贄に使っていたとしたら……

「とんでもないぞ」

「この傷の感じだと……」

 五人で作った扇が、綺麗な円を描くために必要な人数を推定した。

「四十人ぐらい必要ね」

「まだ三十五人の『動く死体』がいるってこと?」

 藤井は首を横に振った。

「それも問題なんだけど、使った生贄の数は、降霊しようとしている霊の強さと比例するのよ」

「誰がそんなことを考えてるんだ……」

 その時、堂島のスマフォが鳴った。

 LINKにメッセージが入った音だ。

 丸山も、メッセージに気づいたようだった。

 確認すると『中里(なかざと)』からのメッセージだった。

「丸山さん!」

「これって、殺された芦田が、失踪の秘密について何か情報を得ていたんじゃないか、ってやつよね」

「会って話せないかって」

 丸山がメッセージを打ち返している。

「中里さんの勤務が終わってから会えないか連絡しといたわ」

「もしかしてこれで誰が利用者を失踪と見せかけて生贄に使っていたか、わかるかもしれない」

 それは黒坪なのか、和森なのか。

 そして、利用者を生贄にして、何をしようとしているのか。

 施設職員の中里が謎を解く鍵を与えてくれるに違いない。




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